ミュージカル『メリー・ポピンズ』~ディズニー映画でもおなじみのヒット曲満載の作品
音楽の観点からミュージカルの魅力に迫る連載「音楽ファンのためのミュージカル教室」。
第25回は、『メリー・ポピンズ』を取り上げます。おなじみの「チムチム・チェリー」や「スーパーカリフラジリスティックエクスピリアリドーシャス」が盛り込まれた楽しいミュージカルです。2022年3月~6月に東京と大阪で8年ぶりの再演!
1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...
トラヴァースの小説から映画化・舞台化
『ウエスト・サイド・ストーリー』は舞台が映画になったミュージカルであるが、『メリー・ポピンズ』は、原作の小説から映画と舞台になったミュージカルである。映画版も舞台版も、パメラ・トラヴァース(1899~1996)が書いた同名の小説(1934年)が基になっている。
まずは映画が作られた。小説を映画化するにあたっての、ウォルト・ディズニーと原作者トラヴァースとのエピソードは、映画『ウォルト・ディズニーの約束』(2013年)にもなっている。
映画『ウォルト・ディズニーの約束』予告編
映画版『メリー・ポピンズ』は1964年に公開され(実写監督:ロバート・スティーヴンソン、アニメ監督:ハミルトン・S・ラスク)、当時、ディズニー映画史上最高の興行収入を得た。1964年度、アカデミー賞作曲賞をシャーマン兄弟が受賞(その年の編曲賞は『マイ・フェア・レディ』)。表題役のジュリー・アンドリュースが主演女優賞を獲得している。
映画のナンバーを基軸に数曲加筆された舞台版
舞台版は、1993年、既に『レ・ミゼラブル』や『オペラ座の怪人』を大ヒットさせていたプロデューサーのキャメロン・マッキントッシュがトラヴァースと会い、交渉が始められた。
1996年にトラヴァースは96歳で亡くなったが、2001年にディズニーの劇場部門の代表であるトーマス・シューマーカーが加わり、ディズニーとマッキントッシュとの共同制作により、舞台化。舞台版は2004年にブリストルでの試演(トライアウト)を経て、同年12月にウエストエンド(プリンス・エドワード劇場)で開幕した。イギリスで初演された唯一のディズニー・ミュージカルであり、ディズニーが実写の映画を舞台化した最初の作品となった。
リチャード・エアとマシュー・ボーンが共同演出を手掛け、ボーンはスティーヴン・ミアと共同で振付も担う。ブロードウェイでは、2006年11月にニュー・アムステルダム劇場で初演された。
ブロードウェイで2009年に上演された『メリー・ポピンズ』より
オリジナルの映画版の作詞作曲は、ロバート・シャーマン&リチャード・シャーマンの兄弟が手掛けた。二人は、ディズニーランドの「イッツ・ア・スモール・ワールド」の作詞作曲で知られているが、『メリー・ポピンズ』においても「チムチム・チェリー」が大ヒットした。平易でありながら、人の心をつかむ音楽である。
その後、舞台版では、作曲家ジョージ・スタイルズ、作詞家アンソニー・ドリューのコンビによる加筆(「規律と秩序」や「ミセス・バンクスであること」など)が施された。
舞台化に際して加筆された「規律と秩序」、「ミセス・バンクスであること」
4年ぶりの再演! 劇場の特性が最大限に活かされた舞台
日本では2018年3月に初演された。今回は、それ以来の再演。2022年3月から6月にかけて東京と大阪で上演される。
2022年公演の予告動画
メリー・ポピンズが、濱田めぐみと笹本玲奈のダブル・キャスト。そのほか、バートが大貫勇輔と小野田龍之介、ジョージが駒田一と山路和弘、ウィニフレッドが木村花代と知念里奈、バードウーマンとミス・アンドリューは、島田歌穂と鈴木ほのか、である。
筆者は3月25日午後のプレビュー公演を観た。笹本、小野田、駒田、知念、島田らが出演。メリー・ポピンズの魔法や宙乗りは劇場ならではスペクタクルであり、大人数を使ったコーラスやダンスのシーンは実際の舞台でこその迫力がある。舞台化において、劇場の特性が最大限に活かされているように思われた。キャストでは笹本のクールで絵になるメリー・ポピンズが素晴らしかった。
主要ナンバーでたどるあらすじ
第1幕
ここでは、舞台版を取り上げる。
1910年のロンドン、バンクス家の手に負えない姉弟の子守り(=家庭教師)としてやってきたメリー・ポピンズは、魔法や本質を大切にする姿勢によって子どもたちの心をとらえ、大人たちをも変えていく、というストーリー。
「チムチム・チェリー」
このミュージカルで最も知られたナンバー。この物語の語り手であるバートが歌う。バートは、煙突掃除屋でもあり、冒頭の「チム・チムニー、チム・チムニー」の歌詞の“チムニー(chimney)”は“煙突”を意味する。その旋律は、数年前にロジャーズ&ハマースタイン2世によって書かれた「サウンド・オブ・ミュージック」の「マイ・フェイヴァリット・シングス」に少し似ているようにも思える。
「チムチム・チェリー」
「完璧な子守り」
バンクス家の二人の子どもたち(ジェーンとマイケル)が子守り(=家庭教師)の求人広告を書くにあたり、自分たちにとって理想的な子守りの条件をあげる。
「何もかもパーフェクト」
子守りとしてやってきたメリー・ポピンズは、子どもたちに、自分が完璧であることを軽快に歌う。
「完璧な子守り」、「何もかもパーフェクト」
「最高のホリディ」
メリーと子どもたちは公園へ行く。メリーとバートは公園の彫像たちに命を吹き込み、みんなで踊り始める。奇想天外でファンタジックな群舞シーン。
「ミセス・バンクスであること」
舞台版で加えられた、夫にも子どもたちにも失望されているのではと悩むウィニフレッドの真摯なナンバー。
「最高のホリディ」、「ミセス・バンクスであること」
「お砂糖ひとさじで」
散らかり放題の台所をメリーは魔法によってきれいに元通りにする。メリーは、苦い薬もお砂糖ひとさじで楽しく飲めると歌う。
「規律と秩序」
銀行家ジョージ・バンクスのモットー。厳しく育てられて大人になった彼の性格を示す。
「鳥に餌を」
路上で貧しい身なりで鳥の餌を売るバードウーマン。外見で判断してはいけないとメリー・ポピンズに教わった子どもたちはその教えを守る。最後は、「2ペンスを小鳥に」と、バードウーマンとメリー・ポピンズの二重唱になる。
「お砂糖ひとさじで」、「規律と秩序」、「鳥に餌を」
「スーパーカリフラジリスティックエクスピリアリドーシャス」
公園内の言葉のお店の主人ミス・コリーは、34文字からなる最長の言葉を歌い始め、子どもたちや客も歌声に加わる。
「正々堂々とゲームを」
ジェーンがおもちゃを乱暴に扱うと、怒ったぬいぐるみや人形が動き出して、歌い始める。おもちゃたちの群舞。
「チムチム・チェリー」(リプライズ)
第1幕の最後、バートとメリー・ポピンズの二重唱。屋根の上からロンドンの街を見渡す二人。
「スーパーカリフラジリスティックエクスピリアリドーシャス」、「正々堂々とゲームを」、「チムチム・チェリー」(リプライズ)
第2幕
「毒消しの薬」
父ジョージの子守りであった、厳格なミス・アンドリューが帰って来る。彼女は、子どもたちに苦い薬を飲ませる。ミス・アンドリューの激しく、声を張り上げるナンバー。
「凧を揚げよう」
バートがマイケルに父親と凧揚げするように後押しをする。たくさんの凧とともに、大きなコーラス・シーンとなる。最後に、空から、凧につかまってメリー・ポピンズが戻って来る。
「毒消しの薬」、「凧を揚げよう」
「ステップ・イン・タイム」
バートが煙突掃除仲間たちとダンスを繰り広げる。バートのタップ・ダンスと壁歩きが見もの。
「どんなことだってできる」
メリー・ポピンズに学んで成長を遂げた子どもたちが母親を励まして歌う。その歌声の輪が全員に広がっていく。
「ステップ・イン・タイム」、「どんなことだってできる」
【東京公演】
日時: 2022年3月31日(木)~5月8日(日)
会場: 東急シアターオーブ(渋谷ヒカリエ11階)
【大阪公演】
日時: 2022年5月20日(金)~6月6日(月)
会場: 梅田芸術劇場メインホール
出演: 濱田めぐみ/笹本玲奈、大貫勇輔/小野田龍之介、駒田一/山路和弘、木村花代/知念里奈 、島田歌穂/鈴木ほのか、コング桑田/ブラザートム、浦嶋りんこ/久保田磨希、内藤大希/石川新太、ほか
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