
ヘンツェ《英国の猫》をバイエルン州立歌劇場が新制作、バイエルン放送響二つの公演

ドイツの11月の音楽シーンから、注目のオペラ公演やコンサート、ニュースを現地よりレポートします。

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...
取材・文=来住千保美
Text=Chihomi Kishi
バイエルン州立歌劇場がヘンツェ《英国の猫》を新制作した。なおこれは同オペラ研修所による制作だった。
南ドイツ放送(現在はSWR)とシュトゥットガルト州立歌劇場の委嘱を受けたこの作品は、1983年6月2日、シュヴェツィンゲンの宮廷劇場で世界初演され、広く上演されている。
ヘンツェは1978年ごろから作曲を手掛けており、バルザックの小説を元にしたこの作品は、猫の姿を借りて人間社会の欲望と欺瞞、策略を痛烈に批判し、その犠牲になり死にゆく恋人たちの悲恋を描いている。音楽形式は18世紀後半のオペラ要素を取り入れており、とても魅力的だ。
演出は多くの登場人物を整理しつつ、その関係を細かく描き、好感が持てる。美術も屋内と屋外(屋根の上)の対比が内容とよく合致している。ミネッテ役のセオンウー・リー、トム役のアルマンド・ラボットはコンクールなどでも優勝しており、すでにキャリアを始めている。また、指揮のヴィンツォーもキレのよい音楽作りで、集中力のあるよい公演に仕上がっていた。
(初日と所見日:11月5日、ミュンヘン・クヴィリエ・テアター、指揮:カタリーナ・ヴィンツォー、演出:クリスティアーネ・ルッツ、美術:クリスティアン・アンドレ・タバコフ、衣裳:ドロテー・ヨイステン、他)
シュトゥッツマンとラトル指揮バイエルン放送響 二つのコンサート
ナタリー・シュトゥッツマン指揮(10月30日、ヘラクレスザール)とサイモン・ラトル指揮(11月7日、イザールフィルハルモニー)のバイエルン放送交響楽団のコンサートを聴いた。
シュトゥッツマンは歌手としてはすでに同響と共演しているが、これが指揮者として同響へのデビューだった。プログラムはワーグナー「《タンホイザー》序曲」、リヒャルト・シュトラウス《死と変容》、モーツァルト「レクイエム」。シュトゥッツマンが指示するフレージングは自然で魅力的だ。「レクイエム」では内声部を引き出し、厚みのある印象的な音楽作りだった。

ラトルのプログラムはシューマン「交響曲第2番」、ストラヴィンスキー《火の鳥》(1910年版)。「交響曲第2番」はミュンヘンのバッハ音楽祭の一環だった。
《火の鳥》については予想通りオーケストラの高い能力をフルに活かし、楽器群を巧みにコーディネートする。いっぽうで、各ソロ楽器奏者にはそのファンタジーにまかせ、自由に歌わせる。フォルテと同様ピアニッシモも美しく響き、色彩感が見事だ。
しかし驚きはシューマンだった。というのもラトルのシューマンには正直なところ大きな期待をしていなかったのだが、情感に距離を置いた知的な仕事が楽曲構造を際立たせ、各声部のコミュニケーションが明確に聞こえる。音楽は透明感に満ち、軽快さが生まれ出る。聴衆も大喝采で称えた。
「OPER! AWARDS」の〈最優秀オペラハウス〉が発表
批評家により選ばれる「OPER! AWARDS」は20の専門分野があり、その発表と授賞式は該当年の〈最優秀オペラハウス〉で行なわれる。この事情もあり、〈最優秀オペラハウス〉のみ、前もって発表される。
11月4日、2026年受賞の〈最優秀オペラハウス〉はレーゲンスブルク劇場と発表された。他部門は2026年2月23日に発表される。
メータのキャンセルとカーターのデビュー
ズービン・メータが、バイエルン州立歌劇場で12月と1月に指揮する予定だったJ.シュトラウス2世《こうもり》をキャンセルした。個人的な理由とされている。代役を務めるのはニコラス・カーター。カーターは2026年4月、ドニゼッティ《愛の妙薬》の指揮で同歌劇場にデビュー予定だったが、これで《こうもり》でデビューすることになる。
オーストラリア出身のカーター(1985年生まれ)はオペラとコンサートでキャリアを築き、2026/27シーズンからシュトゥットガルト・オペラの音楽総監督を務める。





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