KAJIMOTO SUMMER END PARTY 2019“future cider”レポート

すぐに答えは出なくても、クラシック音楽の“未来”を考えるポップなミュージック・パーティを体験

レポート
2020.01.10

指揮者/クラシカルDJとして「クラシック音楽の入り口を作る」をコンセプトに活動する水野蒼生さん。彼が、2019年夏の終わりに参加した、驚くほどポップでオシャレなクラシック音楽パーティKAJIMOTO SUMMER END PARTY 2019“future cider”に潜入。水野さんはどう楽しみ、どんな考えを持ち帰ってきたのでしょう。

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©︎ KAJIMOTO
Photo by Katsunori Abe
パーティに遊びに出かけた人
水野蒼生 クラシカルDJ・指揮者
水野蒼生
パーティに遊びに出かけた人
水野蒼生 クラシカルDJ・指揮者
ミレニアル世代の指揮者であり、史上初のクラシカルDJ。 オーストリア国立ザルツブルク・モーツァルテウム大学のオーケストラ指揮、合唱指揮の両専攻に在籍。音楽の都ザルツブ...

クラシックのパーティを開きたかった。それも今風な。

モダンでおしゃれなイベントスペースにグランドピアノとターンテーブルを置いて、フードやドリンクも充実させて、飲み食いしながら、おしゃべりしながらライブを楽しむ、誰も見たことがないカジュアルなクラシック音楽のパーティ。それをいつか開催したいという夢を抱いていた。

しかし、それも今では過去形。2019年の夏の終わりに開催された、とあるパーティが、僕がやりたいと思っていたことをすべて実現してしまったんだ。

SUMMER END PARTY 2019“future cider” -ボーっとしてないでシュワっと未来を考えヨ!-という、クラシック音楽事務所KAJIMOTOの新企画のパーティがそれだ。

裏原でのお洒落なクラシック・イベントに参戦

開催場所は明治通りとキャットストリートのあいだ、まさしく裏原! という、オシャレなイベントスペース「CASE B」。面した小道からもよく見える位置にグランドピアノが置かれ、フードやドリンクもバラエティ豊か。

会場のスタッフは基本的にTシャツ姿で、まさにこのパーティは僕が夢みたそのもの。いや、それ以上のものだった。「おしゃれで楽しい」だけでなく、トークイベントなどを通して「未来を考える」という、めちゃくちゃクリエイティブな場に昇華させたのだ。

会場はアーティスト、お客さん入り混じって満員! 熱い夜になった。

クラシック音楽事務所「KAJIMOTO」は、世界中の超一流アーティストやオーケストラを招聘し、マネージメントもしている、クラシック業界で知らない人はいない国内最大手の音楽事務所。クラシック界最大のフェス「ラ・フォル・ジュルネ TOKYO」を主宰しているのも、このKAJIMOTOである。今回僕はKAJIMOTOに直々にご招待をいただいたので、取材も兼ねて遊びに行ってきた。もちろんTシャツ姿のラフな格好で。

ここはあえて背伸びせず、「普通のお客さん」として楽しんだ範囲で書くことにする。KAJIMOTOがラフな雰囲気のイベントを企画したということもあるので、意気込みしすぎず、僕もそのコンセプトに乗っかって楽しんでみることにした。

タイムテーブルはこんな感じで、主にトークセッションとKAJIMOTO所属アーティストによるライブで構成されている。

一流ミュージシャンのライブと、さまざまな立ち位置の有識者を招いたトークセッションが、交互に繰り広げられる印象的なタイム・テーブル。

当日配布リーフレット

1階と2階でイベントが同時進行していくスタイルだが、ライブの時間はすべて聴いて回れるように組まれており、音楽に対する大きなリスペクトが垣間見える。思わず「さすが!」と心の声が漏れる。

夕方17時ごろ、KAJIMOTOの代表である梶本さんの短い挨拶でパーティは幕を開けた。

今回のパーティは、企画から運営まですべて若いスタッフに任せたという。「未来を考えるイベントだけれど、急いで結論や答えを出さなくてもいい」と語られていたのがとても印象的だった。

梶本眞秀社長と筆者。

アーティストたちとの交流も

ほどなくしてピアニスト小林愛実さんとヴァイオリニスト戸田弥生さんのライブセッションが始まった。まだパーティ開始から10分ほどしか経っていないのにライブが始まった途端に身動きできないほどの人だかり。

小林愛実さんのピアノと戸田弥生さんのヴァイオリンでイベントスタート!

ヒソヒソ話やバーで鳴る氷のカランコロンという心地いい音、2階から漏れ聞こえるガヤガヤした喧騒は、音楽と調和し、会場の雰囲気を柔らかく演出する。

1本目のライブが終わると、会場全体の雰囲気が一気に明るくなった気がした。音楽を聴いて、それぞれのゲストがこのパーティの楽しみ方を理解したような、スイッチが入ったような、不思議な瞬間。これも音楽の目に見えない力なのかな。

演奏の前後では、たくさんの同世代の音楽家が話しかけてくれたり、逆に話しかけてみたり。僕はずっとザルツブルクでの生活がメインだったので、国内の同世代の音楽家に出会えたのは本当に嬉かった。

左からヴァイオリニストの高木凛々子さん、成田達輝さん、筆者、ピアニストの萩原麻未さん。

美味しいフードに一流の音楽で至福の時間をすごす

それからフードコーナーを体験しに2Fに移動。

こちらは木造の内装で、バラエティ豊かなフードも相まって、ホームパーティのような雰囲気。フードには長野特産の新鮮な野菜やおにぎり、唐揚げ、デザートにはチョコレートやマカロンなど、本当に幅広いジャンルのフードが展開されていて、気分に合わせて自由に食を楽しめる環境もとても素敵。

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Photo by Katsunori Abe

僕はまず「豆と音 Beans and Sounds」さんのドリップコーヒーをオーダー。すると本日2つ目のライブ、LFJでのトークセッションでもお世話になった大萩康司さんによるクラシックギターの演奏が始まった。大萩さんの繊細ながら深みのあるサウンドに、淹れたてのドリップコーヒーは相性抜群。

ギターの大萩康司さん。
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「クラシック音楽の入り口」を考えさせられるトークセッション

この上ない贅沢なカフェ・タイムを満喫してからは、少し背筋を伸ばした気分でトークセッション「音楽×CXの未来」を拝聴。CXとはカスタマー・エクスペリエンスの略語で、日本語で言う「顧客体験」の意味。

登壇されていたのは、Zepp ライブで役員を務め、話題沸騰中のクラシックフェス「スタンドアップ! クラシック」などを担当されている青木聡さん、ユニバーサルクラシックのレーベルヘッドを務め昨年僕も出演させていただいたドイツ・グラモフォンのイベント「Yellow Lounge TOKYO」を企画された五十貝一さん、NY発のインディペンデント・ディストリビューター「The Orchard」の日本オフィス代表を務める金子雄樹さん、そして司会には国内外で活躍されるスペインはヴァレンシア在住の指揮者、中田延亮さん

左からZeppライブ役員の青木聡さん、ユニバーサルクラシックのレーベルヘッド五十貝一さん、「The Orchard」日本オフィス代表の金子雄樹さん、司会を務めた指揮者の中田延亮さん。
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Photo by Katsunori Abe

ここでは主に「どうしたら新しい顧客層にクラシック音楽を興味を持ってもらえるか」というテーマでそれぞれお三方の取り組みを拝聴することができた。

フェスをオーガナイズするその裏側の話や、レーベルとしてコンテンツを楽しんでもらう秘訣、クラシック音楽の顧客層の変動など、とにかく興味深い話をたくさん聞くことができた。すべては書ききれないけれど、このトークセッションで見つけたキーワードを箇条書きで載せてみる。

キーワード

・動機付け、きっかけ作り(クラシックと「なにか」を掛け合わせて興味を引く)

・ライトユーザーになればなるほどコンテンツ選びにシビア(失敗したくない)

・ストリーミングサービスの増加でクラシックのリスナーは相対的には増えている。しかし意図したコンテンツが届いていない

・敷居を下げることばかりに注力せずに、まずみんながどのようにクラシックを楽しんでいるかを知る

「クラシックの入り口を作る」をコンセプトに活動する僕にとって、まるで宝の山のようなトークセッションだった。興味深いお話をありがとうございました。

そのあとは1階と2階を行き来しながら、ライブとトークセッションをつまみ食い。1階には縁日の屋台エリアもある。水風船釣りに挑戦して、駄菓子やラムネをGET。未来を考えたり、童心に戻れたり、時空を行き来しながら楽しめるパーティ!(笑)

トークセッション「音楽×アーティストの未来」の最中では、サプライズで来日中だった世界的ヴァイオリニスト、ルノー・カプソンさんと指揮者のパスカル・ロフェさんが登場。8月30日に出演したサントリーホールでのコンサートの見どころについて語ってくれた。

「音楽×アーティストの未来」にサプライズで登壇したパスカル・ロフェさん(左)とルノー・カプソンさん(中央)。
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Photo by Katsunori Abe

この時点で時刻はすでに20時半過ぎ、パーティももう終盤。

それからライブを2本見て、この日のサマーエンドパーティは頭も耳もお腹もすっかり満たされて終幕した。最初にタイムテーブルを見たときは4時間以上もあるのか、と少し疲労を覚悟していたけれど、ライブやトークを梯子しながらパーティ参加者の方々と談笑していたら、時間はあっという間に流れた。

ラストを飾ったのはヴァイオリンの神尾真由子さんとピアノの萩原麻未さんによるデュオ。会場の熱気も最高潮。

「聴く」だけじゃない。クラシックの未来に向けて「考える」

終幕後に改めてタイムテーブルを見ると、ライブよりもトークのほうがずっと時間が長く取られていたことがわかる。クラシック業界のイベントで「考える」にこれだけ重きを置いたイベントは確かにすごく稀だ。「考える」と聞くとやはり構えてしまうところもあるが、それをカジュアルなパーティに落とし込むことで自然体のまま受け入れることができた。巧みなオーガナイズに拍手。

夏が終わると、クラシック界は新しいシーズンを迎える。ただ楽しいだけでなく、未来を考える。答えは出さなくてもいい。でもきっと、これからの音楽界を生きていれば、ふとした瞬間にシュワーっと、この夜のことを思い出すことが絶対にあるだろう。

また来年の夏の終わりにみんなで集まって、1年間の答え合わせとまた新しい宿題をもらえるような、そんな風物詩になってくれたら、僕は嬉しい。

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