レポート
2025.12.11
海外レポート・イタリア【音楽の友 1月号】/Worldwide classical music report, "Italy"

バレンボイムがスカラ・フィルに登場、ムーティによるイタリア・オペラのアカデミー

イタリアの11月の音楽シーンから、注目のオペラ公演やニュースを現地よりレポートします。

音楽の友 編集部
音楽の友 編集部 月刊誌

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...

スカラ・フィルを指揮したバレンボイム © Brescia e Amisano / Teatro alla Scala

この記事をシェアする
Twiter
Facebook

取材・文=野田和哉
Text=Kazuya Noda

聴衆を熱狂させたバレンボイム

ダニエル・バレンボイムがミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団のコンサートシーズン開幕に登場、ベートーヴェン「ヴァイオリン協奏曲」と同「交響曲第5番《運命》」の演奏で聴衆を熱狂させた。スタンディング・オヴェイション、凱旋的な帰還であった。

ヴァイオリンはリサ・バティアシュヴィリ。そして「交響曲第5番」。彼が過去に振ったときのように、奇をてらわない、厳かともいえる演奏は聴衆を大いに魅了し、大喝采を呼び起こすことになった。健康上の理由から活動を控えめにしているというが、スカラでの仕事は何としても遂行する意向だという。

ムーティが驚異的なエネルギーで指導

リッカルド・ムーティがイタリア・オペラの指揮を若い指揮者に手ほどきする、「イタイア・オペラ・アカデミー」は、日本でも開催されておなじみになっている。

イタリアでの開催は、当初はラヴェンナのアリギエリ劇場で行なわれていたのだが、2021年にミラノのプラダ財団とのコラボでヴェルディ《ナブッコ》、そして2023年にベッリーニ《ノルマ》を演奏し、今年はモーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》を取り上げ、11月19日から30日まで行なわれた。

これまではイタリア・オペラすなわちイタリアの作曲家のオペラという意味で作品が選ばれていた。筆者は毎年聴講しているわけではないが、確か初回のヴェルディ《ファルスタッフ》からヴェルディ《椿姫》、ヴェルディ《アイーダ》、そして前述の《ナブッコ》とベッリーニ《ノルマ》というように、イタリア人以外の作曲家は取り上げていなかった。

したがって今年のモーツァルトは路線変更のように思われるかもしれないが、《ドン・ジョヴァンニ》は周知のように、イタリア人のロレンツォ・ダ・ポンテが台本を書き、モーツァルトが作曲した作品である。ダ・ポンテはほかに《フィガロの結婚》と《コジ・ファン・トゥッテ》の台本を手がけたが、これらの作品を鑑賞するたびに痛感するのは、モーツァルトがイタリア語の歌詞の抑揚やニュアンスを完璧に音楽にしていることだ。

ムーティの今回の選択の鍵もそこにあると思われる。なぜなら、ムーティはどのオペラでも、イタリア語の歌詞のアクセントや発音についてはひじょうにシビアなのである。イタリア人の歌手や合唱団に対して、つまりイタリア語を母国語とする人たちにも相当厳しいのだ。それを考えれば、今回の選曲もこれまでの延長線上にあることがわかる。筆者は11月25日の午前の部を聴講した。

参加した指揮者は4人。イタリア、中国、ドイツ、ポーランドの各国出身で、いずれも高いレヴェルの若者たちだ。今回の感想の一つはレヴェルの高さで、それはこの4人だけでなく、ソリストもふくめていえる。

いま一つの感想、これは今回だけではないが、ムーティのエネルギーだ。84歳という年齢を考えると、驚異的ともいえるエネルギーを発散して指導する。ときおり冗談で言う「幸いなことに私はもうすぐくたばるからね」という言葉とは反対に、周囲は「なんとタフは人だろう」と思い、「まだまだこれからも活躍してほしい」とも願うのである。

11月21日の『ラ・レプッブリカ』紙のウェブ版に掲載されたインタヴューで彼は、「オーケストラの指揮は伝授するものであって、教えるものではありません」と述べている。すなわち、教本や論文などには載っていないノウハウは、経験や先人のやりかたを観察して得るものだという考えだ。ムーティはそういう場をこのアカデミーで提供しているのである。

音楽の友 編集部
音楽の友 編集部 月刊誌

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...

ONTOMOの更新情報を1~2週間に1度まとめてお知らせします!

更新情報をSNSでチェック
ページのトップへ