《熊の皮を着た男》〜ワーグナーの息子・ジークフリートの初オペラ
青山学院大学教授。日本リヒャルト・シュトラウス協会常務理事・事務局長。iPhone、iPad、MacBookについては、新機種が出るたびに買い換えないと手の震えが止ま...
本連載のお話をいただいて以来、いつかは紹介したい、と思い続けていた、最高に「ヘンな曲名」をつけた作曲家が存在します。そのひとを、前後2回に分けてご紹介いたします。
そのひとの名は、ジークフリート・ワーグナー(1869〜1930)。ご存じ、あのリヒャルト・ワーグナーの息子です。母親はフランツ・リストの娘コジマですから、音楽家としての生涯を約束されたような存在でした。ではあるのですが、父リヒャルトは、自身の楽劇の主人公の名前をそのまま与えた息子に対し、必ずしも音楽家になることを強制することはなかった、というのは興味深いところです。
2人はジークフリートが生まれた翌年の1970年に正式に再婚した。
そんなジークフリート、はじめは建築家を志していたのですが、父親は1883年に死去。父が作ったバイロイト祝祭劇場とその音楽祭を母コジマが支える姿を見て、やがては自分がこの音楽祭の屋台骨を支えなくてはならない、と思い至ったようです。おずおずと、少しずつ、作曲活動もはじめることになりました。
作曲の師匠は、やはり父から直接教えを受けたエンゲルベルト・フンパーディンク。1898年に作曲したはじめてのオペラのタイトルは、《熊の皮を着た男》。タイトルにちょっと驚かされます。正確には「着させられた」男、というべきですね。
貧乏のどん底にあった主人公ハンスが、魑魅魍魎にさまざまないやがらせ(熊の皮を被せられるのもそのひとつ)を受けるも、やがてルイーゼという心優しき女性と結婚するという筋書き。
父親の作品とはかなりかけ離れた、素朴な音楽に驚かされますが、《ヘンゼルとグレーテル》を作った師匠フンパーディンクの影響もさることながら、さらにそれ以前、ウェーバーやロルツィング、マルシュナーといった前期ドイツ・ロマン派の時代に作曲された、異界への憧れを含む題材の伝統を、色濃く受け継いだと言うべきかも知れません。(続く)
後編は10月28日(水)公開!
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