レポート
2025.12.10
海外レポート・フランス【音楽の友 1月号】/Worldwide classical music report, "France"

パリ・オペラ座「ガルニエ宮」が開場150周年特別展覧会

フランスの11月の音楽シーンから、注目のニュースを現地よりレポートします。

音楽の友 編集部
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1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...

シャルル・ガルニエのデッサン『新オペラ、正面と脇翼』(1861年)© BnF, Bibliothèque-musée de l’Opéra

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取材・文=三光 洋
Text=Hiroshi Sanko

シャガール作の下には別画家の天井画

パリのガルニエ宮は1875年1月5日に開場した。開場150周年を迎え、パリ国立オペラは来年の2月15日まで、「ガルニエ宮、神話となった歌劇場の150年」と題した特別展覧会を国立図書館との共催で開いている。

およそ100点の絵画、舞台模型、写真、ビデオ、衣裳、ポスターが展示され、ガルニエ宮の魅惑を多面的にとらえようと試みている。

ガルニエ宮は1861年にシャルル・ガルニエが設計者に選ばれてから、14年の歳月をかけて建造された。建設計画は、1858年にル・ペルティエ通りにあったオペラ座に観劇に来たナポレオン3世の馬車に三つの爆弾が投げつけられ、皇帝夫妻は無事だったものの8名の死者が出たことから生まれた。

街路によって他の建物と隔てられた場所が選ばれ、ガルニエは皇帝の安全を確保するために、馬車が直接建物に入れるように工夫した。ヴェルディ《仮面舞踏会》の原作もスウェーデンの歌劇場で実際にあった国王暗殺事件を土台にしているように、オペラハウスは君主にとって魅惑的であるとともに危険な場所だった。

プルーストの小説『失われた時を求めて』にも登場する有名な大階段は、ボルドー歌劇場の階段(ヴィクトル・ルイ考案)と、ヴェルサイユ宮殿の「大使の階段」からヒントを得て構想された。大階段は客席に入るための単なる通路ではなく、一つの独立した舞台であり、観客は上方に突き出した小バルコニーからの視線を浴びる。20世紀中葉まで開催されていた仮面舞踏会でも、大階段は重要な役割をはたしていた。

ガルニエ宮と言えば、マルク・シャガールの天井画が有名だが、当初はジュール=ウジェーヌ・ルヌヴーにより描かれたものが飾られていた。現在もシャガールの天井画を外せばルヌヴォーの天井画は残っている。しかし天井まで脚立を組み上げ、取り外し作業をするには多くの日数がかかるため、事実上不可能だ。特別展では縮小されたコピーを見ることができる。

また、ガルニエはフランスのグランドオペラを上演する会場として設計が行なわれた。歴史と恋愛が交錯する4幕ないし5幕という規模の大きな、マイアベーアやアレヴィのオペラの書き割りとして、大階段やグラン・フォワイエだけでなく、客席部分にも多彩な装飾が施されたのはそのためだった。

装飾をいっさい取り除いた禁欲的なバイロイト祝祭劇場に真っ向から対決しようとガルニエは想を練ったが、グランドオペラの人気は建物の完成時にはすっかり下火となってしまった。

さらに皮肉なことに、ガルニエ宮は世紀末からはフランスにおけるワーグナー上演のメッカとなっている。ナチスによるパリ占領時代にも上演は続いたが、ドイツ・オペラではドイツ人歌手はドイツ語、フランス人歌手はフランス語で歌うという、いまでは考えられない演奏が行なわれていた。

『オペラ座の怪人』ポスターに描かれたシャンデリア落下事故

ガルニエ宮を舞台とした芸術作品は数多いが、なかでも知られているのはガストン・ルルーの小説『オペラ座の怪人』(1909年)を翻案した映画、演劇、バレエだろう。

ポスターには平土間に天井から大シャンデリアが落下する場面が描かれている。1896年5月20日、デュヴェルノワのオペラ『エレ』の上演中に大シャンデリアの平衡錘が落下し、天井桟敷の女性観客が圧死した事故に触発されたものである。

ルパート・ジュリアン監督の映画『オペラ座の怪人』のポスター(1925年)
ルパート・ジュリアン監督の映画『オペラ座の怪人』のポスター(1925年)© BnF, Arts du spectacle

今年、ガルニエ宮に数カ月留まって新しい『オペラ座の怪人』を撮影したアレクサンドル・カスタネッティは、「洗面所に行って手を洗う栓を開くと、いちばん奥にある栓からも水が流れたので、怪人はいまも住んでいると自分は信じている」と発言しており、いまだに怪人の存在を信じている人がいる。

11月22日と23日にはグラン・フォワイエで「あらゆる幻想の対象となったガルニエ宮」と銘打った連続講演が開かれ、アレクサンダー・ネーフ総監督、マルティネーズ・バレエ監督を始め、建築家、歴史家、演出家、作曲家らがガルニエ宮を「スペクタクル」、「作品創造の場」、「ダンスの殿堂」、「政治権力との関係」、「芸術の触発者」という5つの角度から討論した。

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1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...

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