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2020.12.02
おやすみベートーヴェン 第353夜【最後の10年】

「交響曲第9番ニ短調《合唱付き》」第4楽章——初演は熱狂的なアンコールで警察が出動

生誕250年にあたる2020年、ベートーヴェン研究の第一人者である平野昭さん監修のもと、1日1曲ベートーヴェン作品を作曲年順に紹介する日めくり企画!
仕事終わりや寝る前のひと時に、楽聖ベートーヴェンの成長・進化を感じましょう。

48歳となったベートーヴェン。作品数自体は、これまでのハイペースが嘘のように少なくなります。しかし、そこに並ぶのは各ジャンルの最高峰と呼ばれる作品ばかり。楽聖の「最後の10年」とは、どんなものだったのでしょう。

ONTOMO編集部
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神楽坂を拠点に、取材・編集作業をしています。

監修:平野昭
イラスト:本間ちひろ

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初演は熱狂的なアンコールで警察が出動「交響曲第9番ニ短調《合唱付き》」第4楽章

4日連続でお送りしてきた「交響曲第9番ニ短調《合唱付き》」。最終日の今日は、フィナーレの第4楽章です。

合唱を含む大作のため、声楽とオーケストラの合同練習など、通常の数倍の入念なリハーサルが行なわれ、遅れに遅れた初演。当日の会場はどんな様子だったのでしょうか。プログラムとともに見てみましょう。

春と初夏の花が一斉に開花するウィーンの5月はまさに「麗しの5月」である。7日夕刻7時、満席のケルントナートーア劇場に《献堂式》序曲が鳴り響いて演奏会が始まった。《ミサ・ソレムニス》からの3つの大賛歌(〈キリエ〉〈クレド〉〈アニュス・デイ〉)が劇場空間を敬虔な空気で満たした。そして「第九」。第2楽章の後にも会場から拍手が沸き起こった。

——平野昭著 作曲家◎人と作品シリーズ『ベートーヴェン』(音楽之友社)187ページより

現代ではあまり歓迎されない、楽章間の拍手。当時は普通のことだったようです。そして、有名な「歓喜の歌」を含む終楽章の演奏が終わると……

終楽章の演奏が終わっても指揮者ウムラウフの脇に立ってスコアに見入っていたベートーヴェンの背後では、満場の客席から熱狂的な喝采と拍手が沸き起こっていた。アルトのウンガー譲に促されて客席に向き直ったベートーヴェンに対して喝采は一段と大きくなった。聴衆の多くが「ヴィヴァート!(万歳!)」と声を掛け、ステージ上にベートーヴェンを4回も呼び出し、さらにもう一度アンコールの拍手が響き出したとき警察官が「静粛に!」と叫び、アンコールを中止させた。当時の習慣では皇帝を迎え入れる歓呼でさえも3回までであった。

——平野昭著 作曲家◎人と作品シリーズ『ベートーヴェン』(音楽之友社)187ページより

まさに大勝利といったところ。不朽の名作、誕生の瞬間でした。

しかし、この演奏会の収益は劇場使用料や、出演者のギャラ、楽譜制作費などを差し引くと微々たるものだったようです。半月後、初演の候補会場だったアン・デア・ウィーン劇場での再演は、行楽日和の日曜日の午後にあたり、客入りは半分にも満たず。さらに、爵位を期待して「第九」を献呈したプロイセン王からの返礼は偽ダイヤ……(ベートーヴェンとプロイセン王の偽ダイヤ事件)。

今なお愛される名作は、少なくとも収入的には、ベートーヴェンを満足させてくれなかったようです。

作品紹介

交響曲第9番ニ短調《合唱付き》

作曲年代:1818年、22~24年2月(ベートーヴェン48歳、51〜53歳)

出版:1826年8月ショット社(マインツ、パリ、アントワープ)

平野昭著 作曲家◎人と作品シリーズ『ベートーヴェン』(音楽之友社)
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神楽坂を拠点に、取材・編集作業をしています。

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