
チューリヒ歌劇場の新シーズンがオープン

スイスの9月の音楽シーンからチューリヒのレポートをお届けします。

東京藝術大学、ミラノ·ヴェルディ音楽院、チューリッヒ音楽大学大学院、スイス国立オペラスタジオを経て、スイス連邦認定オペラ歌手となるが、声域の変更に伴い廃業。環境ビジネ...
昨年からチューリヒ歌劇場のオープニング・イヴェントが24時間連続プログラムとなり、今年も9月18日の22時から開催された。売りは「舞台上で泊まれる」ということで、アイマスク等が配られる。自由に床に座る聴衆の間をくぐりながら歌う歌手たち、それを客席でも聴け、舞台の袖から歩いて出てくる人もいる。そんな境界のない空間で音楽が楽しめ、夜中の劇場巡りツアーもある。翌日は一緒に踊れたり、複数のリハーサルが公開されたりして22時まで続いた。
その翌日の20日は、そのワクワク感のまま観られる新演出のモーツァルト《魔笛》が披露された。イタリア語圏スイス人、ダニエーレ・フィンツィ=パスカは自身もアクロバット演者としてサーカス界にも通じており、今回の演出も視覚的にも惹きつけるものに仕上がっていた。「遅刻したヴァイオリン奏者が《魔笛》の世界に引きずり込まれてタミーノを歌う」という設定も楽しく、老若男女問わず微笑みを誘う。
指揮のタルモ・ペルトコスキは注目の若手だが、昨年、ルーマニアのブカレストで行われたエネスク国際フェスティヴァルで聴いたセミステージの《魔笛》よりも成熟していた。「序曲」の出だしはあいかわらず緊張感に欠けるのだが、その後は細やかに仕上がっている。前のめりになる傾向は残っているが、心地よい緊張感に貫かれていた。ワインの瓶で指揮するような演出もおかしくこなす。タミーノのマグヌス・ディートリヒもブカレストのときのキャストだったが、声の使いかたが重くなっていた。支障はきたしていないが、フォーカスを細く絞ったときのほうがずっとモーツァルトらしくて良いのに、と残念に感じた。パミーナはスイス人歌手のレグラ・ミューレマンで、万人に愛される「子供番組の歌のお姉さん」のよう。このメルヘンチックな演出に欠かせない存在だ。低音も充実してきており、モーツァルトにしては危険を冒しても心情を伝えようと、言葉を立てて歌う。アリアの前の台詞も心から出た言葉として響くため、アリアでは涙を誘った。夜の女王のヤスミン・デルフスはドイツ人の若手だが、アリアの出だしでは少し飽きるものの、超高音になるとピタッとはまって輝く。2曲目のアリアは最後の音をオクターヴ上げて、両手を上げたまま地下に沈んで行き、女王の風格を保った。侍女はオペラ・スタジオ生のハンナ・マッケイと同カリマ=エル・デルナーダッシュ、今年から当歌劇場アンサンブルに加わったドミニカ・ステファンスカが好演した。パパゲーノのヤニック・デビュスもオペラ・スタジオ卒のアンサンブル歌手として長く聴いてきているが、最近の成長は目覚ましく、パパゲーノも適役だった。モノスタトス役のナタン・ハラーも長くアンサンブル歌手として聴いているが、今回ほど光っていたのは初めてだ。弁者役のアンドリュー・ムーアもふくめ、彼ら6人は初役ということに驚かされる。マティアス・シュルツ総裁の若手を光らせる選択眼と、演出家の手腕の賜物か。パパゲーナ役のマリアム・スレイマン、両僧侶の3人もオペラ・スタジオ生で、これこそ歌劇場付属オペラ・スタジオを駆使しての「持続可能な」公演だった。総裁自身が「長期間上演に耐えられるすばらしいプロダクション」と演出チームを称賛したように、これから多くの聴衆に愛され続ける《魔笛》になるだろう。
トーンハレ管のガーシュウィン・プロ

チューリヒ・トーンハレ管弦楽団のシーズン・オープニング・コンサートまでの動きは本誌にレポートしたが、もう一人のフォーカス・アーティストであるウェイン・マーシャルを招いたガーシュウィン・プログラムがエキサイティングだったのでお伝えしたい。フォーレ「組曲《ペレアスとメリザンド》」ではかない美しさを存分に聴かせたあと、マーシャルが登場し、ガーシュウィン《ラプソディ・イン・ブルー》のクラリネットがグリッサンドを立奏すると、あとはマーシャルが異次元に連れて行ってくれた。アンコール、そして休憩後の1曲目、ガーシュウィン《ラプソディ第2番》までをむさぼるように聴いた(9月25日、チューリヒ・トーンハレ)。
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