クラリネット自慢その3:名手に出会った作曲家が円熟期に書いた名曲
アーティストさんが自分の楽器の魅力をとことん語る連載「My楽器偏愛リレー!」。各楽器につき、3つの自慢ポイントを紹介して、次の奏者にバトンを渡します。今回は吉田誠さんによるクラリネット自慢です。
クラリネット・ソリスト。5歳からピアノを、15歳からクラリネットを学び、また 22歳 から指揮を小澤征爾、湯浅勇治の各氏のもとで学ぶ。東京藝術大学入学後、渡仏。フラン...
クラリネットの演奏様式の枠を超えた偉大な奏者と大作曲家の邂逅
クラリネットを含む編成の室内楽作品には、傑作がたくさんあります。それもほとんどの作品が、現代まで受け継がれている有名な作曲家の、なぜか晩年に書かれています。つまり、その作曲家が円熟期を迎えたときに、クラリネットのために素晴らしい作品を作曲しているのです。
円熟期に書かれたということは、演奏するにあたって、その作品が書かれた以前の作品や人生を熟知しなければならず大変なことですが、そのぶん、一生をかけて向き合える作品が多いのは、演奏家として冥利につきるわけです。
モーツァルトの作品から始まり、シューベルト、シューマン、ブラームス、サン=サーンス、プーランク、ほかにも挙げたらきりがありません。
また、この話は、当時のクラリネットの個性的な名手と作曲家の出会いなくしては語れません。
ここではブラームスと、彼が「私のプリンマドンナ」という言葉で賞賛したクラリネット奏者、ミュールフェルトとのエピソードを少し詳しく紹介します。
ブラームスは、初めてミュールフェルトの演奏に触れた際、感激してクララ・シューマン宛に「彼ほど美しくクラリネットを吹く人はいない」とまで書き綴り、有名なクラリネット三重奏曲、五重奏曲、そしてブラームスの最後の室内楽曲となる2つのクラリネット・ソナタを作曲しました。
ミュールフェルトは、もともとヴァイオリン奏者として活躍し、独学でクラリネットを学びました。彼の音色や表現力には、ヴァイオリンの名匠ヨアヒムも、一目を置いていたと伝えられ、クラリネットの演奏様式の枠ではとらえきれない芸風の持ち主だったと言われています。ミュールフェルトの演奏なくして、ブラームスの傑作は存在し得なかったわけですね。
このような出会いはほかにも挙げられます。モーツァルトはアントン・シュタドラー、メシアンはアンリ・アコカ、バルトークはベニー・グットマンなどが有名で、文献や譜面から推察すると、それぞれの奏者が、一演奏家に収まりきらない芸術家肌で、楽器の枠を越えるような表現力を持ち、それが偉大な作曲家の想像力を刺激し数々の傑作が生まれた、と言えます。
このプロセスは、クラリネット作品を楽しむ、一つの方法だと思います。
クラリネットの魅力を味わう作品
ブラームス:クラリネット・ソナタ
今年の7月に、今回私にバトンを回してくださったピアニストの小菅優さんと、シューマンの孫フェルディナンドの日記に書かれているクララ邸でのプライベートな初演時のプログラム、また初演時の様子に想いを馳せブラームスのソナタを録音しました。約3年の時間をかけて、楽譜や背景を研究し、世界中で演奏をして、ついに録音をしました。
通常のCDの64倍も音が良いDSDで録音しました。細部に渡り演奏を楽しんでいただけましたら幸いです!
僕が心から尊敬する芸術家のお1人で、光栄にも何度が共演させていただき、その度に新しい刺激と課題をいただいて勉強をさせていただいている、ハープ奏者の吉野直子さんにバトンタッチをさせて頂きます。吉野さんのハープの演奏を聴いて以来、ハープへの世界観が180度変わりました。ハープがこんなにも表現力あふれる楽器だとは知りませんでした。そんな吉野さんの楽器へのこだわりがぜひとも知りたい!! そんな思いでバトンタッチさせていただきます。
日時: 2020年 12月15日(火)
1st.show 17:00開場、 18:00開演
2nd.show 19:45開場、 20:45開演
会場: コットンクラブ
出演: 吉田誠(クラリネット)、小菅優(ピアノ)
プログラム:
1st.show ブラームス/5つのリート、クラリネット・ソナタ第1番、シューマン/リーダークライス より《月夜》、幻想小曲集 Op.73
2nd.show ブラームス/クラリネット・ソナタ 第2番、シューマン/幻想小曲集 Op.73、サン=サーンス/歌曲集より《鐘》、クラリネット・ソナタ 変ホ長調Op.167
料金: テーブル席¥8,800、ボックスシート・センター ¥13,200、ボックスシート・サイド¥11,000、ボックスシート・ペア¥11,000※料金は1名あたりの金額
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