沖澤のどか「常任指揮者の経験を通してオーケストラの音の聴き方が変わった」〜京都市交響楽団2026-27定期演奏会ラインナップ記者会見より
フランス文学科卒業後、大学院で19世紀フランスにおける音楽と文学の相関関係に着目して研究を進める。専門はベルリオーズ。幼い頃から楽器演奏(ヴァイオリン、ピアノ、パイプ...
京都市交響楽団が2026-27シーズン公演ラインナップ発表記者会見を開催し、第14代常任指揮者・沖澤のどかが登壇した。
沖澤のどか視点が光るプログラム
次年度の定期演奏会ラインナップについて、いくつか沖澤のこだわりがある。まずシーズン幕開けとなる第710回(2026年4月)では、沖澤がいつも大事なシーンで取り上げてきたというリヒャルト・シュトラウスの《ドン・ファン》から。今年3月、《英雄の生涯》を初めて3日間ホールで練習したことで、音がみるみる変わっていき、大きな手応えを感じ、これから発展していく可能性を見たという。そこからリヒャルト・シュトラウスの作品を定期的に取り上げていきたいということで、《家庭交響曲》を組み合わせる。
第712回(6月)に登場するアレナ・フロンは、チェコで飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍している指揮者で、沖澤はチェコのオーケストラで演奏している日本人の知人から何度も名前を聞いていて、今のうちにお願いしたいと思ったそう。また、第713回(7月)では「ジャポニズム」をテーマに組まれたプログラムでは、吉松隆の「ファゴット協奏曲《一角獣回路》」をウィーン・フィル首席奏者のソフィー・デルヴォーと共演する。沖澤は、同じ作品をドイツでもデルヴォーと共演するそうで、「もちろん京響の常任指揮者ではあるけど、このように、日本以外でも日本の作品を演奏したり、素晴らしいと思ったソリストを京都にお呼びしたりすることで、いろいろな風が吹き込んでくる」と、自身の経験を京響に還元したいという思いが見られた。
もうひとつ注目したいのが、第713回のプログラムで委嘱作品2曲が取り上げられている点だ。沖澤は、常任指揮者に就任してまず委嘱した作品のリストとパート譜がどれくらい保存されているかまとめてもらって、すべて聴いたとのこと。その中で林光の《吹き抜ける夏風の祭り》(1985年度京都市委嘱作品)をいつかやりたいと思っていたと語り、委嘱作品にあらためて目を向けることで、京響の歴史を活かそうという姿勢が感じられる。
常任指揮者として3年目を迎えて感じる変化
常任指揮者に就任してからの3年半を振り返り、こう語った。
3年目の途中ですが、今のところ実感しているのは、ホールの鳴らし方がお互いにだんだんわかってきたことです。いろいろなスタイルの作曲家を取り上げてきましたが、古典の作品にもう一度立ち返る時期でもあるかと思っています。最初にメンデルスゾーンやモーツァルトをやったときの響きを今もう一度聴きたい。
リヒャルト・シュトラウスやストラヴィンスキーなど大編成の曲を取り上げるのも常任指揮者のひとつの大きな役割ですが、モーツァルトなどがどのような響きになるのか、常任指揮者として確かめたいです。
9月には同じプログラムで日本各地を巡るので、京都コンサートホールとの違いがよく見えてきて、自分たちの響きがたしかなものになると期待しています。
また、常任指揮者としての3年半の経験を通して、沖澤自身も変化を感じている。
同じ奏者でも、曲やそのときの個人的な出来事など、いろいろなことによってコンディションは変わるんですよね。そのあたりの機微は、ゲストとして指揮しているオーケストラではなかなか感じられませんが、まだ3年目とはいえ長く一緒に演奏していることで感じるようになりました。
そして、オーケストラを聴くうえで、受け取り方が変わりました。自意識が少し薄れたというか。オーケストラのメンバー一人ひとりにそれぞれの事情があるということをよく考えるようになりました。私はそこをふまえて何か言うことはあえてしませんが、でも、何かうまくいかなかったときに、自分がなんとかしなければと思いすぎないようになりました。いつも真正面から向き合いすぎないほうがいいこともあるので、ある程度様子を見たり、そういうことを同じオーケストラと付き合っていくなかで、学んでいます。
「私にとってはボストン響も京響も大事な本番のひとつ」
11月の定期演奏会では、ヴァイオリニストの五嶋みどりとショスタコーヴィチの「ヴァイオリン協奏曲第1番」を披露する。五嶋みどりとは、11月初旬にボストン交響楽団で共演することが決まっている。ボストン・デビューへの意気込みも語った。
去年のセイジ・オザワ松本フェスティバルでアンドリス・ネルソンスが来られなくなって、急遽ブラームスの「交響曲第1番」と「第2番」を代役で指揮しました。その演奏は指揮していても心に響く特別な演奏で、オーケストラのみなさんが小澤征爾さんと一緒に演奏していたときの記憶がそこに充満しているように感じました。本当に120パーセントの熱量で演奏されるなかで、指揮台に小澤征爾先生を見ているなという感じで。
そのときにボストン響の方がすごくよかったと言ってくださったので、呼んでくださったのかなと思います。
小澤征爾先生からいただいたご縁だと思っています。
私はもともと上昇志向が強いわけではないので、良くも悪くもボストン響も京響も同じで、私のなかでは大事な本番のひとつです。アメリカに行くのは初めてなので、文化的な出会いやお客さんの反応などが楽しみです。
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