レポート
2020.10.13
管楽器の指導者にインタビュー

コロナ禍で吹奏楽の現場はどうなっているのか?——昭和音楽大学の場合

舞台上や客席の「密」や管楽器の飛沫問題が取り沙汰され、一大行事である夏の吹奏楽コンクールまでもが中止に追いやられた。音楽を生業とするプロフェッショナルがまず問題に上がるなか、後手に回されがちなアマチュア、教育現場はどのような状況なのか。神奈川県川崎市に立つ昭和音楽大学を訪れ、吹奏楽や管楽器のレッスン現場の状況を伺った。

取材・文
林田直樹
取材・文
林田直樹 ONTOMOエディトリアル・アドバイザー/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

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昭和音大での感染症対策

コロナ禍で大打撃を受けた音楽界。クラシック音楽公演では一応100%客入れしてよいこととなり、ようやく巻き返しのきざしが見えてきた。

一方、音楽教育の現場はどうなっているだろうか?

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たとえば音楽大学の場合、地域や各学校ごとの違いはあるが、教室での対面授業が一部解禁となり、やっとキャンパスに学生の姿が見られるようになってきた。しかし、まださまざまな制約があり、いつも通りの賑わいには程遠いところも多い。

ここでは、慎重な対策のもと、早くから学内演奏会や実技レッスンを開始している昭和音楽大学(神奈川県川崎市)を訪ね、いま吹奏楽の指導現場はどのような状況になっているのか、中学や高校の吹奏楽部の状況も含めて、准教授でサクソフォーン奏者の福本信太郎さん、講師でユーフォニアム奏者の円能寺博行さんに話をうかがった。

小田急線・新百合ヶ丘駅の明るい街並みを抜けてすぐの場所にある昭和音大のキャンパス。学内を歩いてみると、感染症対策への協力や自覚を促す張り紙が各所に張られ、個人レッスンにおいても、合奏練習においても、大学としてもできる限りの細やかな対策をしている様子が、強くうかがえた。

昭和音楽大学構内のあちらこちらに見られる注意喚起の貼り紙。

工夫しながら行なう練習の難しさ

ユーフォニアム奏者・円能寺博行さん

「演奏していると、管の中には結露した水滴が溜まるものなのですが、ペット用のシートを敷いて、そこに捨てるように気を付けています。実は金管楽器は、低い音域で口の周りをゆるめたときなど、極微量ですが、口の周りからも多少飛沫が発生することがあります。それほど広範囲ではないですが……。

飛沫対策として、いまレッスン室での個人指導では、パーテーション越しにしか学生と接していません。合奏練習の場合は、ビニールシートによるシールドを奏者ごとに張りめぐらします。ただ、後ろに行くほど隔てられるので、指揮者との距離感ができてしまう点が難しいですね。

中学や高校の吹奏楽部では、夏から部活が始まっています。地域や学校にもよりますが、教室に4、5人、四隅に分かれて壁に向かって吹くところからスタートしている状況です」

円能寺博行(えんのうじ・ひろゆき)
神奈川県出身。東京藝術大学卒業。2001年第18回日本管打楽器コンクールユーフォニアム部門第5位入賞。昭和音楽大学、東海大学教養学部芸術学科、横浜市立戸塚高等学校音楽コースの各非常勤講師。ユーフォニアム&バストランペット奏者として演奏活動を行うほか、吹奏楽指導者としても多くの団体の指導に力を注いでいる。

サクソフォーン奏者・福本信太郎さん

「たとえば、バンド全体を4つに分けて順番に練習したり、全員で演奏する曲を減らしたり、練習でも舞台上でも密にならないように工夫しています。練習中は、吹いているだけでなく、どうしてもしゃべってしまうので、そうした会話時の飛沫を減らすマスクも必要です。奏者間の会話や、指揮者とのコンタクトは、音楽上、大切なことでもありますから。

いま吹奏楽指導者は、東京から地方に教えに行こうとしても、まだ学校長から許可が出ないところも多いと聞いています。また、この春はコンクールや演奏会がなくなってしまったことで、最後の定期演奏会に出られなかった高校3年生も多かったのです。

目標を奪われ、目標が少なくなっていること。それが今の吹奏楽にとってはとても大きな問題です。演奏上の制約もまだ強く、たとえば、楽譜上に歌やスキャットの指示があっても歌ってはいけないというルールがある県もあります。本来の合奏指導を始められていないところも多いのです」

福本信太郎(ふくもと・しんたろう)
昭和音楽大学卒業、同音楽専攻科修了。現在、昭和音楽大学准教授。90年第7回日本管打楽器コンクールに最年少参加で入選。96年、99年同コンクールでは第2位に連続入賞。近年は吹奏楽指導、指揮者としても活動しており、全国各地の吹奏楽団とサクソフォーン奏者、指揮者として共演を重ねている。

学内のリハーサル室には、個々の奏者を守るためのビニールシートでシールドが格子状に張りめぐらされており、絶対に感染者を出したくないという大学側の意志が感じられた。そこには安心感がある反面、親密なコミュニケーションをとりながら本来のようなアンサンブルを作るには、さぞかし苦労もあるだろうと思わせた。

ゼロリスクは無理だとしても、いかに感染症対策と日常的な活動を両立してやっていくか。その悩みは、どこも同じである。

昭和音大では、合奏の際に随所にビニールシートを設置している。写真提供:福本信太郎さん

音楽の未来の問題でもある

この秋、音楽大学をはじめ、学校における音楽教育活動は、少しずつ再開し始めている。明るい兆しも見えてきているように思える。だが、その現場では、感染症対策による各種の制約によって、さまざまな音楽的困難がつきまとっている。今回は吹奏楽を取材したが、特に合唱をめぐる状況はさらに厳しい。

これは学校関係者だけの問題ではない。

若い音楽家たち(そして、子どもたち)が十分に集中して、アンサンブルに取り組める日常的な練習環境を、いかにして工夫して守っていくか——それは、社会全体で、引き続き関心を持ち続けていかなければならない、「音楽の未来」の問題でもある。

取材時には、筆者が携わった開発中の吹奏楽用マスクを着用して試演していただいた。その意見も取り入れながら、吹奏楽用マスク「Birdy」は完成。
マスクは2重構造になっており、マスクをしたまま楽器が吹けるのはもちろんのこと、顔の筋肉の動きを阻害しないこと、耳ひもは長さ調整ができること、息を吸いやすい形状などを検証。ユニフォーム素材を採用しているので、肌触りもよく丈夫。
取材・文
林田直樹
取材・文
林田直樹 ONTOMOエディトリアル・アドバイザー/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

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