読みもの
2022.07.18
高坂はる香の「思いつき☆こばなし」第107話

小曽根 真にとってクラシックのレパートリーとは~プロコフィエフ3番の衝撃 

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

photo Kazuyoshi Shimomura(AGENCE HIRATA)

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この夏の小曽根真さんのスケジュールは、まるで“クラシックの人”のようです。

7月15〜17日にはNHK交響楽団とラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を3日連続で演奏。そして現在開催中のパシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌(PMF)ではフィナーレのコンサートに出演し、7月30、31日に札幌で、8月2日に東京でプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番を演奏されます。

マネージャーさんも、「なんだか藤田真央くんのスケジュールみたいよねー」とおっしゃっていましたが(まるで他人ごとのようだけどご自分でフィックスしたスケジュールでは?と心の中でつっこみながら聞いていましたが!)、本当に、スケジュールの詰まり方といい、演目といい、完全にチャイコン入賞者の若者のそれという感じ……。

そんな小曽根さんに先日、PMFの広報誌のためにインタビューする機会がありました。

プロコフィエフの3番はジャズ屋魂をくすぐる

今回演奏するプロコフィエフの3番は、小曽根さんにとって、若き日に刺激を与えてくれた特別な作品なのだそう。20代の頃、コンポーザーピアニストとしてデビューするにあたり殻を破りたいともがいていたとき、ヒントを得ようと(それまであまり好きではなかったクラシック音楽作品から)この曲を薦められて聴き、衝撃をうけたのだとか。

そのあたりの詳細は記事をご覧いただくとして、とにかくプロコフィエフの3番は弾いていると、「ジャズ屋魂をくすぐるところがいっぱいあって、楽しくてしょうがない」のだそうです。

小曽根さんが実際にクラシックの協奏曲をソリストとして弾くようになるのは、そのデビューから20年後の2003年のこと。初めはモーツァルトの協奏曲の機会が多く、それはやはりジャズ・ピアニストならではの自在なカデンツァに期待を寄せての抜擢という部分もあったと思います。

しかし今となっては即興パートなしのゴリゴリのクラシックの協奏曲でも、小曽根さんならではの譜面の読み方、リズムやハーモニーの鳴らし方にみんなが期待するようになったことで、こうした演目の舞台に立たれる機会が増えたのでしょう。

ちなみに練習の際、ラフマニノフの譜面にはコードを書き込んだりしているそうですが、プロコフィエフについては、「複雑すぎてかえって面倒になるから書けない」とのこと!

photo Kazuyoshi Shimomura(AGENCE HIRATA)

アーティストにとって「修行」は楽しいもの

そして小曽根さん、9月には大阪国際フェスティバルの「小曽根真×鈴木優人×大阪フィル」で、ラヴェルのピアノ協奏曲ト長調と、モーツァルトの2台のピアノのための協奏曲(セコンドは鈴木優人さん)を演奏するという、クラシックのピアニストでもなかなかないことをおやりになる模様。

まるで修行のようにいつもご自身に試練を課しているようなところがあって、でも常に楽しそう。実際こんなふうにおっしゃっていました。

「修行っていうのは、誰も強制するものじゃないでしょ。ここがポイントなんです。やりたいことなんですよ。自分で自分を下手くそだって言って追い込んでいく。弾けないから悔しいけれど楽しい、それで気がついたら少しずつうまくなって、やがてとんでもないところまでいけるときがある。それは生きる力ですよね。そういう演奏ができると、聴き手に何かを感じてもらえるのではないかと思います」

良いコンサートは、アーティストの修行の成果をありがたく享受する、そんな場であります。

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

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