ヴァイオリン・ソナタ第9番イ長調《クロイツェル》——後期につながる超重要作品!
生誕250年にあたる2020年、ベートーヴェン研究の第一人者である平野昭さん監修のもと、1日1曲ベートーヴェン作品を作曲年順に紹介する日めくり企画!
仕事終わりや寝る前のひと時に、楽聖ベートーヴェンの成長・進化を感じましょう。
1800年、30歳になったベートーヴェン。音楽の都ウィーンで着実に大作曲家としての地位を築きます。【作曲家デビュー・傑作の森】では、現代でもお馴染みの名作を連発。作曲家ベートーヴェンの躍進劇に、ご期待ください!
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
後期につながる超重要作品! ヴァイオリン・ソナタ第9番イ長調《クロイツェル》
《クロイツェル》という名前は、このソナタがロドルフ・クロイツェル(1766〜1831年)に献呈されたことに由来します。しかし、クロイツェルは1回もこの作品を演奏することはありませんでした。
イギリスの名ヴァイオリニスト、ジョージ・ブリッジタワーがウィーンにやってくるということで作曲され、初演もブリッジタワーによって行なわれました。彼に献呈されなかった理由は、ある女性をめぐってベートーヴェンと喧嘩をしたことだと言われています。
平野 1803年に作曲された《クロイツェル》ですが、江戸時代に突然洋服を着た人が登場したような驚きがありますよね。1787(もしくは8)年に「ヴァイオリン・ソナタ第1番」Op12-1を書いてからたった5年ちょっとで、追求していた理想とするものに早くも到達したのです。
小山 この時期にベートーヴェンがやっていたことは、実験的なソナタ創作による改革ですよね。色々なジャンルのものが積み重なっているというか……ピアノでやったものがヴァイオリン、ヴァイオリンでやったものが室内楽や交響曲になって。だからこそピアノ・ソロの作品がゆっくりと進化したのかもしれません。
平野 そこがベートーヴェンの凄さの重要なところでもあります。普通の作曲家ならば、ヴァイオリン・ソナタで試した新しいことはヴァイオリンの曲の中で、ピアノ・ソナタで試したことはピアノの曲の中に現れるものですが、ベートーヴェンの場合はそれが越境し、他ジャンルの中で実験したものが別のジャンルの作品で活かされているのです。だからこそ、より彼が革新的な人であることが見えてくると言ってよいでしょうね。
——小山実稚恵、平野昭著『ベートーヴェンとピアノ「傑作の森」への道のり』(音楽之友社)137,142ページより
初めてヴァイオリン・ソナタに取り組んでから、5年という月日を経て作曲された《クロイツェル・ソナタ》。この作品のピアノ・パートには、後期のピアノ・ソナタに匹敵する充実した内容が見られるそうです。ブリッジタワーがウィーンに来ると知ってから初演までの期間はわずか2ヶ月。あらゆる面からベートーヴェンの才能が感じられる傑作です。
ヴァイオリン・ソナタ第9番イ長調《クロイツェル》Op.47
作曲年代:1802/03年(ベートーヴェン32/33歳)
出版:1805年4月
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