「ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調」——実は最後に完成されたソナタ? バロックからの影響を受けた声楽的作品
生誕250年にあたる2020年、ベートーヴェン研究の第一人者である平野昭さん監修のもと、1日1曲ベートーヴェン作品を作曲年順に紹介する日めくり企画!
仕事終わりや寝る前のひと時に、楽聖ベートーヴェンの成長・進化を感じましょう。
1800年、30歳になったベートーヴェン。音楽の都ウィーンで着実に大作曲家としての地位を築きます。【作曲家デビュー・傑作の森】では、現代でもお馴染みの名作を連発。作曲家ベートーヴェンの躍進劇に、ご期待ください!
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
実は最後に完成されたソナタ? バロックからの影響を受けた声楽的作品「ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調」
ベートーヴェンが3曲セットで作曲した最後のピアノ・ソナタ集、本日は2曲目「ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調」をご紹介します。
この作品、取り掛かったのも、自筆譜の完成の日付(1821年12月25日のクリスマス)も32番よりも先ですが、いったん完成したあとも、最終楽章に手を入れ続けました。現在の形になったのは32番完成の数日後。つまり、ベートーヴェンが最後に完成させたピアノ・ソナタということになります。
「嘆きの歌」と題された歌謡的な部分と、フーガが交互に現れる第3楽章はかなり複雑。ベートーヴェンの自筆譜にはかなりの修正の跡があるそうです。
小山 緻密な対位法書法にはバッハからの影響が見られますが、特にOp.110(ソナタ第31番)などは、声楽的な要素を強く感じます。第3楽章の「嘆きの歌」などは、ヘンデルのオラトリオのような雰囲気もあるような……。
平野 ベートーヴェンは晩年、オラトリオを書きたいと思っていて、《第九》を書いた後はオラトリオの作曲をするために、イギリスからヘンデルの全集を取り寄せているのです。届いたのは亡くなる直前だったので、それは実現しませんでした。
——小山実稚恵、平野昭著『ベートーヴェンとピアノ 限りなき創造の高みへ』(音楽之友社)123ページより
今までにないほど、声楽的・叙情的な表現が目立つ最後のソナタ集。ベートーヴェンは、最後の時まで、新しい表現を求めていたのですね。
「ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調」op.110
作曲年代:1821〜22年(ベートーヴェン51歳)
出版:1822年7月シュレジンガー社、シュタイナー社、アルタリア社他同時出版
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