プレイリスト
2021.01.01
1月の特集「宇宙」

2021年宇宙名曲の旅〜ホルストの《惑星》から銀河系、アンドロメダまでめぐる

新春ONTOMO宇宙ツアー!
月、太陽系の惑星、銀河系、そしてアンドロメダ……宇宙を題材にしたクラシック音楽の名曲で、宇宙をぐるっとひとめぐり。ホルストの傑作《惑星》以外にも、エストニアの作曲家シサクスやアメリカの作曲家ホヴァネスによる隠れた名曲も登場します。

宇宙への案内人
飯尾洋一
宇宙への案内人
飯尾洋一 音楽ライター・編集者

音楽ジャーナリスト。都内在住。著書に『はじめてのクラシック マンガで教養』[監修・執筆](朝日新聞出版)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『R40のクラシッ...

©Alex Myers

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広大無辺の宇宙空間は、作曲家たちに豊かなインスピレーションをもたらしてきた。空へ、大気圏外へ、そして星々へ。地球から出発して、はるか彼方の銀河へと名曲とともに旅してみよう。

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オッフェンバックがSF小説を題材に月旅行にいざなう

まずは、もっとも身近な星、月から。人類が地球以外で唯一、足を踏み入れた星であるにもかかわらず、意外にも月を題材とした名曲は少ない。

「いやいや、ドビュッシーの『月の光』とかベートーヴェンの『月光』とか、いくらでもあるでしょ?」

そう思われるかもしれないが、違うのである。あれは地上にふりそそぐ月の光を題材にした曲。天体としての月を扱っていない。

そこで挙げたいのが、オッフェンバックの喜歌劇《月世界旅行》。あのジュール・ヴェルヌの古典SF『月世界旅行』を題材としているのだから、これこそ「月名曲」だ。珍しい作品なので舞台上演に触れるチャンスはなさそうだが、録音ではマルク・ミンコフスキ指揮レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルの演奏によるバレエ音楽集がリリースされている。

「SFの父」と評されるジュール・ヴェルヌ(1828〜1905年)。
『海底2万マイル』や『80日間世界一周』など、数多くの傑作を生んだ。
(1878年頃に飛行研究家のフェリックス・ナダールが撮影した写真)

ホルストの名曲で太陽系をめぐる

月に続いて向かうのは、火星をはじめとする太陽系の惑星たち。となれば、ホルストの組曲《惑星》という決定的な名作がある。

まず「火星」ではじまって、「金星」「水星」と太陽に近づき、続いて「木星」「土星」「天王星」「海王星」と外惑星を巡る太陽系の旅。

後半はだんだん太陽から遠ざかっていくので、ついボイジャーのような探査機を思い浮かべてしまうが、実はホルストがイメージしていたのは占星術的な宇宙観。作曲者に天文学的な興味はなかったかもしれない。

だが、それでも組曲《惑星》を収録したアルバムの多くでは、土星や木星などのイラストがジャケットを飾り、宇宙の旅を連想させる。作曲者のイメージを超えて、わたしたちはこの曲に宇宙を感じているのだ。

ホルストの《惑星》イメージ図。

不遇の作品?! 「冥王星」のポジション

ホルストの《惑星》は、「海王星」で静かに終わる。現在、太陽系のもっとも外側の惑星は海王星ということになっているので、これは現代の惑星観に合致している。しかし、かつては冥王星がもっとも外側の惑星とみなされてきた。惑星の定義を見直して、冥王星が惑星から準惑星に降格(?)したのは、つい最近、2006年の話だ。ホルストが「冥王星」を書かなかったのは、作曲時点で冥王星が発見されていなかったからにすぎない。

2000年、イギリスの作曲家コリン・マシューズは、ホルストの《惑星》を補完するために、新たに「冥王星」を作曲した。当時、この曲は興味深い試みとして話題を呼んだが、冥王星が惑星の座を失ってしまった今、この曲を演奏する理由がなくなってしまった。せっかく、ホルストの「海王星」に合わせて、女声合唱の出番まで作ってあるのに……。なんてツイてない曲なのか。

だが、見ようによっては、この曲は「準惑星」を扱った貴重な作品ともいえる。はるか彼方の太陽系外縁天体曲の代表格として挙げたい。冥王星というからどんなに寂しげな曲かと思いきや、意外と晦渋(かいじゅう)ではなく、生き生きとした音楽である。

おなじみの星座も登場! 次は銀河の星々へ

続いては太陽系を飛び出して、銀河の星々を旅してみよう。

ブラジルの作曲家ヴィラ=ロボスに「オリオン座の3つの星」というピアノ曲がある。登場する恒星はアルニタク、アルニラム、ミンタカ。オリオン座の中心に並ぶ三つ星だ。それぞれ1、2分の愛らしい小曲で、ピアノの音色が星のきらめきを連想させる。

エストニアの作曲家ウルマス・シサスクは、そのものずばり、「銀河巡礼」と題したピアノ曲集を書いている。少年時代から夜空の星々に魅せられたシサスクは、すべての星座を題材に曲を書こうと考え、40年以上にわたって曲を作り続けてきた。

「銀河巡礼」作品10「北半球の夜空」では、「水瓶座」から「ペルセウス座」までの29曲が、「銀河巡礼」作品52「南半球の星空」では「カメレオン座」から「レチクル座」までの26曲が収められている。

各星座の音楽的な性格付けにピンと来るかといえば、正直なところよくわからないのだが、一曲一曲が短く、作風も穏健で聴きやすい。

シサクス:「銀河巡礼」作品10「北半球の夜空」

シサクス:「銀河巡礼」作品52「南半球の星空」

旅はさらにアンドロメダ銀河へと続く

さて、これで銀河系を一回りした。

しかし宇宙は広大である。われわれのいる天の川銀河以外の銀河を扱った音楽はないのだろうか。たとえば、お隣のアンドロメダ銀河とか。

実はあるのだ。アメリカの作曲家アラン・ホヴァネスの「交響曲第48番《アンドロメダの幻影》」だ。作曲は1982年。少年時代より宇宙に憧れたホヴァネスが、アンドロメダ銀河を交響曲の題材にしている。

曲を聴いてみると、エキゾチックで神秘的。どこかひなびた調子もあって、妙に身近な感じがする。民謡風の主題も出てきて、宇宙的スケールを謳っている割には、音楽的にはアジアくらいの距離間という落差が楽しい。

考えてみれば、遠い宇宙だからといって無機的な音楽がふさわしいとも限らないわけで、むしろ絶対にたどり着けないほど遠いがゆえに、自由なイマジネーションとロマンをかきたてるのかもしれない。たとえば「銀河鉄道999」の終着駅がアンドロメダだったり、「伝説巨神イデオン」の舞台がアンドロメダだったりするように。アンドロメダは冥王星よりよほど親しみのわく曲想が似合う。

まとめて聴く宇宙の旅プレイリスト

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飯尾洋一
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飯尾洋一 音楽ライター・編集者

音楽ジャーナリスト。都内在住。著書に『はじめてのクラシック マンガで教養』[監修・執筆](朝日新聞出版)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『R40のクラシッ...

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