おすすめ有線イヤフォン3選を試聴――ストリーミング、イヤーピース、変換アダプタ......試聴から見えてきた「いい音」ポイント
昨年の「飯田有抄と、音楽でつながる仕事人たち。」の番外編として掲載されたスピーカーとCDトランスポートの記事。確かに、自宅のゆったりとした空間で鳴らす音楽は最高だ。しかし、大きな音が出せない一人暮らしや通勤中に音楽を聴くポータブルでも音質向上を図りたい!
ということで、編集部の思いに共感してくれた音楽ファシリテーターの飯田有抄さんと、まさにいい音のスペシャリストである生形三郎さんを召喚! 生形さんおすすめ機種の試聴会の模様を、全3回にわたってご紹介します。
いい音で聴きたい——この欲望はそう大それたものでなく、ふだんよりちょっと美味しい白米を食べたいとか、良質なソールのスニーカーを履いてみたいというのと似ている。なくても困らないけど、やっぱり「いいよね」と感じながら暮らすのは幸せだ。お財布と相談しながら、「自分の感覚に合う」ものを選びたい。
時代はワイヤレス・イヤフォン?
昨今のイヤフォン売り場は、すごいことになっている。いつの間にやらワイヤレス・イヤフォンが大いに幅を利かせ、高級品がガラスケースに鎮座していたりする。
この潮流は、中でもiPhoneがイヤフォン・ジャックを廃止したことと無関係ではないそうだ。iPhone7以降の機種は、Lightningコネクタに変換アダプタを差し込んでからイヤフォンを接続しなくてはならない。
iPhone XS以降は、変換アダプタはもはや付属しなくなり、別途購入の必要があるため、Bluetoothなどでワイヤレスに接続するイヤフォンが大いに求められるようになったのかもしれない。iPhoneに限らず、スマートフォンで定額制のストリーミング・サービスを利用し音楽を聴く人が増えている今日、ますますワイヤレス・イヤフォンは人気になっていきそうだ。
まずは基本を押さえたい! 有線イヤフォン
そんな中、今回はあえて、有線イヤフォンのオススメ製品を生形さんに教えてもらった。
「有線イヤフォンは、ポタアン(ポータブル・アンプの略称)を使ったり、リケーブル(ケーブル部分を純度の高い銅や銀素材などの製品に取り替えること)をしたりして、いまや、いろいろと“遊べる世界”にもなっています。
ただし、そうすることで、録音がもともと持っていた響きとは異なる音になってしまうこともあります。特にクラシックは、楽器本来の響きや演奏の微妙なニュアンスが大切となる音楽ジャンルですので、実は再生のハードルがとても高いともいえます。そのためにも、いろいろと遊ぶ前に、まずは『基本のいい音』をしっかりと抑えておきたいですね」
そう語る生形さんが今回紹介してくれたのは、Final E-4000およびE-5000、そしてArtio-CR-V1という3種類の有線イヤホンだ。
外出先で気楽に聴くことを想定し、まずはiPhoneでストリーミング音源を再生してみることに。私のiPhoneはちょっと古い7plus。付属品のアダプターを使用。
モーツァルト:クラヴィーア協奏曲第15番変ロ長調 K.450第1楽章
フォルテピアノ:小倉貴久子、ピリオド楽器による室内オーケストラ
アルバム「J.C.バッハとW.A.モーツァルトのクラヴィーア協奏曲」より(ALCD-1176)
生形さんのおすすめ有線イヤフォン3選を試聴
Final E-4000
もともとiPhoneに付属していた有線イヤフォンと比較してみると、低音に太さと奥行きが出た。ピリオド楽器特有の音の立ち上がりの面白さが感じられる。でも……正直、付属イヤフォンと、思ったほどの変化がなかった。
ここで生形さんが目を光らせ提案。
「イヤフォン・ジャックのあるiPadで聴いてみましょう」
変換アダプタを通す必要のないiPadに直差しで同じ音源を聴いてみた。
違う!
強弱の幅が豊かに感じられ、楽器から発せられる操作音のような部分も際立ち、より臨場感が出た。えええええ!
iPhone変換アダプタ問題が浮上
ちょっとショック……。付属変換アダプタよ、君の仕事とは一体……
「この小さなデバイスでデジタルデータをアナログの音声信号に変換しているのですが、かつてのiPhoneにはこの部分が内蔵されていたんです。それが、割としっかりと音質設計がされており、音が良く、そこにiPodなどの製品に人気が出た理由の一つがあったのではと思います。
今はやはりiPhoneでしっかり音楽を聴くなら、付属のアダプタではなく、専用DACを搭載したポタアンを使用したり、高音質な音声コーデックに対応したワイヤレス・イヤフォンを使用するのがいいのかもしれません。それについては次回で、あらためて考えましょう」
性能のよいイヤフォンを用いたからこそ浮上した「変換アダプタってどうなのよ」問題。ひとまずこの後は、iPhoneではなく、iPadで試聴を続けることにした。
Final E-5000
ケーブル部分がキラキラと光る素材! なんだか高級感が漂う。これは見た目にもテンションが上がる。「私、選んで買ってます」オーラを振り撒けそうだ。そして、音を聴いて驚いた。E-4000よりも、輝かしく、低音の伸びやかさもいい。オーディオで聴いているかのような感覚が得られた。遮音性が高く、アンサンブルの隅々の音まで届けてくれる印象だ。いいなぁ、これ、欲しい。
FinalのEシリーズは、ナチュラルな音質と高い解像度が魅力の、同社スタンダードシリーズです。癖のない音質をもっており、繊細な表現力が求められるクラシック音楽を楽しむのにも打ってつけのイヤホンのひとつと思います。
シリーズ上位モデルのE-4000は、飯田さんに体験していただいたように、演奏のダイナミクスや楽器のディティール再現もよく引き出してくれます。そして最上位モデルのE-5000は、そこへ、さらにリッチな聴き心地が実現されています。ステンレス鏡面仕上げの本体や、シルバーコートのケーブルも、上品な外観で高級感がありますね。
Artio CR-V1
続いて生形さんが、秘密兵器を出すような表情で手渡してくれたのが、Artio CR-V1だ。これはちょっと、耳への掛け方が面白い。線が上に出るようにして、くるっと耳の後ろに通す。
イヤーピースを自分の耳のサイズに合わせたものを使用しないと、きちっとはまらないので要注意。
合奏の立体感があり、フォルテピアノの音がブリリアント。高音域がよりクリアに届けられるような印象だ。
再現されている音のすべてをよく拾っている印象というか、個人的にはそれが少しシャカシャカした質感にも感じられた。そのことを正直に生形さんに伝えると、
「このイヤホンは、スピーカーで聴いているような音場を再現するように設計されています。ただし、性能がここまで上がってくると、実は、ストリーミングの限界を感じさせられてしまうかもしれませんね」
なんと……再生する音源によっては、高性能なイヤフォンだと、かえって聴きにくく、楽しめない音になってしまう!?
確かに、音質をビットレートという単位で比較してみると、CDは約1,411kbpsあるのに対し、Apple Music やSpotifyなどのストリーミング・サービスの音源は256kbpsもしくは320kbpsしかない。定額制で曲数も多いストリーミングは便利だし、通常はさほど音質が悪いと感じないのだが、クオリティの高い再生機器で再生すると、その差も現れてしまうのか。恐ろしいことだ。
そこで、ためしにストリーミングではなく、CDから私のiPhoneにWAV音源でリッピングしてあった(取り込んであった)音源で同じ曲を再生してみた。そうですね、シャカシャカした感じが、気にならなくなりました。なんということでしょう。
イヤフォンやヘッドフォンによる音楽再生は、スピーカーでの再生と違って、まるで、音が頭の中で鳴っているかのようなリスニングとなります。これは、左右チャンネルそれぞれの音声信号が、まったく交じり合わない状態で、左右それぞれの耳へ独立した状態で届くことによって起きる現象です。
人間は、音を聴くときに、左右それぞれの耳へ音が届く際に生じる、音色の差や到達時間の差などによって、音源の方向性や位置、そして音源の立体感を認識しているからです。我々が楽しむ音楽ソフトのほとんどは、それを踏まえた収録がなされています。
そのスピーカーのような音の交じり合いや到達をイヤフォンで再現しようとしたのが、Artio CR-V1です。さすがに、スピーカー再生と同じとまではいきませんが、音が頭の中ではなく、耳や頭の周りで鳴っているかのような、立体的な楽器の鳴り方が楽しめ、イヤフォン独特の窮屈な感じがしないことが画期的な存在です。合奏が立体的に聴こえた秘訣もそこにあります。
有線イヤフォンは自分の「耳」と「機材」との相談が大切
ちなみに、私は今回の取材ではFinal E-5000が気に入ったのだが、ONTOMO編集長は「Final Eシリーズは落ち着いた上品な印象で、Artio CR-V1は身体の中で鳴っている感じが面白い!」とのこと。
イヤフォンは耳に深く差し込むものなので、それぞれの音質の感じ方は、おそらく個人の耳の形(?)などがすごく大きく影響しそうだ。どんなイヤフォンがお好みかは、お店などで試聴してみることをおすすめいたします。
イヤフォンは、自分の耳にフィットするイヤーピースを使用して装着することが特に重要です。耳穴とイヤーピースのあいだに隙間があると、特に低い音が抜けていってしまい、シャカシャカした音に聞こえてしまいます。
また、イヤホンの表現力が上がるほどに、接続する機器のキャラクター、そして再生する音源が持っている音質傾向や演奏内容の違いがよく分かるようになりますので、特定の組み合わせだけでなく、それらの要素をさまざまに入れ替えて聴いてみることも大切です。
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