「お前の幸せな時には」——サリエーリの教えが実を結んだオペラ風二重唱
生誕250年にあたる2020年、ベートーヴェン研究の第一人者である平野昭さん監修のもと、1日1曲ベートーヴェン作品を作曲年順に紹介する日めくり企画!
仕事終わりや寝る前のひと時に、楽聖ベートーヴェンの成長・進化を感じましょう。
1800年、30歳になったベートーヴェン。音楽の都ウィーンで着実に大作曲家としての地位を築きます。【作曲家デビュー・傑作の森】では、現代でもお馴染みの名作を連発。作曲家ベートーヴェンの躍進劇に、ご期待ください!
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
サリエーリの教えが実を結んだオペラ風二重唱「お前の幸せな時には」
「幸せな時には僕を思い出してくれ」「どうしてそんな風におっしゃるの、愛しいあなた、なぜなの?」「ああ、話すことで君は僕の心を傷つけている」「ああ、何もおっしゃって下さらないことで、あなたは私の心を傷つけている」。声を和して「これほどひどい苦しみ、これほどつらい悲しみを、かつてだれが感じただろう」。
ヴィヴァルディ、ペルゴレージ、パイジェッロ、カルダラなど多くの作曲家がオペラ化したピエトロ・メタスタージオ作のオペラ台本《オリンピアーデ》からとられた歌詞に作曲されている。楽譜に明記はないが、おそらくメガクレス(テノール)とアリステア(ソプラノ)の二重唱。
1802年暮れから1803年初頭にかけて作曲されたもので、イタリア語のオペラ創作に関してアントニオ・サリエーリに師事した成果のひとつ。もう、これは立派なオペラの二重唱だ。ホ長調のアダージョで、優しく歌いかわされてゆく音楽は、ホ短調のアレグロになってから感情の高揚を見せる。
解説:平野昭
タイトルは元来「お前の幸せな日々に」とされることが多いのですが、今回は平野さんのこだわりで「お前の幸せな時には」としました。
確かに”Ne’ giorni tuoi felici”は「お前の幸せな日々に」と訳せるのですが。気持ちがちぐはぐしている恋人同士の会話の流れからすると、「たまには俺のこと思い出してくれよ!」という雰囲気です。giorni(日々)は「そんな日には……」とニュアンスですので「そんな時には……」と訳しました。
イタリア出身のサリエーリ師匠からの教えを結実させた、オーケストラ伴奏による美しい二重唱です。サリエーリは人気オペラ作曲家でもありましたので、ベートーヴェンもオペラ作曲について多くのことを学んだのでしょう。この曲から約1年後、ベートーヴェンは唯一のオペラ《フィデリオ》(当初は《レオノーレ》)を発表することになります。
ベートーヴェンの曲の70年ほど前、同じ歌詞に作曲されたヴィヴァルディの作品も併せて聴いてみましょう。
「お前の幸せな時には」 WoO93
作曲年代:1802~03年(ベートーヴェン32~33歳)
出版:1939年
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