中学生プロデューサーは「こどもの日コンサート」をどう企画する? 横浜みなとみらいホールの本気のサポートとは
中学生がコンサートを企画制作する「中学生プロデューサー」。主催する横浜みなとみらいホールは、子どもたちだけでなく、サポートする大人たちにも大きな刺激があると言います。
いまどきの中学生はどのように参加し、プロの専門家たちはどうサポートしているのでしょうか。3回目の活動の現場を取材しました。
専門は学校音楽教育(音楽科授業、音楽系部活動など)。月刊誌『教育音楽』『バンドジャーナル』などで取材・執筆多数。近著に『音楽の授業で大切なこと』(共著・東洋館出版社)...
熱意に満ちた中学生プロデューサーが、首都圏各地から集まる!
横浜みなとみらいホールで毎年ゴールデンウィークに開催される「こどもの日コンサート」は、20年以上続く人気イベント。子どもから大人までみんなが楽しめる名曲を、神奈川フィルハーモニー管弦楽団の演奏で味わえます。
このコンサートを昨年からプロデュースしているのは、なんと「中学生プロデューサー」たち。今年も1月から研修や会議を重ね、5月5日(木・祝)の本番に向けて企画制作を進めています。その現場は、大人も驚くほどのプロ意識と熱意に満ちていました。
2月19日。大規模改修で長期休館中の横浜みなとみらいホール……の向かいにあるオフィスビルに集まったのは、新中1~中3の生徒たち約20名です。
ガラス張りで横浜港を見渡せる、ドラマのセットのようなオフィスは、京セラ(株)みなとみらいリサーチセンター。中学生プロデューサーの活動に共感し、協力企業に名乗り出てくれました。
プロの構成作家が講師となり、プログラムについて議論!
今日は、プログラムの曲順が主な議題。サポートするのは、横浜みなとみらいホールの館長であり、『題名のない音楽会』をはじめ、さまざまなコンサートで構成を務める新井鷗子さんです。
新井さんは「チョコレートのあとのみかんが酸っぱく感じるように、感じ方は順番によって変わる。コンサートも曲の順番が命」と彼らにレクチャーし、「長い曲をどこに置くかもポイント」「やっぱり最初の掴みと最後の締めが肝心!」などのノウハウも伝授しました。
今年のテーマは、「モーツァルトは 国境を越えて 時代を越えて」。このテーマと曲目は、前年の「こどもの日コンサート」を成功させた第1期中学生プロデューサーたちが、その経験をもとに考えました。
しかも、中学生の柔軟な発想で選ばれた曲は、モーツァルトだけではありません。モーツァルトの名曲《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》や「交響曲第40番」から、モーツァルトと縁深いハイドンの「交響曲第101番《時計》」、さらに「時代を越えて」というフレーズのとおり、現代の名交響曲である《ロトのテーマ》(すぎやまこういち『ドラゴンクエスト』テーマ)なども入れ、多彩な魅力のラインナップになっています。
さらに、今年のプロデューサーたちは「SDGsについて、コンサートを通して多くの方に考えてほしい」という意志も、先輩たちから受け継ぎました。これらの曲目をどう並べたら、曲の良さと伝えたいテーマがお客様の心に届くか。中学生プロデューサーの腕の見せどころです。
「ドラクエで始めて、《時計》で昔にタイムスリップする」「ハイドンとモーツァルトの間にドラクエを入れたら、『これからモーツァルトの世界を冒険するぞ』という雰囲気になるのでは」など、さまざまな意見が飛び交います。
中でも重要なのは「演奏を聴くだけでは眠くなっちゃう。お客さんが手拍子などで参加できる『トルコ行進曲』を、ハイドンのあとに持ってきたら」などの意見。
4歳以上の子どもたちも含まれる「聴き手側に立って考える」ことは、中学生プロデューサーたちが最初の研修で叩きこまれること。彼らはそれを深く自覚し、「聴き手ファースト」を自らの使命として、何かを考えるときの中心軸に常に置いているのです。
横浜みなとみらいホール事業企画グループの飯島玲名さんのリードによる熱い議論を経て、2案の曲順が挙がりましたが、どちらも甲乙つけがたく、多数決でも真っ二つ。
でも、最終的には1案に決め、別案を推したメンバーも了承しました。なぜなら議論を尽くし、どの意見にも納得のいく理由があるとわかっていたから。その上で、自分の意見を通そうと躍起になるのではなく、コンサートの成功という目的のために力を合わせて進んでいく……それが、大人数でプロジェクトを動かすためにもっとも大切なのだということも、彼らはこの活動を通して学んでいるのです。
台本構成、プログラム作成、広報のチームに分かれて詳細を詰めていく
決まった曲順の中に、司会者がどんなトークを入れるか。
たとえば、「モーツァルトは5歳で作曲を始めました」と話すよりも、寸劇にしたり、「何歳で作曲を始めたでしょう」とクイズにしたりしたほうが印象に残る……ということも、新井さんはプロデューサーたちに教えました。実際の台本を書くのは、台本構成チームの仕事。会議後半は、各チームに分かれて作業を進めます。
広報チームは、SNSやメディアなどでの発信の方法を考えていました。
「取材依頼はまず地元の新聞。それから客層に合う小学生新聞……」「ラジオもいいと思う。移動中にラジオを聴く子も多いから」「私は通学で毎日バスに乗るので、車内広告もいいと思いました」など、自分の生活をもとにして「どうしたら子どもたちや保護者の目に留まるか」を考えます。
彼らに助言するのは、横浜みなとみらいホールで実際の広報業務にあたる伊藤啓太さん。「いい案だね。でも忘れてはいけないのは、広告を出すには費用がいるということ。つまり、どこからそのお金が出るのかも考えなきゃね」と、お金のこともしっかり話します。
プログラム作成チームでは、デザイナーのヤナキヒロシさんも会議に参加。過去のプログラムを見返しながら、サイズやページ数・内容を話し合います。
「大きいと落としちゃう。小さいほうが持ち帰りやすいのでは」「出演者のインタビューを入れたら?」など、さまざまな側面から、お客様により喜ばれるプログラムを模索します。
子どもたちとの共創は、大人たちにとっても刺激的!
この日の活動は予定ぴったりの2時間で終了。彼らは今後、舞台スタッフの仕事やお客様を案内するレセプショニストの仕事なども学びながら、企画を進めていきます。
中学生プロデューサーたちの仕事ぶりには、横浜みなとみらいホールの大人たちも信頼を寄せています。たとえば、中学生たちから「SDGs」というトピックが出てきたとき、ホールのチーフプロデューサーである菊地健一さんは、すごく衝撃を受けたそう。
「僕たちのSDGsに対する考えは、甘いんだなと。これからを生きる子どもたちにとっては、この世界の“持続可能性”は、僕たちが考える以上にシリアスな問題なんですよね。子どもというのは、大人がぼーっと生きていることに対して、実はすごく批判的なのかもしれません」。
また、新井鷗子さんも、「音楽の世界に限らず、社会というのは人と人とが助け合ってつくられているのだということを、この体験を通して子どもたちに学んでほしい」と語りつつ、「これだけ子どもが真剣に取り組んでいるのだから、大人も決して気を抜けない。子どもたちにとっても、大人たちにとっても、すごく刺激的な体験になっています」と本音を話します。
子どもと大人が互いに刺激し合い、それぞれの本気を出して全力で取り組む「こどもの日コンサート」。本番は5月5日、神奈川県立音楽堂です!
日時: 2022年5月5日(木・祝)1回目14:00開演、2回目16:30開演
会場: 神奈川県立音楽堂
出演: 岩村力(指揮)、神奈川フィルハーモニー管弦楽団(管弦楽)、岩崎里衣(司会)
曲目:
- すぎやまこういち:『ドラゴンクエストⅢ』より「序曲:ロトのテーマ」
- ハイドン:交響曲第101番 ニ長調「時計」Hob.I:101より 第2楽章
- モーツァルト:「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」より 第1楽章
- モーツァルト:交響曲第40番 ト短調 K. 550 ほか
料金: 4歳~中学生 1,500円/高校生以上 2,500円(全席指定)
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