特集「ハロウィン」

魔女は歌うのだろうか? 幽霊は? ハロウィンに聴きたい! 厳選・魔物プレイリスト

プレイリスト
2018.10.12

古今東西、人々の想像力を刺激する魔女や魔物たちは文学や絵画、そしてクラシック音楽の中にも数多く登場します。そんな怖い名曲の数々を、小阪亜矢子さんが集めてくれました。
クリスマス・ソングには有名なものがたくさんありますが、これを機にハロウィン・ソングをあなたの人生にONしてみてはいかが?

小阪亜矢子 声楽家・翻訳家
小阪亜矢子
小阪亜矢子 声楽家・翻訳家
東京藝術大学声楽科卒業。尚美ディプロマ及び仏ヴィル・ダヴレー音楽院声楽科修了。声楽を伊原直子、中村浩子、F.ドゥジアックの各氏に師事。第35回フランス音楽コンクール第...

ハロウィン・パーティが日本で市民権を得て久しいが、クリスマスと異なり、ハロウィン演奏会というものはあまり聞かない。しかし、魔女はよく歌う。そもそも、まじないや儀式には音楽が不可欠だ。よって、音楽作品に魔女はよく登場している。

作者不詳の魔女の宴「サバト」の様子を描いた絵画(16~17世紀)

オペラで歌う魔物たち

ヘンデル:《アルチーナ》より 「ああ、私の心よ」

魔女が主役のオペラといえば、ヘンデル《アルチーナ》がそうだ。美貌の魔女アルチーナは若者ルッジェーロをたぶらかし、2人で魔法の島で情欲に耽る。が、やがてルッジェーロは目を覚まし、婚約者の元へ帰ってしまう。魔女の目にも涙、という場面で歌われるのが、イタリア古典歌曲集でもおなじみの「ああ、私の心よ」である。

ヘンデル:《リナルド》より 「私を泣かせてください」

同じくヘンデルの有名曲「私を泣かせて下さい」も魔女が関わっている。こちらは魔女アルミーダに、自分の恋人リナルドを捕われたヒロイン、アルミナーレが歌うものだ。

リュリ:《アルミ―ド》より 「とうとう彼は私の手に」

アルミーダとリナルドの話は、多くの音楽作品の題材になっている。
フランスのリュリによるオペラ「アルミード」は魔女のほうが主役。彼女は力を駆使して強敵ルノー(リナルド)を殺すつもりが、恋に落ちてしまう。

しかし、こちらでもルノーは最後には魔女の元を去る。美貌も権力も能力もあるのに、恋にだけは破れる魔女や女王は、特にバロック時代に好んで用いられたヒロイン像だ。

パーセル:《ダイドーとエネーアス》

この種の有名な話にパーセルのオペラ《ダイドーとエネーアス》がある。
しかしダイドー本人は魔女でなくカルタゴの女王で、ここでは魔法使いと2人の魔女が主役の運命を狂わせる。この3人は悪役然とコミカルに歌い踊り、悲劇の女王を際立たせている。

魔女は脇役として悪事を働くほうが魔女らしいのかもしれない。

魔法使いの登場

魔女の二重唱

フンパーディング: 《ヘンゼルとグレーテル》より 第3幕 魔女のアリア

近代の魔女活躍オペラといえば、フンパーディング「ヘンゼルとグレーテル」。お菓子の家も登場し、ハロウィンにぴったりだ。前半は兄妹の可愛らしい二重唱や父母のキャラクターが印象的だが、第3幕は魔女の独壇場だ。高笑いし、子供を幽閉し、最後にはかまどで焼かれて死ぬ。魔女の鑑だ。

モーツァルト: 《ドン・ジョヴァンニ》より 第2幕フィナーレ「お前の夕食に招かれて来たぞ」

魔女以外の物の怪はどうだろう。と、思ったら超有名オペラに幽霊が登場していた。モーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》の騎士長だ。序盤でドン・ジョヴァンニは若い娘ドンナ・アンナに夜這いをかけ、その父親である騎士長を決闘の末、殺してしまう。その騎士長を型取った石像がラストで動き出し、ドン・ジョヴァンニを地獄へ落とす。

ブリテン: 《ねじの回転》より 第2幕 間奏曲8~第1場「対話と独白」

ブリテン作曲のオペラ《ねじの回転》は幽霊をめぐる話だ。ゴシック・ホラー味あふれるヘンリー・ジェイムズの原作と、ブリテンの透明かつ闇を帯びた響きが相まって、完全に恐怖オペラである。幽霊登場シーンだけでなく、子どもが歌う儀式めいた歌や、間奏曲、乾いたチェレスタの響きなどが、絶えず観客の不安をあおる。

イタリアの画家ニコロ・デッラバーテ作「ルッジェーロを迎え入れるアルチーナ」(1550年頃)
イギリスの挿絵画家アーサー・ラッカムによる「ヘンゼルとグレーテル」(1909年)

歌曲で味わう魔物たち

オペラの紹介が続いたが、歌曲の世界でも魔女や魔法使いは活躍している。

メンデルスゾーン: 「もう一つの五月の歌(魔女の歌)」

メンデルスゾーンの「もう一つの五月の歌(魔女の歌)」ではサバトの風景を音だけで楽しめる。

水の精たちも忘れてはいけない。歌で船を沈めるローレライや、人魚などだ。「ローレライ」の題ではクララ・シューマン、リスト他多数の作曲家が歌曲を書いているし、“なじかは知らねど” の邦訳でおなじみのシルヒャーの合唱曲もある。

リスト: 「ローレライ」

クララ・シューマン: 「ローレライ」

シルヒャー: 「ローレライ」

ハイドン: 「人魚の歌」

水の精はロマン派の専売特許かと思いきや、ハイドンも「人魚の歌」を書いている。“ついておいで……”とハ長調で呼びかける様子は、底抜けに明るく、却って怖い。

シューベルト: 「魔王」

明るく呼びかける有名な魔物がいる。何をかくそう、ゲーテ詩/シューベルト作曲の「魔王」だ。Erlkönigというのはハンノキの精霊で、子どもを連れ去るという伝承がもともと存在したようだ。

不穏な様子で始まるが、魔王の子どもに対する口調は甘く優しい。悪は明るさと優しさを装ってやってくるのだ。

ラヴェル: 《3つのシャンソン》より 第3曲「ロンド」

最後は魑魅魍魎の団体戦。ラヴェルのアカペラ合唱曲《3つのシャンソン》の「ロンド」だ。森に棲むあらゆる妖怪・妖精の名が挙げられ、”だから森ヘは行くな”と歌われる。

お気に入りの魔物は見つかっただろうか? 今年はぜひ耳で、あるいは歌ってハロウィンを楽しんでもらえたらと思う。

明るさを装った本物の悪にはくれぐれもお気をつけて。

まとめて聴くにはこちらから

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