伊福部昭総進撃 キング伊福部まつりの夕べ~伊福部昭の幅広い業績を振り返る歴史的公演
『伊福部昭の芸術』シリーズを1995年から発売し、作品の普及に大きな役割を果たしてきたキングレコードが、昨年の伊福部昭生誕110年、伊福部が音楽を手がけた映画『ゴジラ』の公開から70年を記念して開催してきた“キング伊福部まつり”。そのフィナーレとして5月26日、東京オペラシティ コンサートホールにて、日比谷公会堂で1983年に開催された「伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ」の再演ともいうべき特別なコンサートが開かれました。作曲家と縁の深い豪華出演陣による、約3時間にもわたる公演の模様をレポートします。
国立音楽大学演奏学科鍵盤楽器専修(ピアノ)卒業、同大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。在学中、カールスルーエ音楽大学...
伊福部昭(1914-2006)といえば映画音楽、とくに『ゴジラ』の人……というイメージが強いかもしれません。多くの人に愛され続ける『ゴジラ』の音楽は、クラシックを愛し、学んだ彼だからこそ生み出せたものなのです。2025年5月26日、東京オペラシティコンサートホールにて開催された「伊福部昭総進撃 キング伊福部まつりの夕べ」はそれを改めて実感させるものとなりました。
松田華音のピアノ、石丸由佳のオルガンで、伊福部作品のリズムと音色の多彩さが浮き彫りに
コンサートは3部構成。第1部はまずピアニストであり、モスクワ音楽院の研究テーマに伊福部昭を選んだ松田華音さんの演奏で、2つのピアノ曲集が演奏されました。まずは『子供のためのリズム遊び』(抜粋)。「子供のための」とありますが、いずれも高度な技術とリズムが求められる楽曲です。細かい音型や激しい跳躍などが求められますが、松田さんのテクニック、そして音色の変化の多彩さによって楽曲からさまざまな表情、そして色彩が浮き彫りになりました。
2曲目は『ピアノ組曲』。東北地方を中心に行なわれている伝統行事から楽想を得て書かれた作品で、バルトークや伊福部の師であるチェレプニンといった作曲家の音楽にも通じるような洗練された音選びと多彩なリズムの組み合わせに加え、日本独特の空気や響き、さらにオーケストラの音色すら感じさせてくれます。
3曲目はオルガニストの石丸由佳さんによって、伊福部の代表曲の一つ、《SF交響ファンタジー第1番》のパイプオルガン編曲版が演奏されました。パイプオルガンという「風の楽器」ならではの音色、響きを最大限に活かした編曲、石丸さんの躍動感あふれる演奏によって、より生々しくゴジラの咆哮や足音が感じられるような体験ができました。
和田薫、本名徹次が指揮 特撮音楽とクラシック音楽の両歴史における重要性を再確認
第2部からは東京フィルハーモニー交響楽団が登場し、《SF交響ファンタジー》の第1番、第2番、第3番が和田薫さんの指揮で演奏されました。いずれも東宝特撮映画を彩った音楽が演奏会用管弦楽曲として編曲されたものです。その映画の場面が浮かび上がってくるのはもちろんですが、伊福部のオーケストラの音の扱いの巧みさにも驚かされます。それぞれのキャラクターの表現はもちろんですが、それがもたらす恐怖や驚きといった人々の感情までも鮮やかに描き出してしまうのは、楽器の音色の重ね方、そしてそれぞれの効果を知り尽くしているからこそ成せるものでしょう。
第3部は本名徹次さんの指揮で《交響譚詩》と《シンフォニア・タプカーラ》の2曲。伊福部のクラシック音楽の作曲家としての顔が前面にでたものであり、より楽器のもつ可能性や民族音楽のもつリズムの多様さが楽曲の中に落とし込まれています。
全3部を通して、改めて伊福部昭が特撮音楽だけではなくクラシック音楽の歴史における重要な存在だということがわかるコンサートとなりました。当日は多くの方が会場に足を運び、すべての曲に熱狂的な拍手を送っていました。「特撮」ファンの方にとっても、クラシック音楽ファンにとっても、歴史的公演になったといえるでしょう。
日時:2025年5月26日(月)18:00開演
会場:東京オペラシティ コンサートホール
出演:和田薫、本名徹次(指揮)、松田華音(ピアノ)、石丸由佳(オルガン)、東京フィルハーモニー交響楽団
曲目
<第1部>
松田華音(ピアノ)
伊福部昭『子供のためのリズム遊び』 (抜粋)『ピアノ組曲』
石丸由佳(オルガン)
伊福部昭《SF交響ファンタジー第1番》(和田薫編曲パイプオルガン版)
<第2部>
和田薫(指揮)東京フィルハーモニー交響楽団
伊福部昭《SF交響ファンタジー第1番、第2番、第3番》(全曲)
<第3部>
本名徹次(指揮)東京フィルハーモニー交響楽団
伊福部昭《交響譚詩》《シンフォニア・タプカーラ》
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