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2022.12.22
「クラシック専門ライターの音楽界トレンド・ウォッチ」

国内オーケストラの新シーズン・プログラムが続々と発表!聴きどころを一挙紹介

クラシック音楽界でいま気になるヒト・コトを、音楽専門ライターの視点から解説!

城間 勉
城間 勉

1958年東京生まれ。子どものころからピアノを習ってはいたが、本当にクラシック音楽に目覚めたのは中学生時代にモーツァルトの魅力に触れてから。バレンボイム&イギリス室内...

セヴァスティアン・ヴァイグレ©読売日本交響楽団
カーチュン・ウォン © Angie Kremer
大野和士 ©Herbie Yamaguchi
沖澤のどか ©京都市交響楽団
川瀬健太郎©Yoshinori Kurosawa
佐渡裕©Takashi Iijima
下野竜也 © Naoya Yamaguchi
高関健 ©K.Miura

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この1ヵ月で日本各地の主なオーケストラの新シーズン(2023~2024)の内容が発表された。いまだウクライナ侵攻も長期化が予想され、感染者数が減少してきたとはいえ新型コロナ感染も予断を許さない状況下にあるなど、不安を抱えたまま2023年を迎えることになるけれど、少なくともクラシック音楽界は平穏であってほしい。サッカーのワールドカップもNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」もエンディングを迎えた。これからはコンサートに没頭したい。

今回は来年の主要な国内オーケストラの各定期公演から、これだけは絶対におさえておくべき公演をご紹介したいと思う。

さて、本来はそれぞれのオーケストラの演奏曲目とアーティストたちをすべて深堀りしていきたいところだが、変更の可能性もあるので、現時点でリリースされている内容から興味深い定期公演の演目を、独断でチョイスした。

全体をざっとみると、コロナ全盛期(?)に比べて大編成の作品が復活しているのと近・現代作品が組み込まれいるのが目立つ。そしてソリストも内外のヴィルトゥオーゾがあちらこちらに登場し、プログラムに華を添えているのも嬉しい。

さすがに生誕150年のセルゲイ・ラフマニノフ(1873~1943)を取り上げる楽団は多い。20世紀に活躍した大作曲家の再評価に繋がる良い機会だと思う。ほぼ同時期に活躍したシェーンベルクやプロコフィエフ、バルトークに比べて(マーケット的に考えても)、今日の世界のクラシック音楽界に圧倒的に貢献しているのはラフマニノフに違いないのだから。ロマン派の作曲技法を継承しさらに洗練させた姿勢は、(コンポーザー・ピアニストとしての活動を含め)他の作曲家から一歩抜きんでていたと言わざるを得ない。

それでは、サクサク進めます。

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セルゲイ・ラフマニノフ(1873~1943)

九州

九州交響楽団

音楽監督・小泉和裕がベートーヴェン:《英雄》(2023年4月)、ブラームス:《ドイツ・レクイエム》(2023年12月)などで大活躍。

客演では、アメリカの名門オーケストラが絶賛するマカオ出身の俊英リオ・クオクマンが九響初登場。“饒舌なるアメリカン・クラシック”と題して、アダムズ:《ショート・ランド・イン・ファスト・マシン》、バーバー:ヴァイオリン協奏曲、コープランド:交響曲第3番を聴かせる。近年演奏される機会が増えてきたバーバー作品は、モダニズムと抒情性が滲む傑作。高度なテクニックを要することでも知られる。ヴァイオリン独奏・神尾真由子の音楽性と技巧が最高に発揮されるはずだ(2023年6月)。

ほかには、ヴァレリー・ポリャンスキーによるオール・ラフマニノフ・プログラムも聴きもの。交響曲第2番と、牛田智大がピアノ独奏の《パガニーニの主題による狂詩曲》を、円熟のサウンドで魅了する(2023年11月)。

九州交響楽団

中国・四国

広島交響楽団 

2023年度シーズンは、同楽団創立60周年、と同時に音楽監督下野竜也のポストのファイナルとなる節目にあたり、クオリティの高い内容となる。テーマは「繋ぐ」。これには「音楽で平和」を次の世代につないでいきたいという願いが込められており、さらには次期音楽監督・クリスチャン・アルミンクへのバトンタッチという意味も兼ねている。

定期からとくに注目される演目をあげると、下野はデビュー40周年の五嶋みどりとのチャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲とブルックナー:交響曲第1番(リンツ版)の豪華プログラム(2023年5月)、そして特別定期演奏会としてブルックナー:交響曲第8番(ハース版)と細川俊夫《セレモニー》(フルート独奏:上野由恵)を。同時期に東京公演も実施し(2024年3月)、下野らしい選曲でラストを飾る。

下野竜也 © Naoya Yamaguchi

客演では巨匠ウラディーミル・フェドセーエフ(90歳!)の予定もある。ここでもオール・ラフマニノフ・プログラムが組まれており、交響曲第2番と、ロシアン・ピアニズムの伝統を担うニコライ・ルガンスキ―のピアノ独奏によるピアノ協奏曲第2番という2大作で楽しませてくれる(2023年12月)。

広島交響楽団 

近畿

大阪交響楽団

「常任指揮者山下一史の思い入れの強い」後期ロマン派の作品を軸に展開。R.シュトラウス:《メタモルフォーゼン》&《ブルレスケ》(ピアノ独奏:津田裕也)、ブラームス:交響曲第4番(2023年5月)、ブラームス:セレナード第1番&ピアノ協奏曲第2番(ピアノ独奏:清水和音)(2024年3月)。

そして首席客演指揮者・髙橋直史が“絵画と音楽”をテーマにメンデルスゾーン:序曲《フィンガルの洞窟》、レーガー《ベックリンによる4つの音詩》より〈ヴァイオリンを弾く隠者〉(ヴァイオリン独奏:森下幸路)、ヒンデミット《画家マチス》というユニークな選曲も面白そう(2023年8月)。

大阪交響楽団

ベックリン〈ヴァイオリンを弾く隠者〉

大阪フィルハーモニー交響楽団

重鎮、尾高忠明(音楽監督)のヴェルディ:レクイエムでシーズン開始。田崎尚美、池田香織、宮里直樹、平野和という、ドラマティックな歌唱力を誇る実力派をずらりと揃えた。大阪フィルハーモニー合唱団も交えて、声の熱い饗宴となる(2023年4月)。

今年に続いてシャルル・デュトワも来日、フォーレ:《ペレアスとメリザンド》組曲、ストラヴィンスキー:《ナイチンゲールの歌》、ラヴェル:《ラ・ヴァルス》など光彩陸離たるプロを披露、上野通明を独奏に迎えてのショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲第1番も加わりなんとも豪華(2023年6月)。

オーボエと指揮、さらに作曲の3つの領域で鬼才ぶりを発揮するハインツ・ホリガ―(83歳!)がルトスワフスキ:オーボエ、ハープのための二重協奏曲と自作《音のかけら》をシューベルト:《ザ・グレイト》とカップリングするという、海外の音楽祭でやりそうなコンテンツで興味をそそる。ちなみに《音のかけら》は2008年に名古屋フィルがティエリー・フィッシャーの指揮で日本初演。その後新日本フィルで作曲者の指揮で演奏された。比較的大規模な編成で、ウェーベルンを想わせる音楽。ハープは平野花子。オーボエはホリガー自身(2023年9月)。

大阪フィルハーモニー交響楽団

ハインツ・ホリガー©D.Vass

関西フィルハーモニー管弦楽団

2011年より同楽団の音楽監督を務めるオーギュスタン・デュメイは、今季はモーツァルトに傾注。弾き振りでヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲K.364(ヴィオラ独奏:マニュエル・ヴィオック=ジュード)をブラームス:交響曲第4番と併せる(2023年5月)。さらに客演のマテュー・ヘルツォークの指揮でヴァイオリン協奏曲第3番K.216のソロも聴かせるという力の入れよう(2023年9月)。

首席指揮者の藤岡幸夫は今年が記念年ということもあってか、再評価が高まるヴォーン・ウィリアムズ:交響曲第5番と田中カレン《アーバン・プレイヤー(都会の祈り)》などユニークなプログラム(2023年4月)。後者は協奏的な楽曲で、絶好調の長谷川陽子のチェロ独奏。

そして高関健が生誕150年のラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を、新星・奥井紫麻と共演する。コンサート後半にはプロコフィエフ:交響曲第5番を置いている(2024年2月)。

2004年生まれの奥井はモスクワ音楽院付属中央音楽学校を卒業後、グネーシン特別音楽学校で学び、以降、数々のコンクールで高い成績を収め、海外で活発な演奏活動を展開する逸材。この11月に開催されたパデレフスキ国際ピアノコンクールでもアジア勢としては唯一ファイナルに残り、ショパンのピアノ協奏曲第2番の解釈が評価されて「名誉賞」を受賞している。今後も目が離せないピアニストだけに、精緻な棒さばきを誇る高関との共演が楽しみ。

関西フィルハーモニー管弦楽団

奥井紫麻©Takahiro WATANABE

京都市交響楽団

今年のサイトウ・キネン・オーケストラで《フィガロの結婚》を成功させ、オペラ指揮者としても類稀な素質をあきらかにした沖澤のどかを新常任指揮者として迎えての新シーズン、彼女の最初の出番はモーツァルト:《魔笛》序曲、メンデルスゾーン:序曲《ルイ・ブラス》、交響曲第4番《イタリア》、ブラームス:交響曲第3番(2023年4月)。

沖澤のどか ©京都市交響楽団

客演では、近年欧州でオペラとコンサートの両輪で高く評価される俊英エリアス・グランディが今年に続いて来日、金川真弓をヴァイオリン独奏にサン=サーンス:《序奏とロンド・カプリチオーソ》と、バルトーク:管弦楽のための協奏曲を披露する(2023年6月)。

人気の川瀬賢太郎は京響の特別客演コンサートマスターである石田泰尚とマルサリス:ヴァイオリン協奏曲二調とドヴォルザーク:《新世界から》(2024年2月)。前者はトランぺッターとして知られるウィントン・マルサリスによる初のクラシック作品として話題となった。ジャズ的な要素も強い4楽章のコンチェルトで、演奏時間は40分を超える大曲。奔放な演奏が魅力の石田泰尚の妙技が光るプログラム。

去る11月にTV番組「エンター・ザ・ミュージック」(BSテレ東)では広上淳一も出演し、ラフマニノフ:交響曲第3番を特集していたが、来年は広上自身の指揮でライブで聴ける。組み合わせはバルトーク:ピアノ協奏曲第2番。ピアノ独奏のジャン=エフラム・パヴゼは1962年フランス生まれの中堅ピアニスト。ウィーン古典派のソナタやピアノ協奏曲のアルバムで注目されている(2024年3月)。

京都市交響楽団

日本センチュリー交響楽団

2021年より久石譲が首席客演指揮者に就任してレパートリーに広がりをみせつつある同楽団も、2023年度は独自の方向性を印象づける。

首席指揮者の飯森範親は定期公演で現代アメリカを代表する作曲家ジョン・アダムズの《Must the Devil Have All the Good Tunes?》に向き合い(2023年6月)、カンチェリ:《タンゴの代わりに》《弦楽オーケストラ、ピアノとパーカッションのための「SIO」》(ピアノ独奏:高橋優介)とヴィトマン:ヴァイオリン協奏曲第1番(ヴァイオリン独奏:神尾真由子)、シベリウス:交響曲第7番を並べる多彩な方向性を示す一方で(2023年9月)、名物シリーズ「ハイドンマラソン」でハイドンの知られざるシンフォニーを手掛けるなど意欲をみせる。

久石譲もシューマン:交響曲第4番、ベートーヴェン:交響曲第5番《運命》と自作《Viola Saga》(ヴィオラ独奏:ナディア・シロタ)を披露するというクリエイターとしてのアイデンティティを打ち出している(2023年10月)。

日本センチュリー交響楽団

中部

名古屋フィルハーモニー交響楽団

名フィルは来年4月より川瀬賢太郎が新音楽監督に就任、現音楽監督の小泉和裕の後継者となる(小泉は2023年度以降名誉音楽監督のポストに就く)。

新世代の川瀬賢太郎が名フィルと大ベテラン小泉和裕から何を継承し、未来に何を伝えていくのか興味は尽きない。シーズン開幕では「継承者/音楽監督就任記念」と銘打って、川瀬賢太郎が究極の古典派ハイドンの「86番」と究極のロマン派マーラーの「第5番」というシンフォニーと向き合う(2023年4月)。

「教会音楽の継承と超越」では、バロック奏法をモダン・オーケストラに取り込んだ鈴木秀美が登壇。ベートーヴェン:《ミサ・ソレムニス》に挑む。中江早希、布施菜緒子、櫻田亮、永見健一郎といった古楽器アンサンブルとの共演でおなじみのソロ陣、岡崎混声合唱団らの共演(2023年6月)。

この「継承」定期シリーズ、他にも「ロシア・ロマンティシズムの継承」では、小泉和裕のタクト、ロシアの超絶技巧の若手アンドレイ・ググニンをピアノ独奏にラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番を演奏するのも楽しみ(2023年9月)。

名古屋フィルハーモニー交響楽団

川瀬健太郎©Yoshinori Kurosawa

関東

NHK交響楽団

新首席指揮者ファビオ・ルイージの就任は、N響にまろやかであたたかなサウンドをもたらしているようで、オーケストラの表現性が広がりをみせているようだ。ファビオだけでなく新シーズンには海外から名指揮者がぞくぞくと来日。豪華なソリストとの共演も実現するので期待は大きい。

2023年1月はトゥガン・ソヒエフが来日。ベルリン・フィルのヴィオラ首席のアミハイ・グロスとバルトーク:ヴィオラ協奏曲(シェルイ版)とラヴェル:《ダフニスとクロエ》組曲第1番&第2番、ドビュッシー:《海》という濃い内容のステージを展開。グロスの技巧と音楽性は圧倒的で、ヴィオラという楽器の可能性を再認識させるだけの魅力を持つ(2023年1月)。

続いては世界的に活躍するヤクブ・フルシャがこれまた絶大な人気を誇るピアニスト、ピョートル・アンデルシェフスキとシマノフスキ:交響曲第4番《協奏交響曲》を共演する。シマノフスキのこの作品は、実質ピアノ協奏曲として書かれている。なかなか実演を聴けることがないので、シマノフスキに関心のある向きは必聴。ブラームスの交響曲第4番もあか抜けたカップリング(2023年2月)。

ピョートル・アンデルシェフスキ ©Simon Fowler

パーヴォ・ヤルヴィのシベリウス;交響曲第4番とラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲、チャイコフスキー:幻想曲《フランチェスカ・ダ・リミニ》も外せない演目。ピアノのマリー・アンジュ・グッチは1997年、アルバニア出身。“早熟の天才”として欧州で話題を呼んでいる(2023年4月)。

ファビオ・ルイージは5月に来日してベートーヴェン:交響曲第6番《田園》を演奏するほか、福川伸陽とモーツァルト:ホルン協奏曲第3番K.447で共演する(2023年5月)。

NHK交響楽団

ファビオ・ルイージ

神奈川フィルハーモニー管弦楽団

神奈川フィルも音楽監督として新たに沼尻竜典がそのポストに就き大きく変化しようとしている。リニューアルした横浜みなとみらいホールでのシリーズも再開することで、ファンの期待は高まっているはず。

沼尻はショスタコーヴィチの交響曲第7番《レニングラード》で本格始動(2023年4月)。さらにマーラー:交響曲第7番《夜の歌》とグリーグ:ピアノ協奏曲を組み合わせたプログラムも用意している。ピアノ独奏はニュウニュウ(2024年2月)。

沼尻竜典

特別客演指揮者の小泉和裕でベートーヴェン:交響曲第8番とブラームス;交響曲第4番のプログラムでは、ドイツ的な響きを引き出してくれるはず(2023年7月)。名誉指揮者の現田茂夫はサクソフォンの須川展也、ユーフォニアムの佐藤采香を招いて保科洋:管弦楽のための《風紋》(原典版)、バーンズ:《アルヴァマー序曲》など(2023年11月)。

神奈川フィルハーモニー管弦楽団

群馬交響楽団

4月の新シーズンより、常任指揮者として飯森範親が就任するが、彼の提唱により定期演奏会に毎回モーツァルトの作品を入れるというアイディアは秀逸。モダン・オーケストラで、しかもピリオド奏法にこだわらずにモーツァルトを楽しみたい愛好家は多いからだ。

シーズン開幕はその飯森の指揮で、ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番とR.シュトラウス:《英雄の生涯》、それにモーツァルトの交響曲第1番K.16が加わる(2023年4月)。常にモーツァルトが最初に置かれるわけではなく、角田鋼亮指揮の回ではコダーイ:《ガランタ舞曲》とマーラー:交響曲第4番の間に《エクスルターテ・ユビラーテ》K.165(独唱:中江早希)が挟まれたりする(2023年7月)。

ほかにも工夫を凝らしたプログラミングがあり、飯森はヴェルディ:レクイエムの前にモーツァルトのレクイエム K.626から有名な“ラクリモーザ”を配置したりする(2023年9月)。この回は森谷真理、富岡明子、村上公太、平野和などトップクラスの独唱を起用しているのも魅力だ。

他にも大井剛史の指揮によるドヴォルザーク:交響曲第3番(2024年2月)など、滅多に演奏されない佳曲にも光を当てているところも新機軸といえるかと思う。

群馬交響楽団

新日本フィルハーモニー交響楽団

新日本フィルもラフマニノフでシーズン・スタート。音楽監督の佐渡裕辻井伸行とのピアノ協奏曲第2番をR.シュトラウス:《アルプス交響曲》と(2023年4月)。同じラフマニノフで交響曲第2番を秋山和慶の熟練のタクトで、前半には細川俊夫:《月夜の蓮~モーツァルトへのオマージュ》(ピアノ独奏:児玉桃)を置くのも新しいセンス(2024年3月)。

佐渡裕©Takashi Iijima

シャルル・デュトワも登壇し、ドビュッシー:《牧神の午後への前奏曲》、ストラヴィンスキー:《火の鳥》組曲(1919年版)なども聴きたい(2023年6月)。

そして上岡敏之がシューベルト:《ザ・グレイト》を振るのも注目、今年も来日したアンヌ・ケフェレックとベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番の組み合わせでハ長調プログラムとなる(2024年3月)。

また海外在住の日本人指揮者の公演としては、ピアニスト&指揮者としてフランスを拠点に活動している阿部加奈子の来日公演も興味深い。東京藝大作曲科を経てパリ国立高等音楽院で学んだ阿部は、フランスの現代作品の演奏に携わっており、数々のオーケストラやアンサンブルを指揮している。今年の7月にはエクサン・プロヴァンス音楽祭に出演。新日本フィルとの公演ではラヴェル:ピアノ協奏曲を三浦謙司と共演するほか、チャイコフスキー:《悲愴》を披露する(2023年9月)。

新日本フィルハーモニー交響楽団

阿部加奈子© Ryota Funahashi

東京交響楽団

ジョナサン・ノットは同楽団の音楽監督に就任して10年目となり、節目の年となるようだ。新シーズンを“NOTTISSIMO”と命名し、現代作品と古典とを融合させたプログラミングはまさにノットの独壇場で、意欲と創意が溢れるくらいに漲っている。これは凄いことになりそうだ。

シーズンはヨーロッパで大活躍のポーランド出身のクシシュトフ・ウルバンスキがプロコフィエフ:バレエ組曲《ロメオとジュリエット》(抜粋)とシマノフスキ:スターバト・マーテル、それにフランスの作曲家ギョーム・コネッソン(1970~)の《Heiterkeit》で幕開け(2023年4月)。ウルバンスキはさらに同国のピアニスト、ヤン・リシエツキとショパン:ピアノ協奏曲をドヴォルザーク:《新世界より》などといっしょに聴かせる(2023年4月)。

その後でいよいよジョナサン・ノット降臨。先ごろの大好評だった《サロメ》に続いて《エレクトラ》を上演する(演奏会形式)。R.シュトラウスの両作品とも大オーケストラの能力が最大限に発揮されるばかりか、ドラマティックで一寸たりとも退屈させる場面がないため、ふだんオペラを聴かない方でもすんなり入っていけると思う。クリスティーン・ガーキー、ハンナ・シュヴァルツ、ジェームス・アトキンソンら強力な布陣も魅力だ(2023年5月)。

そしてノット十八番のリゲティ+αプログラム。これはシーズン中にいくつもあるので、ここでは一つだけご紹介。リゲティ:《アパリシオン》、ブーレース:《メサジェスキス》(独奏チェロと6つのチェロのための)、ミヒャエル・アマン(1964~):《グラット》、それにベートーヴェン;ピアノ協奏曲第5番《皇帝》。チェロ独奏は同楽団の首席伊藤文嗣。《皇帝》を弾くのはゲルハルト・オピッツ。なかなかライブで接する機会の少ない作品が含まれている。これは聴いておいて損はないかもしれない。ちなみにマエストロ・ノットは2023年も《第九》を指揮する予定。

ジョナサン・ノット

東響といえば正指揮者に就任し、ますますオリジナリティを発揮している原田慶太楼がいるが、ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番とシベリウス:交響曲第7番、藤倉大:《Wavering World》をプログラムに入れている(2024年3月)。

東京交響楽団

東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

同楽団あるいは常任指揮者・高関健の趣向なのか、次シーズンもオーソドックスな曲と刺激的な作品を組み合わせるのは相変わらず。

高関健の指揮でブリテン:《シンフォニア・ダ・レクイエム》、オネゲル:交響曲第3番《典礼風》を(2023年5月)。またリゲティ:《ルーマニア狂詩曲》、同:ヴァイオリン協奏曲、バルトーク:管弦楽のための協奏曲という20世紀ハンガリー作品集もファン垂涎ものだろう、ヴァイオリン独奏の荒井英治の演奏を含めて(2023年9月)。

一方、首席客演指揮者の藤岡幸夫が久々に盟友吉松隆の交響曲第3番を振るのもワクワクさせる。シベリウス:《悲しきワルツ》とグリーグ:ピアノ協奏曲という北欧作品とのブレンドは吉松好みか。ピアノは務川慧悟(2023年6月)。ちなみに、吉松隆の作品がここにきて再び評価されつつあるのだ。前衛に拘らずジャンルの枠を超えた吉松の作品は、多様な時代にこそマッチするのかもしれない。

東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

東京都交響楽団

「新しい時代に向けての希望を込めた意欲的なプログラムを提供」する都響は、ラフマニノフと現代作品の初演が大きなポイントとなる。

シーズン幕明けは音楽監督大野和士によるマーラー:交響曲第7番(2023年4月)。

その直後には、マーク=アンソニー・ターネジが2020年に作曲した力作《タイム・フライズ》の満を持しての日本初演と、マエストロ大野は絶好調。上野通明とのルトスワフスキのチェロ協奏曲も嬉しいところだ(2023年4月)。

ニコライ・ルガンスキーとのラフマニノフ:ピアノ協奏曲第1番とシューマン:交響曲第4番(1851年改訂版)という凝ったプログラムもマエストロ大野ならでは(2023年12月)。

大野和士 ©Herbie Yamaguchi

バーミンガム市響の首席指揮者に就任する山田和樹も登場、三善晃生誕90年/没後10年記念として混声合唱とオーケストラのための作品3曲(《レクイエム》《詩編》《響紋》)を取り上げる(2023年5月)。

首席客演指揮者アラン・ギルバートは今や欧米で大人気のピアニスト、キリル・ゲルシュタインとラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を、ニールセン;交響曲第5番などとバランスよく披露(2023年7月)。

尾高忠明アンナ・ヴィニツカヤとラフマニノフ:《パガニーニの主題による狂詩曲》を得意のエルガー:交響曲第2番と(2023年5月)。

これらに加えて、エリアフ・インバル(88歳)が「第3次マーラー・シリーズ①」と題して、3度めの交響曲全曲演奏をスタートさせる。第1回は第10番(クック版)というのも期待が高まる(2024年2月)。

エリアフ・インバル ©堀田力丸

さらに、話題を呼んでいるのがジョン・アダムズが来日し、自作《ハルモニーレーレ》、《アイ・スティル・ダンス》(日本初演)などを自ら指揮する(2024年1月)、などなど、どれも聴きのがせない演目がずらりとならぶ。

東京都交響楽団

東京フィルハーモニー交響楽団

1月からの新シーズンは名誉音楽監督のチョン・ミョンフンのシューベルト:《未完成》とブルックナー:第7番というドイツ・ロマン派の代表的なシンフォニーでスタート。2楽章までしかないシューベルト:《未完成》はホ長調で終わるので、ブルックナーへの繋ぎはスムーズ。といっても両者の世界観の違いを体感できる貴重な機会。

チョン・ミョンフンは演奏会形式でヴェルディ:《オテロ》も上演する。上演時間も長くなく、ストーリー的にも分かりやすいのでこのオペラ、オーケストラ・ファンにも受け入れてもらえると思われる。出演者は調整中とのこと。

東京フィルもラフマニノフの演奏に積極的で、特別客演指揮者ミハイル・プレトニョフが幻想曲《岩》、交響詩《死の島》、交響的舞曲を一挙に指揮するほか(2023年5月)、桂冠指揮者の尾高忠明が、今年のロン=ティボー国際音楽コンクール・ピアノ部門の覇者、亀井聖矢を迎えてピアノ協奏曲第2番と交響曲第1番を披露(2023年6月)。

アニバーサリーといえば、2023年はチャイコフスキーの没後130年(少々無理があるか)で、アンドレア・バッティストーニが「オール・チャイコフスキー・プログラム」を決行。幻想曲《テンペスト》、《ロココの主題による変奏曲》、幻想序曲《ロメオとジュリエット》を取り上げるのも話題。《ロココ~》でのチェロ独奏は佐藤晴真

東京フィルハーモニー交響楽団

 

日本フィルハーモニー交響楽団 

主にアメリカとドイツで活動し、日本でもその豊かな才能を垣間見せてきたシンガポール出身の注目指揮者、カーチュン・ウォン(1986~)がピエタリ・インキネンよりバトンタッチされた首席指揮者のポストについて迎える最初のシーズン。

就任後初登場のステージでは、得意のマーラー:交響曲第3番を披露する(2023年9月)ほか、亀井聖矢とのショパン:ピアノ協奏曲第1番とブラームス:交響曲第1番をとりあげる(2023年10月)。

明けて2024年1月にドビュッシー:《海》のほか、児玉麻理・児玉桃姉妹とプーランク:2台のピアノのための協奏曲で共演するなど柔軟な音楽性をアピール。さらにマーラー:交響曲第9番(2024年 5月)にも挑むなど、世界で培った実力を存分に発揮することが期待されている。

カーチュン・ウォン © Angie Kremer

また日本フィルとは2007年以来共演を重ねてきた正指揮者の山田和樹はシーズン最初に振ることになり、モーツァルト:アイネ・クライネ・ナハトムジークやウォルトン:交響曲第2番などで熟練した音楽づくりを聴かせるのも楽しみ(2023年9月)。

日本フィルハーモニー交響楽団

パシフィックフィルハーモニア東京

実力派ソリストとの共演やほかにない企画で人気度を高めている同楽団。次シーズンも興味をそそられる演目が並んでいる。

外山雄三の指揮でシューベルト:交響曲第5番と《ザ・グレイト》(2023年5月)。近年は、《未完成》《ザ・グレイト》以外でもシューベルトの交響曲がオーケストラのレパートリーに加わるようになってきた。第5番も親しみやすさと美しい転調に満ちていて、聴衆に歓迎されているようだ。

首席指揮者である飯森範親の選曲と推測されるが、近衛秀麿編曲による作品を集めた演奏会も開かれる。これはオーケストラ・ファンの間で話題を呼ぶだろう(2023年10月)。《越天楽》(近衛秀麿による管弦楽版)、そしてショパン:ピアノ協奏曲第1番とムソルグスキー:組曲《展覧会の絵》、いずれも近衛編曲版とのこと。ピアノは松田華音。《展覧会の絵》には多くの編曲版が存在するが、近衛秀麿版があったとは驚きだ。これは押さえておきたい。

パシフィックフィルハーモニア東京

飯森範親

読売日本交響楽団

第10代常任指揮者セヴァスティアン・ヴァイグレにとって就任5期目となり、オーケストラとのコンビネーションも良好、指揮者としての円熟とともにますます充実した展開をみせてくれそうだ。

モーツァルト:《フリーメイソンのための葬送音楽》K.477、交響曲第31番《パリ》K.300、細川俊夫:ヴァイオリン協奏曲《祈る人》(日本初演)、シュレーカー:《あるドラマへの前奏曲》など表現性に富むプログラムにまず注目。国際共同委嘱となる細川作品のヴァイオリン独奏は樫本大進が務めるのも魅力(2023年7月)。

ヴァイグレは10月にも来日し、ハンス・アイスラーが1937年に作曲した《ドイツ交響曲》を日本初演する。4人の独唱、合唱、大編成のオーケストラを要する楽曲。ブレヒトやアイスラー自身によるテキストを用いて反ナチス、反ファシズムを強烈に訴える内容で、全11楽章から成る。シュレーカー同様にナチスから“退廃音楽”の烙印をおされたアイスラーの芸術と精神に光を当てる。

客演では、今年、ウェーベルン:6つの小品で可聴ぎりぎりの最弱音で異世界的な緊張感を生み出し、ベルク:《ヴォツェック》で文字通りの深淵を再現した上岡敏之がふたたびタクトをとり、ニールセン:交響曲第5番やエリソ・ヴィルサラーゼをピアノ独奏に迎えたシューマン:ピアノ協奏曲などにも惹かれる(2023年5月)。

2024年にはヴァイグレ藤田真央との2度目の共演が実現。こんどはブラームスのピアノ協奏曲第2番(前回はラフマニノフの第3番)。シューマン:交響曲第1番《春》と組み合わせたドイツ音楽の神髄を聴くことができる(2024年 1月)。

読売日本交響楽団

セヴァスティアン・ヴァイグレ ©読売日本交響楽団

東北

仙台フィルハーモニー管弦楽団

2023年に創立50周年を迎える同楽団だけに多彩なプログラムが並ぶ。

新たに常任指揮者に就任する高関健は、芥川也寸志:弦楽のための三楽章、サン=サーンス:ピアノ協奏曲第2番、そしてマーラー:交響曲第4番を披露する。ピアノ独奏はルゥオ・ジャチン(第8回仙台国際音楽コンクール・ピアノ部門優勝者)、ソプラノは中江早希(2023年6月)。

高関健 ©K.Miura

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