第4章 “ことば”から“うた”へ Vol.1 風のことば
日本全国の学校や合唱団で歌われ続けている合唱曲《COSMOS》や《地球星歌》。旅の体験や星空の影響を受けた作者のミマスさんが自身の想いをこめた歌です。そのメッセージが、十数年の時をかけて歌とともに広まっています。
この連載ではプロローグ、《地球星歌の旅》、想いが曲になるまで、Special Interviewに続き、近く世に出ていく新曲が、どのように創られたか紹介していきます。
Sachikoの澄みわたるボーカルと、ミマスの詞と曲を基盤とする音楽ユニット「アクアマリン」( http://aqumari.com/ )のメンバー。1998年6月結...
《風のことば》という新しい合唱曲を作りました。月刊誌「教育音楽」小学版の2017年8月号(7月18日発売)に初めて楽譜が載ります。この歌のメッセージを一言でいうと、「心に芽生えた夢や憧れを大切にしよう、いつかそれを叶えよう」というもの。ポジティブなメッセージが、穏やかなメロディに乗って展開してゆきます。ぜひ多くの方々に歌っていただけたら幸せです。
この歌は僕にとって、これまでとは少し違った経緯で作った合唱曲です。僕がこれまで作詞作曲をした合唱曲は、明確に2種類に分かれます。一つは《COSMOS》や《地球星歌》のように、もともと合唱曲だったのではなく、「アクアマリン」(僕がキーボードを弾きボーカルのSachikoが歌う音楽デュオ)のオリジナル曲として作ったもの。アクアマリンのCDアルバムに収録されている原曲は、打ち込みのドラムやベース、ギターなどからなるサウンドです。それを作編曲家の富澤裕さんが合唱用に編曲し、ピアノ伴奏も作ってくださったものが合唱曲として世に出ています。
一方で近年多いのが、学校などからのご依頼を受けて作詞作曲をするケース。学校創立何十周年といった記念事業などで、「みんなで歌を作る」というプロジェクトが行われることがあるのですね。この場合、「子どもたちの言葉や想いを集めて一つの歌を作る」という手法で制作することがほとんど。歌作りにあたって、児童・生徒の皆さんが「こんな言葉を歌に入れたい!」というアイディアをたくさん出してくれて、それを元に僕が作詞作曲をするのです。こうして完成した曲のいくつかも、広く歌っていただけるように楽譜が出版されています。
さて、今回作った《風のことば》は、そのどちらでもありません。実は今年2017年1月、東京・早稲田のスタジオで合唱音源のレコーディングに立ち会っていたときのこと。「教育音楽」編集者の方からこんなことを言われたのです。
『ミマスさんって、これまでいろんな学校の子どもたちと一緒に歌を作りましたよね…』
『ええ、けっこうたくさんやらせていただきました。』
『それらはみんな、子どもたちの想いや言葉をまとめる形で作詞作曲をされたわけですよね?』
『そうですね。』
すると、その若い編集者さんは少し考えこんで、続けてこう言いました。
『実は僕、前からずっと温めていた企画があるんです…。子どもたちの想いを形にするとかではなく、純粋にミマスさんご自身の言葉で”子どもたちが歌うための合唱曲”を作ってほしいんです。きっと良い歌ができると思います。歌のテーマは何でもいいです。自由に作ってください。いかがでしょう?』
正直、僕はとてもビックリしました。合唱曲を自分でゼロから作るなんて、やったことがなかったですからね。しかし、楽譜の出版社の方にそんなふうに言ってもらえるなんて本当に光栄なこと。「ぜひ挑戦してみたい」。そんな気持ちになり、さっそく考えてみることに。不思議なもので、「それならばこんな歌を作ってみたいな」という曲想がどんどん出てきて、数日のうちに歌詞もメロディもできてしまったのです。
ところで、僕は合唱曲の作者としてこれまでたくさんの学校にお招きいただきました。臨時講師として、音楽室で詞の内容について授業をすることもあります。合唱コンクールや音楽会のゲストとして呼んでいただくこともあります。Sachikoと二人で出向いて、体育館でアクアマリンのコンサートをお届けすることも。当然そんなときには、児童生徒の皆さんの合唱を拝聴する機会に恵まれます。教育関係者でもないのに、こんなに多くの学校に伺って皆さんの合唱を聴いた人はあまりいないでしょう。貴重な体験をさせていただいてますね。
そうした経験を重ねていると、いろいろと気づくこともあります。いつも感じるのは、小学生や中学生の合唱が持つパワーの凄さです。
小学生や中学生の合唱というのは、本当に凄いパワーを持っています。上手いとか下手とか、音程が合っているとか違うとか、そんな次元を遥かに超越した「何か」があります。
みんなの合唱を聴いて、先生がたや保護者の方たちは心から感動した様子です。感激して涙を流している人もいます。では、この大きな感動の正体とはなんでしょうか。子どもたちがメロディと歌詞を暗記して、間違えずに歌えたことに対する「よくできたね」「えらいね」という称賛でしょうか。それもあるかもしれません。でも僕はこう思います。みんなの合唱を聴いた大人たちは、聴衆として感動しているのです。素晴らしい芸術に触れ、人として心を動かされたから涙を流しているのです。子どもたちのクラス合唱は、芸術なのです。聴く人の考え方や生き方を変えることすらできるのです。僕は星の数ほどの合唱を聴いて、そういう信念を持つようになりました。合唱をしているとき、児童生徒の皆さんは一人ひとりが素晴らしい演奏家・芸術家になっているのです。
《風のことば》の歌詞を作るにあたって、大切にしたいと思ったのはそのことです。僕はぜひ、そうした小中学生の潜在的な力を最大限に活かせる歌を作りたいと思いました。歌ってくれる皆さんに、芸術家として仕事をしてもらおうと思ったのです。それは十分可能なことだからです。
この歌の詞のいちばんのポイントは、最後の4行でしょう。そこまでは歌ってくれる皆さん自身の目線で、「僕たちは夢を大切に育て、いつか叶えよう」と歌っています。これは自分自身の決意表明のようなもの。しかし最後に来て、「あなたも夢を叶えよう」と聴衆に向かって訴えます。この一瞬の転換こそ、僕としてはいちばん大事にしたかったところ。客席で聴いている人たちは、「あなたの夢は何ですか」という問いかけ、「それを叶えてください」というメッセージが、実は自分に向けられたものだったということにラストで気づくことになります。ハッとした気持ちになる人もいるかしれません(笑)。それはきっと聴く人の心を動かし、その人の何かを変えるでしょう。
僕などが教育について何か言うのはおこがましいことですけれど、お子さんたちにとっては「与えられた課題が上手にできましたね」と褒められるよりも、「あなたの歌を聴いて、私は変わった。ありがとう」と言われるほうが数段嬉しいことだと思います。自己肯定だとか、自信といったことにも繋がると思います。僕は、みんなの合唱を聴いて考え方も人生も変わりました。だから、みんなの歌声が世の中を変えられることも知っています。それでこの曲を作ったのです。歌ってくださる皆さんには、自分にもそんな大きな仕事ができるのだと信じて、楽しく元気に歌っていただけたら嬉しいです。
ミマス
夏の夜空には、明るい1等星や有名な星座が多く輝いています。なかでも夏の代表的な星座である「さそり座」を紹介しましょう。
さそり座は、15個ほどの明るい星がアルファベットの「S」の字を横に寝かせたような形に並んでいます。この大きな「S」の字が、サソリの体ぜんたいを表しているのです。
ところで、この「S」という文字を覚えておくと、さそり座に関するさまざまなことを一度に覚えられて便利ですよ。まず、見やすい季節はいつでしょうか?「S」で始まる季節は「Summer」、つまり夏です。では、どの方角に見えるでしょうか。方角で「S」といえば「South」、南です。ほら、あなたももう、さそり座がいつどこに見えるのか覚えてしまったでしょう。ついでに、さそり座を英語で言うと「Scorpio(スコーピオ)」。これも「S」で始まりますね。
さそり座のちょうど心臓のところに、赤くて明るい1等星があります。名前は「アンタレス」。僕は小学生の頃に、長野へキャンプに行って初めてアンタレスを見たときのことを強烈に覚えています。生まれて初めて見る、降るような満天の星空。見とれていると、引率の先生が遠い山の上に輝く星を指さして言いました。「あの赤い星がアンタレスだ。太陽の何百倍もある巨大な星なんだ…」。僕はそのとき漠然と、宇宙の不思議に触れたような気がしました。それが今につながっているのかもしれません。あなたも、この夏休みに星空の美しい高原や離島などにでかけたら、ぜひさそり座を見つけてみてください。
2017年7月の星空(アストロアーツ:星空ガイド)
この夏、ファン待望の新たな合唱曲集が発売予定です。名コンビの編曲者・富澤裕氏による「富澤裕コレクション」シリーズより、タイトルは「つないで歌おう」。合唱団の子どもたちの言葉からつくった素敵な合唱曲です。ほか、オーストラリアの旅でインスピレーションを得た「エスペランサ~希望~」など、新たに編曲された曲も入る予定です。
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