「ピアノ・ソナタ第28番 イ長調」——初めて「ハンマークラヴィーア」と表記された作品
生誕250年にあたる2020年、ベートーヴェン研究の第一人者である平野昭さん監修のもと、1日1曲ベートーヴェン作品を作曲年順に紹介する日めくり企画!
仕事終わりや寝る前のひと時に、楽聖ベートーヴェンの成長・進化を感じましょう。
ウィーン会議、ナポレオンの没落......激動のウィーンで43歳になったベートーヴェン。「不滅の恋人」との別れを経て、スランプ期と言われる時期を迎えますが、実態はどうだったのでしょう。
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
初めて「ハンマークラヴィーア」と表記された作品「ピアノ・ソナタ第28番 イ長調」
1817年1月9日から同23日までの間にベートーヴェンは出版社のジークムント・アントン・シュタイナー本人(陸軍中将殿)、あるいは番頭頭のトビアス・ハスリンガー(優れた副官殿、あるいは、帝国第二ごろつき野郎殿)宛てに10通(BB1060〜61、63〜69、71)の手紙を書いている。作品出版についてさまざまな意見を述べたものだが、再三繰り返される興味深い注文がある。要約すれば「これ以降、全ての我々の作品ではドイツ語によるタイトル表記とし、ピアノフォルテに代わってハンマークラヴィーアと表記すべし。我らが最良の陸将ならびに副官および全関係者は直ちにこの指令を実践に移されたし」というものだ。総司令官からのこの指令が最初に身を結んだのは、1817年2月にエルトマン男爵夫人ドローテア・カタリーナ(1781〜1849)への献辞をつけて初版刊行されたピアノ・ソナタ「イ長調」作品101だ。今日では「ハンマークラヴィーア・ソナタ」といえば作品106の代名詞のように思われているが、作品101以降のピアノ曲初版譜では「ハンマークラヴィーアのための」という表記が一貫して見られる。
——平野昭著 作曲家◎人と作品シリーズ『ベートーヴェン』(音楽之友社)154ページより
今日《ハンマークラヴィーア・ソナタ》という名で親しまれている「ピアノ・ソナタ第29番 変ロ長調」は後日ご紹介しますが、「ハンマークラヴィーア」という表示が最初に使われたのはこの作品101だったようです。
「ピアノ・ソナタ第27番 ホ短調」作品90とともに、平野さんによって「ロマンティック・ソナタ期」と名付けられた時期に書かれました。静かで叙情的な旋律が印象的です。
「ピアノ・ソナタ第28番 イ長調」Op.101
作曲年代:1816年(ベートーヴェン45歳)
出版:1817年2月シュタイナー社
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