音楽ファンのためのミュージカル教室 第3回:2019年後半に上演するオススメ名作

オペラのようにミュージカルを楽しむ~まずは名作を劇場で!

読みもの
2019.09.03

これからミュージカルの世界に入りたい「音楽ファンのためのミュージカル教室」。
第3回は、「サウンド・オブ・ミュージック」「ウエスト・サイド・ストーリー」「オペラ座の怪人」などの定番とともに、2019年後半に観劇できる名作を中心にご紹介します。360°回転する特殊な劇場、IHIステージアラウンド東京で上演中の「ウエスト・サイド・ストーリー」ほか、注目すべき公演が目白押し。2019年後半は、ミュージカルデビューしてみませんか?

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メインビジュアル:IHIステージアラウンド東京『ウエストサイドストーリー』より(Photo: Jun Wajda)
ナビゲーター
山田治生 音楽評論家
山田治生
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山田治生 音楽評論家
1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

「オペラのように」楽しむとは?

今回は「オペラのようにミュージカルを楽しむ」というタイトルだが、ミュージカルを声楽的に楽しもうと言っているわけではない。

オペラ・ファンの方には、オペラ初心者だった頃、どのようにオペラを楽しみ始めたかを思い出していただきたいと思う。多くの方が、定番オペラから入って、だんだんマニアックになって行くという道筋をたどったに違いない。もちろん、ビゼーの「カルメン」を聴く前に、「真珠採り」や「ジャミレ」からオペラに入ったって悪くはない。

それでも、オペラの初心者には、まずは名作から始めて、レパートリーを増やしていくことをおススメしたい(オペラは柱となっている作曲家を押さえると、オペラ史の流れが理解しやすくなる)。たとえば、これからオペラを観ようとする方に、最初に観るべき3つのオペラをあえて私があげるとすると、「フィガロの結婚」「ラ・ボエーム」「ばらの騎士」になるだろうか。どれもオペラならではの華やかさがあり、美しく覚えやすい旋律が多いからである。

名作中の名作ミュージカル

ミュージカルは、オペラほどの長い歴史を持っているわけではないが、それでも定番や名作といわれる作品が存在する。名作とは、時間による淘汰を経て、今も劇場の人気レパートリーとして生き続けている作品をいう。

ミュージカルをこれから観ようとする方におススメの3作を私があげるとすると、「サウンド・オブ・ミュージック」(1959年)、「ウエスト・サイド・ストーリー」(1957年)、「オペラ座の怪人」(1986年)になる。それぞれが素晴らしい作品であるだけでなく、ミュージカルの一時代を画した作曲家(リチャード・ロジャース、レナード・バーンスタイン、アンドルー・ロイド・ウェッバー)を知ることによって、他の作品にも楽しみを広げていけるからである。

「サウンド・オブ・ミュージック」は、リチャード・ロジャース(作曲)&オスカー・ハマースタイン2世(作詞)のコンビの最後の作品であり、代表作でもある。ロジャース&ハマースタインは、「オクラホマ!」、「回転木馬」、「南太平洋」、「王様と私」など古き佳き時代のミュージカル・コメディを残した。

一方、マンハッタンのスラム街の不良少年たちを描く「ウエスト・サイド・ストーリー」は、レナード・バーンスタインの革新的な音楽とジェローム・ロビンズの斬新なダンスによって、新しい時代のミュージカルを切り拓いた。

「オペラ座の怪人」は、現代を代表するミュージカル作曲家、アンドルー・ロイド・ウェッバーが、劇中劇にオペラを用いるなど、ミュージカルにオペラを取り入れた画期的な作品。

2019年後半から上演! 名作ミュージカルを劇場で観よう

ミュージカルは、古典ではなく新しい舞台芸術だから、新作を観るというのが本来の楽しみ方(=醍醐味)なのだろう。それでも、名作ミュージカルを「オペラのように」楽しむことは、ミュージカル・ファンになるための近道のように思われる。

今回は、今年後半から来年にかけてどのような名作ミュージカルが上演されるのかを、紹介したい。

今年、「ウエスト・サイド・ストーリー」は、360度回転劇場として2年前にオープンしたIHIステージアラウンド東京で上演される。8月から10月は外国人キャストによるオリジナルクリエイティブ版(英語上演/日本語字幕付き)、以降、日本語上演版となり、11月から来年1月のSeason1では、トニーは宮野真守と蒼井翔太、マリアは北乃きいと笹本玲奈のダブル・キャストが組まれる。それ以後、別キャストのSeason2、Season3へと続いていく。

360°回転する客席を、巨大な可動式スクリーンとステージが取り囲むという特殊な劇場、IHIステージアラウンド東京。360°周囲に建て込まれたセットに、物語の展開に合わせて客席がゆっくり回転することで、セット転換を待つことなく物語が進行。(Photo: Jun Wajda)

トニー&マリア スペシャルインタビュー

劇団四季は、全国各地に専用劇場を持ち、巡演も含めて全国展開している。

四季の「ライオン・キング」は1998年以来20年以上のロング・ランとなっている。第1回サイトウ・キネン・フェスティバル松本での「エディプス王」やメトロポリタン歌劇場の「魔笛」など、オペラの世界でも活躍するジュリー・テイモアの演出が素晴らしい。とりわけ、冒頭の「サークル・オブ・ライフ」には圧倒される。作曲はエルトン・ジョン、作詞はティム・ライス。2020年1月までは福岡でも上演されている。

「キャッツ」(ロング・ラン中)は、「オペラ座の怪人」、「ジーザス・クライスト・スーパースター」、「エビータ」と並ぶ、ロイド・ウェッバーの代表作。文豪T.S.エリオットの詩を原作としていて、ドラマティックなストーリーを持たず、登場するキャラクターが全員ネコという、それまでのミュージカルの常識ではありえない企画であったが、音楽とダンスの力で、大ヒットし、ミュージカルの歴史を変えた。とりわけ「メモリー」は、ロイド・ウェッバーらしい抒情的な名曲。劇団四季は、新たな専用のキャッツシアターを大井町に建てた。

「エビータ」は、アルゼンチンのペロン大統領の妻、エバ・ペロンの物語。「ドント・クライ・フォー・ミー、アルジェンティーナ」はロイド・ウェッバーを代表する美しい(プッチーニに匹敵する)ナンバーである。浅利慶太追悼公演として9月から12月まで全国ツアーが行なわれる。

 

「エビータ」プロモーションVTR

帝国劇場では、「ラ・マンチャの男」(10月)、「ダンス・オブ・ヴァンパイア」(11月)、「ミス・サイゴン」(2020年5~6月)などが上演される。

「ラ・マンチャの男」は、セルバンテスの「ドン・キホーテ」を原作としている。作曲は、ミッチ・リー。セルバンテス&ドン・キホーテを演じるのは二代目松本白鸚(かつての松本幸四郎)。彼のライフワークであり、ブロードウェイでの舞台でも演じた経験もある。今回、通算1200回を超える公演数が更に増えることになる。ドン・キホーテが思いを寄せるアルドンザ役は瀬奈じゅん。

「ダンス・オブ・ヴァンパイア」は、「エリザベート」、「モーツァルト!」を手掛けたミヒャエル・クンツェ(脚本と歌詞)と作曲家ジム・スタインマン(作曲)によって作られた。映画「吸血鬼」を1997年に舞台化(ウィーンで初演)したもの。吸血鬼・クロロック伯爵を山口祐一郎が演じる。

「ミス・サイゴン」は、「レ・ミゼラブル」でも知られるクロード=ミッシェル・シェーンベルグが作曲。フランス人のクロード=ミッシェルにとって、アルノルト・シェーンベルクは遠い親戚にあたる。「ミス・サイゴン」は、「蝶々夫人」のベトナム戦争版。実物大のヘリコプターを使ったスケールの大きな舞台とオペラを思わせる壮大な音楽が特徴的。主要キャストは交替で演じられ、エンジニアには市村正親、キムには高畑充希らが決まっている。

「ラ・マンチャの男」2019年PV

「ミス・サイゴン」2020年PV

日生劇場では、「スクルージ~クリスマス・キャロル」(12月)、「ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド~汚れなき瞳~」(2020年3月)に注目。

「スクルージ~クリスマス・キャロル」の原作は、ディケンズの「クリスマス・キャロル」。映画の舞台化。レスリー・ブリッカスが脚本・作詞・作曲を手掛ける。スクルージ役は、市村正親の十八番の一つ。

「ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド~汚れなき瞳~」は、アンドルー・ロイド・ウェッバーの1996年の作品だが、今回が日本初演にあたる。同名の小説および映画を舞台化。白井晃が演出を手掛け、三浦春馬や生田絵梨花が出演する。ロイド・ウェッバーの隠れた名作が漸く日本で紹介されるのが楽しみ。

シアター・オーブでは、「天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~」(11~12月)が上演される。同名の映画の舞台化だが、音楽はディズニー映画(「美女と野獣」、「リトル・マーメイド」、「アラジン」)でも知られるアラン・メンケンがあらためて作曲した。修道院のシスターたちがクラブ歌手であるデロリスにコーラスの指導を受けることになり、修道院の聖歌隊が変貌を遂げていく。デロリスは森公美子と朝夏まなととのダブル・キャスト。

以上、紹介したミュージカルは、ほとんどが、繰り返し上演されている名作である。ミュージカルを、音楽作品として楽しむために、オペラのように作曲家を意識して聴いてみたい。

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