ファッションチェック! クラシック界を牽引するオシャレな演奏家たちから目が離せない
5月特集「ファッション」ラストを飾るのは、クラシック界を牽引する演奏家たちのファッションチェック! 衣装でも注目を集める演奏家にフィーチャーします。素晴らしい演奏とともに、見目麗しい衣装も楽しんでみませんか?
1969年徳島市生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。音楽&映画まわりを中心としたよろずライター。インタビュー仕事が得意で守備範囲も広いが本人は海外エンタメ好き。@ba...
「クラシックの演奏家とファッション」というテーマについて語るなら、まずは人気ヴァイオリニストで服飾デザイナーとしても活躍中の花井悠希から話を始めるのが良いだろう。彼女が手掛けるブランド「PANORMO(パノルモ)」は今年3月31日~4月6日にかけ、西武渋谷店にてポップアップショップを開催し(新型コロナウイルス感染拡大防止による臨時休業を挟んで)計5日間という短い会期ながら、ファッション・シーンでも話題を呼んだのが記憶に新しい。
高校時代から愛用しているヴァイオリンの製作者にちなんで名付けられた同ブランドは、クラシックからビートルズやクイーンのナンバーまでもレパートリーとする自身の音楽活動と同様に「既成の概念にとらわれず自由な発想で、音楽のように身につける人たちの生活に彩りを与える……」を目指すコンセプトとしており、その概要は以前ONTOMOに登場いただいたときのインタビューに詳しいので、そちらをぜひ読んでいただきたい。なお「PANORMO」は現在、公式オンラインストアでコレクションを公開中である。
華麗な衣装を纏うクラシック界の女性たち
さて、演奏至上主義のクラシック界においては、演奏者の容姿や身につけているものに対してとやかく言うのは何となく「野暮だ」という風潮があり、コンサート評でも当日の衣装について詳細に記されていることは稀である。
しかし、だからといってアーティストがハイ・ファッションと無縁であるわけではない。
ヴィヴィアン・ウエストウッドのドレスを着こなす歌姫、ジョイス・ディドナート
例えば現代のアメリカを代表するDIVA(歌姫)であるメゾ・ソプラノのジョイス・ディドナートのお気に入りが、英国の女性デザイナー、ヴィヴィアン・ウエストウッドの服であることはファンの間でもよく知られている。創業当時の革新的でパンクロック的な精神を継承しつつ、エレガントで高級感溢れるヴィヴィアンのドレスは、彼女のステージ衣装の定番。
有名なところではBlu-ray/DVDで商品化もされているアルバム、『戦争と平和の中で』と同コンセプトで行なわれた2017年6月バルセロナ・リセウ劇場でのコンサートがそうだ。サイモン・ラトルにとって首席指揮者として最後の演奏となった同年のベルリン・フィルのジルヴェスター・コンサートに彼女がソリストとして登場した際、ひときわ目を惹いた黒のガウンもVivienne Westwood Couture のものであった。
戦争と平和の中で/ジョイス・ディドナート
ユジャ・ワン(ピアニスト)の大胆で挑発的なスタイル
だが、特に女性演奏家の場合、ステージ衣装が話題に上るのは、ブランドの名前というよりは、その大胆で挑発的なスタイルに関することが多いような気がする。その筆頭格が先述した花井悠希のONTOMOインタビューでも言及されている、ピアニストのユジャ・ワンである。1987年北京生まれの彼女は、フィラデルフィアのカーティス音楽院在学中にプロの演奏家として活動を始め、自由奔放な音楽性でシーンに刺激を与え、破竹の快進撃を続けているトップ・スターのひとり。
完璧なコントロールと強靱なテクニックを誇る逸材だが、露出度が高くてきらびやかな衣装では時に論争を巻き起こしている。確かに15.7万人がフォローするInstagramを拝見しても、ミニスカートからすらりとした脚線を見せつけているような写真につい目を奪われてしまう。そういえば来日ツアー中の2015年11月にApple Store表参道で行なわれたミニライブ&トークイベントでも、マイケル・コースのドレスよりもクリスチャン・ルブタンのピンヒールをはいた足元に多くの視線を集めていた。
自分のファッション・ポリシーについてはドキュメンタリー映像『ユジャ・ワン~ Through the eyes of Yuja』(※Blu-ray/DVDで発売中)の中でも「ダンサーだった母親の影響もあって露出に抵抗はなく、ただお洒落が好きなだけ」と語っているのがあっけらかんとして、いかにも彼女らしい。そのスタイルはもはや音楽性の一部となって、ステージ上でのカリスマティックな存在感を引き立てているのである。
Through The Eyes Of Yuja/ユジャ・ワン
“攻め”の衣装に視線が釘付け、カティア・ブニアティシヴィリ(ピアニスト)
ユジャ・ワンと並んでもう一人、“攻め”の衣装で論議を呼んでいるのが、同じく1987年の生まれでジョージア(グルジア)出身のピアニスト、カティア・ブニアティシヴィリ。昨年リリースされた初のシューベルト作品集『シューベルト・アルバム』では、作曲家が晩年に辿り着いた静謐なる境地などを見事に表現した手腕に加えて、「ハムレット」(シェイクスピア)のオフィーリアの死を描いた有名な絵画を模したかのような美しいジャケットでもセンセーショナルな評価を得た彼女。
Instagramの写真やYouTubeにアップされている動画をチェックすると、胸元を大きく開いたり、肩や後背部を露わにしたようなスタイルにどうしても目が釘付けになってしまうが、やはり彼女の場合も実際に演奏を聴くと、官能的なドレスがそのスリリングで天衣無縫なピアニズムにぴったりと合わさって相乗効果を生んでいることがわかるはずだ。
『シューベルト・アルバム』撮影の裏側/カティア・ブニアティシヴィリ
イケてる美男子演奏家たち
そのようにファッションを上手く味方に付けている女性陣に対して、男性演奏家はどうだろう。例えばユジャ・ワンと同じように、ラグジュアリーな時計ブランド、ロレックスが「テスティモニー」としてその活動をサポートしているアーティストには、ファン・ディエゴ・フローレスやヨナス・カウフマン、ローランド・ヴィラゾンといった“新御三家”スター・テノールを筆頭に、トップ・バリトンのブリン・ターフェル、次世代リリック・テナーのベンジャミン・ベルンハイム(バンジャマン・ベルネーム)などの今をときめく男性オペラ歌手が連ねており、その装いは高級誌の広告ページを飾るに相応しいシックでスタイリッシュな佇まいを見せている。
フランスの貴公子、ザヴィエ・ドゥ・メストレ(ハープ)
しかし個人的に注目したいのは、SNSでステージまわりだけでなく、プライヴェートなセクシー写真を惜しげもなく提供する“イケてる”美男子演奏家たち。
例えば、フランスのさる高貴な出自をもつハープの貴公子グザヴィエ・ドゥ・メストレ(1973年生まれ)は一時期、自身のInstagramでまるで身体自慢のフィットネス・モデルと見紛うばかりの眩しいショットを披露してファンを楽しませていた。
アストゥリアス(伝説)/グザヴィエ・ドゥ・メストレ
音楽一家に生まれたハンガリー系の美男子、アンドレアス・オッテンザマー(クラリネット)
そして、現在もっともサービス精神が旺盛と言っても過言ではないのが、オーストリアの音楽一家に生まれ(1989年)21歳でベルリン・フィルに首席クラリネット奏者として就任以来、世界的に活躍中のアンドレアス・オッテンザマー。父親エルンスト(2017年に急逝したウィーン・フィルの首席クラリネット奏者)譲りのハンサムなハンガリー系の容姿と逞しい体躯に恵まれ、時にはバカンス中の水もしたたるシャツレス姿もアップされる彼のSNSからは今も目が離せない!
アルバム『ポートレイト』より/アンドレアス・オッテンザマー
……あれ? もはや着こなしの話ではなくなってしまったが、今やこうした(従来にはなかった発想の)開放的なイメージ戦略も“閉ざされた”クラシック界には必要なのでは?
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