読みもの
2019.10.22
林田直樹の越境見聞録 File.12

クラシックオタクの心に突き刺さる、阿部寛主演ドラマ『まだ結婚できない男』

今シーズン話題のテレビドラマ『まだ結婚できない男』、クラシック音楽ファンにとっては、取り上げてもらってうれしいような、でも切ないような、複雑な気持ちになる主人公のキャラ設定。
だが、そこにシンパシーを感じたのは、我らがエディトリアル・アドバイザーの林田直樹さん。なんと、そのスピンオフ動画にお笑い芸人と共演している!?

結婚できない男に共感する男
林田直樹
結婚できない男に共感する男
林田直樹 音楽之友社社外メディアコーディネーター/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

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ひとりが大好き、結婚できない男

私はふだんドラマは全く観ない。
それどころか、テレビそのものをほとんど観ない。
どちらかというとラジオ人間なのである。
だが、たまに面白いテレビ番組を見つけると、もう夢中になって毎週観てしまう。

最近、ふとした仕事のきっかけで、久しぶりにそれに出会った。

10月からスタートしたテレビドラマ『まだ結婚できない男』(カンテレ、フジテレビ系で放映中、毎週火曜よる9時~9時54分)である。

阿部寛が演じる主人公、建築家の桑野信介という人物像が、あまりにも面白く、共感できるところが大いにあったのである。

この桑野という男、仕事はできる。建築設計へのこだわりは並大抵ではない。

だが、仕事を愛しすぎるゆえに、コミュニケーション能力と社交性に著しく欠けており、偏屈で、独善的で、皮肉屋なのだ。

「結婚するなど馬鹿馬鹿しい。自由が失われるからもってのほか」と公言し、53歳になっても独身を貫き、何よりも自分ひとりの趣味の時間を大切にしている。他人を自分の部屋には絶対に入れたがらない。

たまの休日には、ひとり自分のマンションのキッチンで嬉々としてステーキを焼き、外食の際には、ひとりで焼き肉やしゃぶしゃぶを食べに行く。誰かとは食べに行かない。

とにかく一人が大好きなのだ。

クラシックオタクぶりは、どの程度?

その桑野の変人キャラクターを象徴するのが、マンションの一室でひとりこもりきって、オーディオの前で陶酔しながら、クラシック音楽を指揮する姿なのだ。

夜、部屋を暗くして、自慢のオーディオでシューベルトやムソルグスキーなどを大音量で流し、うっとりと陶酔しながら、買い込んである指揮棒をうれしそうに、得意げに振る。(この上ない幸せ!わかるなあ)

ムソルグスキーの交響詩《はげ山の一夜》

壁の向こうの隣室の住人からすれば、ただの気持ち悪い、迷惑な男である。

このドラマ、13年前に放映されていた『結婚できない男』の続編である。当時は桑野信介は40歳という設定だったが、今回『まだ結婚できない男』として再開され、53歳となった桑野信介の変人ぶりは少しも変わらないところか、さらに磨きがかかっている。

クラシック音楽への偏愛ぶりも相変わらずだ。初回放映で、桑野が指揮しているシーンで流れたのが、シューベルトの「交響曲第5番」第3楽章である。同じ交響曲でも有名な「未完成」や「グレイト」ではなく、通好みの曲である「第5番」、というのは桑野のオタク度をよく示している。

シューベルトの「交響曲第5番」第3楽章

また、第2回放映では、建築事務所の若いスタッフのいたずらで、勝手に婚活アプリに登録されてしまうシーンがあるが、それに気が付いた桑野が、プロフィール欄に「好きな作曲家はモーツァルト」と入力されているのを見て「モーツァルトじゃない、シューベルトだ!」と怒っているところは特に印象的であった。

筆者がお笑い芸人と共演!

毎回の放映では、必ずと言っていいほど、桑野が自室でクラシック音楽を聴くシーンが挿入されるが、その際の選曲も、なかなか凝っている。

そこで私がユニバーサル・ミュージックから仰せつかったのが、お笑いコンビ「三四郎」の相田周二さんと組ませていただき、桑野の聴くクラシック楽曲について解説をするという仕事である。

その動画は、ユニバーサル・ミュージック公式youtubeチャンネルに放送終了後アップされている。

三四郎・相田周二による、阿部寛主演ドラマ『まだ結婚できない男』スピンオフ企画 【桑野信介のお気に入りクラシック曲、あの曲は何の曲?】
※今後も、毎回ではないが、随時アップされる予定。期間限定公開

今回この仕事を相田周二さんとやらせていただいて、とても勉強になったのは、お笑いの人って(特に相田さんがそうなのだが)、話す声が素晴らしいなあということ。

よく通って言葉が耳に入ってくるだけでなく、声そのものに“笑み”がある。人の気持ちを明るくする力がある。

それって、今の世の中、とても必要とされるエネルギーではないだろうか?

相田さんに助けていただきながら、ドラマ『まだ結婚できない男』を通して、少しでもクラシック音楽に興味を持つ人が増えるよう、このスピンオフ企画そのものを、私もさらに楽しみながら解説していけたらと思う。今後の動画もご期待ください。

『まだ結婚できない男』のこれからの展開は、仕事の問題、家族の問題、人と人の付き合いの問題、ネット上での個人的中傷にどう対処するかという問題など、多くの人にとってリアルで身につまされる事件が、さらにたくさん起こってくるようだ。

その中心に、コミュニケーション能力の欠如した変人のクラシックオタクがいて、なぜか周囲に魅力的な女性がたくさんいて理解者になってくれる、という状況は、夢があって素敵ではないか。

今後どんなクラシック音楽が選曲されるのかも含め、この秋ますます目が離せないドラマである。

番組概要

2019年10月8日(火)よる9時スタート(初回15分拡大)

カンテレ・フジテレビ系全国ネット『まだ結婚できない男』

毎週火曜よる9時~9時54分

公式サイトはこちら

結婚できない男に共感する男
林田直樹
結婚できない男に共感する男
林田直樹 音楽之友社社外メディアコーディネーター/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

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