
読みもの
2020.10.14
曲名のナゾ Vol.14 10月の特集「食」
バレエ《泡立ちクリーム》〜お菓子に囲まれた楽しい作品で敗戦のショックを慰める


広瀬大介 音楽学者・音楽評論家
青山学院大学教授。日本リヒャルト・シュトラウス協会常務理事・事務局長。iPhone、iPad、MacBookについては、新機種が出るたびに買い換えないと手の震えが止ま...
バレエ《泡立ちクリーム》(1924年初演)、ずいぶんとおいしそうな曲名です。原題は「Schlagobers シュラークオーバース」。オーストリアのドイツ語で「泡立てた生クリーム」そのものを指します(ちなみにドイツのドイツ語では「Schlagsahne シュラークザーネ」と呼ぶのが普通です)。
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ウィーンのお菓子屋さんで子どもたちが生クリームたっぷりのお菓子を食べるうち、ひとりの少年が気分が悪くなり、ありとあらゆるお菓子に囲まれる悪夢(?)をみる、という、楽しい雰囲気のバレエです。
リヒャルト・シュトラウス(1864〜1949)は、第1次世界大戦後、指揮者フランツ・シャルクとともに、ウィーン国立歌劇場の監督職を共同で務めています。ハプスブルク帝国は消え失せ、敗戦のショックに落ち込むウィーンのひとたちを慰めたい、という想いから作られた作品でした。オペラのイメージが強いシュトラウスも、本作を含む2作のオリジナルの音楽のほか、他者の作品を編曲したバレエをいくつか手がけています。
数多くの妖精が登場するというバレエときいて、読者の皆様が真っ先に思いつくのは、きっとお菓子の精が次から次へと登場するチャイコフスキー《くるみわり人形》かとは思います。でも、ウィーンで同作が上演されたのは《泡立ちクリーム》の5年後の1929年になってから。華やかな妖精の踊りに彩られる筋書き、バレエとしてはいずれもピッタリですね。
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