レポート
2025.12.12
海外レポート・オーストリア【音楽の友 1月号】/Worldwide classical music report, "Austria"

オーストリアのオペレッタ・フェスティバルで漫画が背景の《チョコレートの兵隊》上演

オーストリアの11月の音楽シーンから、注目のオペラ公演やコンサート、ニュースを現地よりレポートします。

音楽の友 編集部
音楽の友 編集部 月刊誌

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...

ブリンデンマルクトはオペレッタの穴場と言える ©Lukas Beck

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取材・文=平野玲音
Text=Reine Hirano

10月3~26日に、ニーダーエスターライヒ州ブリンデンマルクトのオペレッタ・フェスティヴァル「ヘルプストターゲ」(秋の日々)が、オスカー・シュトラウス《チョコレートの兵隊》を取り上げた。

地方の小さなフェスティヴァルだが、すばらしいプロダクションだと思っていたら、ドイツのバイエルン放送の『BR-KLASSIK』が、2025/26シーズン最初のオペレッタ・フロッシュ賞を授与したそうだ。筆者が行った11日19時半からの公演の様子をお伝えしておこう。

1908年にアン・デア・ウィーン劇場で初演された《チョコレートの兵隊》は、いまとなっては本場においても忘れられた作品だ。当世流の宣伝写真に使われたのは、オーストリアの人気チョコレート店「Xocolat」の山積みの箱を持った兵隊姿の主人公(マルティン・マイリンガー)。キャッチフレーズ「ブリンデンマルクトのヘルプストターゲ2025は特別に甘くなります!」も功を奏したのだろう、ほぼ毎公演完売で、11日には子供たちも行儀よく鑑賞していた。

成功の大きな鍵となったのは、マルクス・ガンザーによる天才的な演出・舞台にちがいない。オーストリアでも愛されている日本の文化「漫画」が背景となり、大砲の音「BOOM!」やドアを叩く「KNOCK」などの効果音も漫画ふうに文字で書かれる。しかしそれでは終わらずに、平面やデジタルと本物の歌手たちとの境界もぼかしてあるため、なにもかもが異次元から飛び出たような不思議な効果を生み出していた。

ヒロインのナディーナ(レーナ・シュテッケレ)が〈来て来て、私の夢の英雄〉を歌いだすと、背景がスーパーマンを連想させるアニメ調の映像になり、間髪を入れず、それによく似たダンサーが舞台に向けて下りてくる。「いま」をたくさん取り入れつつも、基本的な衣裳や道具は原作通りのスタイルなので、音楽やストーリーとの齟齬が無い。

幕間には衣裳を着た子供たちがチョコレートを売りに来てくれ、素敵な夕べにとろける心地。オペレッタの穴場として国内外におすすめしたい。

ウィーン・フィルがJ.シュトラウス2世の誕生日を祝うコンサート

ヨハン・シュトラウス2世の200回目の誕生日である10月25日と翌26日に、トゥガン・ソヒエフ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団がとっておきのコンサートをプレゼント。1年通したフェスティヴァル「Johann Strauss 2025 Wien」の協力を得て、ウィーン楽友協会が主催した。

拍手に応えるウィーン・フィルと指揮者ソヒエフ
拍手に応えるウィーン・フィルと指揮者ソヒエフ ©Reine Hirano

ニューイヤー・コンサートと同じ大ホールでの似た内容のコンサートだが、ニューイヤーより手頃な価格で提供されて、世界中に中継されるプレッシャーもないためか、本来のウィーンらしい素朴な空気を楽しめた。

ウィーン・フィルはシュトラウスの100回目の誕生日、1925年10月25日にも、フェリックス・ワインガルトナーの指揮の下「ヨハン・シュトラウス祝祭コンサート」を同じホールで開催している。今回のプログラムは100年前とほぼ同じ曲目で、ゲオルク・ブラインシュミットのシュトラウスへのオマージュである《シャニ200》が現代的なアクセントとなっていた。

それ以外はアンコールもふくめ、みなヨハン・シュトラウス2世の作品。前半は、「《インディゴと40人の盗賊》序曲」、《芸術家の生活》、《女性賛美》、《ウィーンの森の物語》、《酒、女、歌》(男声合唱と管弦楽版)の5曲だった。

ウィーン楽友協会合唱団の男声による合唱は、ささやくように歌い始めた導入部からなんともいえず美しく、温かく豊かな響きが会場中に広がった。広く知られた管弦楽ヴァージョンもよいけれど、歌詞があるとよりユーモアも伝わるし、今後はいつも合唱付きで聴きたいと思ってしまったほどだった。

後半は、ウィーン・フィルが今回初めて取り上げた《祭りのカドリーユ》、前述のブラインシュミット《シャニ200》、《春の声》、《常動曲》、《美しく青きドナウ》(混成合唱と管弦楽版)という構成。

《春の声》のコロラトゥーラ・ソプラノは数年前から注目していたニコラ・ヒレブラントで、ウィーン・フィルが抜擢したのはうれしい限り。アンコールには、楽しいラッパの汽笛とともに臨場感たっぷりの《観光列車》が演奏された。(10月26日)

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