楽曲の世界観と主人公たちの感情が交差した青春物語『リズと青い鳥』
吹奏楽部を舞台にした公開中の映画『リズと青い鳥』のみどころを、映画ライター・よしひろまさみちさんが解説。
音楽誌、女性誌、情報誌などの編集部を経てフリーに。『sweet』『otona MUSE』で編集・執筆のほか、『SPA!』『oz magazine』など連載多数。日本テ...
人気シリーズから独立した青春映画
ベストセラー小説の『響け! ユーフォニアム』シリーズは、コミックやテレビアニメにもなり、吹奏楽ファンだけではないファンを獲得。そのスピンオフとして、現在公開中の『リズと青い鳥』が注目を集めている。
『響け!~』は、原作者の武田綾乃の出身地でもある京都宇治市にある架空の公立高校・北宇治高校を舞台に、吹奏楽コンクール全国大会を目指して奮闘する吹奏楽部員達の青春を描いた作品。タイトルにもなったユーフォニアム担当の久美子を主人公に、吹奏楽コンクールを目指すスクールバンドに所属したことがある人なら「あるある!」と思えるエピソードがふんだんに盛り込まれた作品として人気を集めた。そのプロットを活かした『リズと青い鳥』は、「リズと青い鳥」という架空の楽曲を自由曲に選んだ吹奏楽部を舞台に、楽曲内にソロのあるオーボエのみぞれとフルートの希美の関係と楽曲の世界観をクロスオーバーさせたストーリーとなっている。
テレビ版とはまったく違うキャラクターデザインとなっていることや、『響け!~』のタイトルが使われなかったことからも、この作品がスピンオフというよりも独立した作品として制作されたことに気づくだろうが、観ればそれが大成功だったことがわかる。シリーズのファンならずともすぐに入り込めるストーリー展開になっているだけでなく、テレビアニメ版とはアプローチを変え、セリフやアニメ的なデフォルメを極力排し、たとえるなら岩井俊二監督の青春映画にも似た繊細な演出をしているからだ。
オーボエのみぞれ
特別、学園もの、部活もの、としてでもなく、あくまでみぞれと希美の青春の1ページを切り取った、思い切りの良さも、一つの映画作品としての価値を高めている。
特にうまい! と思えるのは、自由曲「リズと青い鳥」の世界観の映像をインサートしながら、みぞれと希美の感情を描き出す演出。ソロがうまくかみあわない彼女らが、楽曲のアナリーゼをしながら高校生活を振り返り、楽曲の世界と自分たちの関係を見つめ直すのだ。
それは恋愛にも似た感情。入学、部活を選ぶ、共に打ち込んできたはずの親友が突然の退部~再入部など、最後のコンクールに向けてあふれる高校時代の思い出や、そのときどきの揺れ動く感情を楽曲の世界とオーバーラップさせることで、キャラクター本人のセリフを最小限にとどめ、観客の想像力をかきたてることに成功している。そのうえで、コンクールに向けて切磋琢磨する部員達の奮闘も描ききっており、スクールバンド経験者の共感も誘うところもポイント。お見事としか言いようのない吹奏楽部青春物語に仕上がっている。
フルートの希美
……と、ここまでは映画ライターとしてくそまじめにレビューしてみましたが、ここからは個人的な感情むき出しでいくわ!
なんせあたしも元吹奏楽部員。というか、ほぼ吹奏楽オタクだったあたくし。50がらみのおじさんおばさんになった今でもスクールバンドの良さを感じるのって、あのときの経験があったからなのよね。それはコンクールっていう一つの目標に向かって、それだけに集中した経験よ。早朝から夜まで練習に打ち込み、暇さえあればアナリーゼ。模範演奏のテープを聞き込みながら、自分のパート譜とフルスコアをにらめっこしたり、メトロノームと二人っきりで朝から基礎練習したり。あんなに贅沢な時間の使い方ができたのは、部活とそれを支えてくれた部員、家族、先輩達のおかげとしかいいようがないわ。
この映画を観て思い出したのは、まさにそれ。コンクール前にある独特の緊張感と、達成できない大きな壁をなんとか上ろうとする(けど滑落の連続)っていう葛藤、それに周囲の期待とか個人的な感情が入り乱れて、冷静になりたくてもなれない状態なのよねー。それってよく夏の甲子園を目指す野球部と比較されることがあるけど、彼らのそれとはかなり違うのよね。体育会系よりもずっと内省的で、内なる自分との闘いが重いのよ。だからこそ、みぞれと希美の関係のように、楽器のスキルへの嫉妬や、それまでの振る舞いに気持ちがいっちゃう。これって本当に吹奏楽部を経験した人なら「わかるわー。いたわー、こういう人」っての、わかってもらえると思うの!
はぁはぁ……感情むき出しにしてすみません。ちなみにあたしは中学時代はテューバ、高校時代はユーフォニアムとパーカッションやってました。以後お見知りおきを~。
<STORY>
北宇治高等学校吹奏楽部でオーボエを担当する鎧塚みぞれと、フルートを担当する傘木希美。高校三年生、二人の最後のコンクール。その自由曲に選ばれた「リズと青い鳥」にはオーボエとフルートが掛け合うソロがあった。
「なんだかこの曲、わたしたちみたい」
屈託もなくそう言ってソロを嬉しそうに吹く希美と、希美と過ごす日々に幸せを感じつつも終わりが近づくことを恐れるみぞれ。「親友」のはずの二人。しかし、オーボエとフルートのソロは上手くかみ合わず、距離を感じさせるものだった。
公開日:4月21日
配給:松竹
上映尺:90分
©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会
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