レポート
2019.07.05
リコーダー、はじめました。第3回

バロック時代のイタリア人が作曲したリコーダーのソナタを、どう歌う?

東京藝大時代の同級生、水内謙一さんとの偶然の再会をきっかけに、リコーダーを習うことを一念発起した飯田有抄さんの自腹企画。第1回の初めてのレッスンのときから、3ヶ月11回のレッスンを経て、鍵盤ハーモニカ以外の管楽器未経験者の飯田さんは、どこまで習得しているのでしょうか!?

自腹でリコーダーを習いはじめた人
飯田有抄
自腹でリコーダーを習いはじめた人
飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター

1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...

リコーダーの先生
水内謙一
リコーダーの先生
水内謙一 リコーダー奏者

東京芸術大学音楽学部楽理科卒業。ドイツ・ケルン音楽大学に留学。同大学ディプロマ課程リコーダー科および古楽アンサンブル科を卒業し、演奏家ディプロマを取得。帰国後は国内外...

チェンバロ奏者
村上暁美
チェンバロ奏者
村上暁美 チェンバロ奏者

上野学園大学音楽学部器楽学科チェンバロ専攻卒業、桐朋学園大学音楽学部研究生チェンバロ専攻修了。その後ケルン音楽大学チェンバロ科を最優秀の成績で卒業し、演奏家ディプロマ...

写真:編集部

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リコーダー初舞台「おさらい会」に向けて

初回のレッスンレポからかなり時間が空いてしまったが、ここで一気に「おさらい会」直前レッスンまで話は飛ぶ。

ここまで、受けたレッスンはおよそ3ヶ月で11回。 週ごとに水内先生とスケジュールの調整をしながら、お稽古していただいた。先生オススメの木製リコーダーも購入した(楽器については、また別の回で取り上げたいと思います)。

3回目くらいのレッスンで、5月のおさらい会の曲が決まった。

「マルチェッロのソナタ2番をやりましょう!」

マルチェッロ?

私は楽器のお稽古といえば、これまでピアノと三味線しか経験がない。ピアノでは習わなかったぞ、マルチェッロ。彼がいったいどんな人でどんな曲を書いているかもわからないが、とりあえず先生が勧めてくれるんだから間違いない。ということで、さっそく譜読みを始めた。

マルチェッロはこんな人らしい。

ベネデット・マルチェッロ(1686〜1739)

ヴィヴァルディと同時代のイタリア人貴族であり、ヴェネツィアの政治家として重要なポストにあった。つまり彼はモラル人であったようだが、その音楽はやはりイタリアの人らしく、メロディラインは歌うように息が長く、ハーモニーは気まぐれなまでにコロコロとさまざまな表情を見せる。兄のアレッサンドロも作曲家だが、弟のほうが多作家。


世俗カンタータやミサ曲、宗教的声楽曲、器楽協奏曲やリコーダーやチェロのソナタが知られている。文筆家でもあり、オペラのリブレット(台本)も手がけ、当時の作曲家たちをシニカルに描いたという。

水内流レッスンは「指はあとから」スタイル

水内先生のレッスンが面白いのは、指使いとか息使いとかのテクニック的なところをしっかり固めていく、というよりも、とりあえず曲の世界の中に入っていくというスタイル。

極端にいってしまうと、私の指が回っていようが回っていまいが、吹けていようがいまいが、まずはその作曲家が何を言わんとしているかをどんどん解釈して教えてくれる。「指はあとで付いてくるからね」方式。

なので、レッスンの大半は、笛を吹いている時間よりも、先生が楽譜という暗号を読み解いて、作曲者のマルチェッロが、どんな感情を乗せているのか、どんなことを語ろうとしてるのかを、歌ったり吹いたり踊ったり(!)しながら示してくれる。

身振り手振りで伝えていく水内先生。取材の日は、チェンバロと合わせる日でした。

マルチェッロの場合はイタリア人なので、イタリア人がいかに、ベラベラベラベ〜ラとおしゃべりであるかということ、ドイツ人みたいに頭にアクセントをおいてジャンッ ジャンッ ジャンッっと音楽を作るのではなく、ず〜〜〜っとペラペラペラ〜っとおしゃべりを続けるように、アクセントというよりは音の長短で強調をつけていくということ。そうした基本的な解釈の仕方を教えてくれる。

この時間が楽しい! 私は、ほぼ笑いっぱなしになる。先生が目の前で、イタリア人になったりドイツ人になったり、フランス人の場合は……などと次々に変身し、その言葉の響きや音楽的な流れなどを教えてくれるのだ。

じつは、リコーダーが吹くメロディだけではなかなか感じとれない、ぐっとくるニュアンスや、音楽的な高まりは、チェンバロの奏でる「通奏低音」が大きなヒントとなる。

チェンバロパートには音符のほかに、数字がつけられていて、和音で豊かな伴奏がつけられるのだ。

チェンバロパートの通奏低音

「6」の数字は、書かれている音と一緒に6つ上の音も鳴らすのですよ、の意味。何も数字がない音は、ベーシックな三和音(書かれている音と、3つ上と5つ上の音を同時に鳴らす)で弾く。

16~18世紀にヨーロッパで広く用いられた撥弦鍵盤楽器、チェンバロ。バロック時代に通奏低音楽器として重要な役割を担った。

普段は先生がチェンバロパートを吹いてくれたり、歌ってくれる。数字の意味や読み方も先生が教えてくれたので、家で復習するときも、伴奏のニュアンスを思い出せる。

大人の趣味なのだから

先生の暗号解読は容赦ないので、たった一段の楽譜にも、ものすごい情報量が読み込まれる。毎回レッスンを録音しておいて、お家でゆっくり楽譜に書き込んで、復習&練習。

いまどきの飯田さん。iPadに楽譜を入れておき、Apple Pencilで書き込み。

自分のおぼつかない指の動きや、ブレスのタイミングを逸して息が苦しくなったりするので、解読結果を表現しきれなかったりする。初心者なんだから無理といえば無理だ。でも、とりあえず音楽的に「やりたいこと」がわかってくると、なるほどじわじわと、あとからなんとかテクニックは付いていっている気はする。

それでいいのだ。趣味なのだから。「できないと先へ進めない」のではなく、「先を見据えながらマイペースで進んでゆく」。大人が趣味として楽器を習うなら、このくらいの心の余裕をもってやらないと、行き詰まって楽しくなくなってしまうぞ。

それと、練習は「できるときにする」。大人は、なんだかんだ忙しい。昼は仕事、夜は飲み会、あれ? 練習時間は? ということになる。私の場合は、レッスン日の3日前に慌ててやったりする。レッスン日当日まで楽器をさわれなかった、なんてこともあった。

でも、大丈夫です。先生は、そんな大人の事情も、ちゃんとわかっていますから。自分なりに一生懸命やることが大事です!

とにかく楽しく!

豪華! プロのチェンバロ奏者とのセッション!

さて、水内先生のお教室では、2019年5月26日おさらい会本番までに、チェンバロと2回の「合わせレッスン」も受けられる。

本番でもチェンバロを弾いてくださるのは、水内先生のご結婚相手であり、音楽家としてもパートナーである村上暁美先生。

チェンバロ奏者の村上暁美先生。

お二人は一緒にヨーロッパの音楽祭に参加されたり、日本に外国から奏者を招いてアンサンブルをするなど、精力的に演奏活動もこなされている。

いやはや……こんなド初心者なのに、プロに伴奏していただけるなんて、恐縮!

と思っていたけれど、村上先生の指導がまたスゴい!

理論派の水内先生が言葉を尽くして教えてくれていたことを、村上先生は音と感覚的な言葉で示してくれて、引っ張ってくれるのです。私は「理屈で理解し、最後は感覚でまとめる」のが楽しいから好き。なので、お二人のダブルレッスンを受けられるのは、とても刺激的だった。

たとえば、ある音の表情の作り方を理論的に説明すると「転調に続いて、通奏低音の根音が、第一転回型なので、解決しきっていない感じ」だとしたら、感覚的な説明では「イタリア男がしつこく好きって言っている感じ」みたいなことになったりする。理論と想像の両輪で音楽を作るのは楽しい!

イタリア男が好きって言ってきて
好きなんだ、好きなんだって……
そんな感じにうたって!

そんな村上先生のチェンバロとともに演奏したら、これまで水内先生に言ってもらえていたことが、本当に体で感じられるようになった。
音の明るさ、歌うような呼吸、気まぐれに変化する響き……。

一生懸命になると、ついついムダに体に力が入ってしまう私であるが、村上先生がしなやかにチェンバロを弾く姿見ながら吹いたら、すご〜く呼吸も楽になった。

身体の力を抜いて。

さて、2回目のチェンバロ付きレッスンが終わると、「もうできているから大丈夫!本番はのびのびと!」という言葉で村上先生が送り出してくれた。で、ここで衝撃のお言葉が。

「今、楽譜にいっぱい書き込んであるけど、これ全部消したほうがいいですよ〜。本番はまっさらな楽譜で吹くのがオススメ」

 

え……!?

私がこれまでシコシコと水内先生のお言葉を書き込んできた楽譜。

確かに、もう書き込みすぎて何がなんだか読めないんですが……。

「できているのに、書かれていると、もっとやろうとして、音楽が不自然になってしまいます。それよりも、本番は自然な音楽の流れのなかで、今まで言われたことも、全部忘れて吹いてくださいね!」(ニコッ)

音楽の方向性は同じだけど、ちょっぴりタイプの異なる水内先生と村上先生……面白すぎる。

素直な新入生であるわたくしは、すなおにiPadの楽譜の書き込みをまっさらに削除!!

晴れ晴れとした気分でおさらい会に臨みました。

(つづく)

自腹でリコーダーを習いはじめた人
飯田有抄
自腹でリコーダーを習いはじめた人
飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター

1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...

リコーダーの先生
水内謙一
リコーダーの先生
水内謙一 リコーダー奏者

東京芸術大学音楽学部楽理科卒業。ドイツ・ケルン音楽大学に留学。同大学ディプロマ課程リコーダー科および古楽アンサンブル科を卒業し、演奏家ディプロマを取得。帰国後は国内外...

チェンバロ奏者
村上暁美
チェンバロ奏者
村上暁美 チェンバロ奏者

上野学園大学音楽学部器楽学科チェンバロ専攻卒業、桐朋学園大学音楽学部研究生チェンバロ専攻修了。その後ケルン音楽大学チェンバロ科を最優秀の成績で卒業し、演奏家ディプロマ...

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