読みもの
2020.06.28
【連載】クラシックプレイヤーのためのジャズ講座 Vol.2

8分音符ハネすぎ問題——ダサいジャズから脱却してスウィング感を出すには?

「ジャズをやってみたい&やってみたけど、なぜかジャズっぽくならない」という悩みをもつプレイヤーたちに、現役ジャズ・ベーシストがお届けする連載第2回。ジャズをやるからには避けて通れない、8分音符に迫ります。

ナビゲーター
小美濃悠太
ナビゲーター
小美濃悠太 ベーシスト

1985年生まれ。千葉大学文学部卒業、一橋大学社会学研究科修士課程修了。 大学在学中より演奏活動を開始し、臼庭潤、南博、津上研太、音川英二など日本を代表する数々のジャ...

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前回は、吹奏楽やオーケストラでクラシック音楽を演奏してきたプレイヤーがジャズを演奏するときに立ちはだかる壁、すなわち「なんかダサい」という問題について解説した。

その中で、ジャズを演奏するとダサくなってしまう原因として、以下のようなポイントを挙げている。

ジャズを演奏するとダサくなってしまう原因
  • in tempoの感覚の違い:「歌ってしまう」演奏、伸び縮みする拍
  • 楽しく明るくノリノリなジャズ
  • ハネすぎて盆踊り状態になってしまう8分音符

今回は、この中から「8分音符ハネすぎ問題」について解説していきたい。

楽譜に書いてある「アレ」を鵜呑みにしない

間違ってはいないけど、誤解を招くこの記号。

「タタタタ」という8分音符を「タッタタッタ」とハネて演奏してください、という指示の記号。確かに8分音符はハネ気味に演奏されるし、スウィングのリズムには三連符が常に流れている。

しかし、これを額面通りに受け取って、「タッタタッタ」と演奏してはいけない。これが屈指の破壊力を誇る、ダサい演奏の元凶のひとつなのだ。

スウィングのリズムで演奏するときには常に三連符を感じていたほうがいい。しかし、8分音符をそれに合わせて演奏するわけではない。前回も少し言及したが、ジャズは「ズレる」音楽。全員の8分音符がぴったり合ってる演奏には、推進力が生まれない。ズレの中から、波やウネりのようなエネルギーが生まれ、独特のあの気持ちいい「スウィング感」が得られる。

息を合わせて、アタックも音を切る位置もみんなで合わせて演奏してきたプレイヤーは、「ズレて演奏するなんて……!」と抵抗を感じるかもしれない。かくいう私も、未だに合わせてしまうクセが抜けきってはいない(合わせなきゃいけない現場もあるし)。しかし、ズレを許容するところからジャズが始まると言っても過言ではない。

では、実際の演奏を聴いて、三連符になっていない8分音符を体験してみよう。

三連符と8分音符は区別して演奏されている

夭折した名トランペッター、クリフォードブラウンの演奏を聴いていただきたい。

わかりにくいかもしれないので、何度も繰り返し聴いてみてほしい。三連符は演奏の中にたくさん出てくるが、8分音符はそれとは違う音価やタイミングで演奏されていることに気づくはずだ。

フレーズの中に三連符がたくさん現れることからもわかるように、スウィングのリズムで演奏する中で三連符の感覚は非常に重要だ。「ジャズは三連符で演奏する」という無責任な言葉の根本はここにある。

では、8分音符はどうだろう? 十把一絡げに言うことはできないが、ソロイスト(とりわけ管楽器)は、他の楽器よりも遅い位置で発音することが多い。さらに、三連符というほどハネてはいなくて、もう少し8分音符の感覚に近い。カタカナで書くと「タッタタッタ……」という三連符ではなく、「ドゥダァドゥダァ……」という重い8分音符のように聴こえないだろうか。

ジャズマンが8分音符を三連符に変換して演奏しているなら、三連符と8分音符の区別ができないはずだ。しかし、実際には明確に吹き分けられている。したがって、「8分音符=三連符の1つめと3つめ」という吹き方は適切ではない。

もちろん、8分音符をたっぷりハネて三連符にしているプレイヤーも数多くいる。それでもカッコいいのは音価やアクセントがジャズっぽいからなのだが、これもぜひ8分音符のハネ方と同様に研究してみてほしい。

「八分音符はこう吹く!」という正解はない

再び、おそらく誰もが耳にしたことがある曲を取り上げてみよう。グレン・ミラー楽団のナンバーから《イン・ザ・ムード》。

場面ごとに8分音符のハネ方が微妙に違うことにお気づきだろうか。例えば冒頭のサックスは三連符に近いハネ方だし、直後のブラスはそれと比べるとハネ方が小さくて、少し8分音符寄りになっている。それ以降も、セクションやパートごとに違うハネ方になっているように感じられる。

そう、8分音符の吹き方は場面によってさまざま。たったひとつの真理なんてものはないのである。

もしブラスバンドやビッグバンドで演奏するなら、参考にする音源をよく聴いて、フレーズごとの吹き方をディスカッションすることが必要だろう。これはクラシックのセクション練習と同様である。

パートによっても違う8分音符

続いて、聴きやすいように現代の録音から。スローなナンバーで、サックスとギターの8分音符の違いに注目してほしい。

メロディーやアドリブを吹いているサックスは8分音符を均等気味に、後ろでリズムを刻んでいるギターは8分音符を三連符気味に演奏している。パートや、アンサンブルの中での役割によって、8分音符のハネ方が違うことを理解しておこう。

全員のハネ方がぴったり合っていたら、ウネりのないクリーンすぎるリズムになってしまう(それはそれで技術的にはスゴいけど)。

テンポによっても違う8分音符

続いて、同じアルバムから3曲。テンポによって8分音符の吹き方が違うことに注目してみよう。

スローテンポの《Lil’ Darlin’》では、かなり三連符に近いハネ方。ただし、音価やアクセントが絶妙にカッコいいポイントになっている。これは感覚をつかむのが非常に難しい。

逆に《Jumpin’ At The Woodside》のような速いテンポになると、もうほぼ8分音符である。アクセントが8分の裏についているので、ハネていなくてもスウィングして聴こえるのだ。

どのテイクもカッコいいが、これが唯一の正解というわけではない。この8分音符の吹き分けや解釈は人によって違う。8分音符こそがプレイヤーの個性だと言ってもいいぐらいだ。

カッコいい8分音符を身につけるには?

このように、テンポによってもパートによっても8分音符の吹き方は違うし、曲中でもいろいろ使い分けたりする。あらゆる場面において、8分音符は異なる解釈が使い分けられているのである。嗚呼、深淵なるスウィングの世界!

しかし、理想の8分音符はみんな違いまーす、という結論で放り出すわけにはいかない。どうやったらカッコいい8分音符を身につけることができるのだろうか?

まず、ここまで長々解説してきたように、8分音符はあらゆる場面でハネ方が違う、ということを理解しよう。その上で、参考にする音源をしっかり聴き込んで、マネしてみる。バンドで指定された参考音源でもいいし、自分のお気に入りのプレイヤーでもいい。そっくりのフィーリングで吹けるようにマネするのだ。

楽器を使ってもいいし、口で歌ってもいい。そのときに、「8分音符がハネている」という思い込みを捨てて、「8分音符をどう演奏しているか」ということをできるだけ先入観なく聴いてみよう。そしてマネしてみよう。

何度も何度もそれを繰り返しているうちに、少しずつフィーリングが自分の体に染み込んでくるはずだ。そこから、終わりなき8分音符の旅が始まる。

ちなみに、「タラララ……」とか「ヤンタタ……」みたいなクラシックの歌い方はまずゴミ箱に捨てよう。「ドゥダドゥダ」のような濁点のある音のほうが雰囲気が出る。発音のキレがよりジャズ的になるという利点もある。

なお、ドラムの場合は「チンチキチンチキ」ではなく、「ディンディキディンディキ」のほうが近い。チンチキチンチキ言ってると「お前のシンバルはインチキインチキだな」とヤジが飛んでくる(これが言えるようになったらベテランジャズマン)。

1日で身につけたい!努力したくない!という場合は?

しつこいようだが、8分音符はジャズミュージシャンのアイデンティティとも言うべき重要なテーマ。長い時間をかけて追求するもので、カンタンに身につくコツなんてものはない。

しかし「友だちの前で『ジャズ得意なんだ』って見栄張っちゃった」とか「俺、8分音符がカッコよく吹けたらプロポーズするんだ……!」等の切羽詰まった事情がある方のために、それらしく演奏するためのガイドをちょっとだけ書いておこう。

それらしく演奏するためのガイド
  • テヌート気味に、ほんのちょっと裏拍にアクセントをつけて演奏する。短く切るとすごく盆踊り。
  • ゆったりしたテンポは三連符、ミディアムはストレートな8分音符に寄せて、アップテンポはほとんどストレート。
  • 裏拍にアクセントがつくけど、やりすぎるとカッコ悪い。特にゆったりしたテンポでこれみよがしにやると、聴いてるほうがちょっと恥ずかしい。

これはあくまで、解像度の非常に低い大雑把な話。いろんなプレイヤーの演奏を聴き込んで、自分がカッコいいと思ったものを体の中に取り込む作業なしには、ダサいジャズを脱却することはできないのだ。

自分の生徒にも言うことだが、フィーリングを身につける近道はよく聴くこと。音を聴かずに、言葉の説明で理解しようとする人は、9割方が……その……というのが正直なところ(逆に聴くのが大好きな人は上達が早い)。

次回のテーマは「グルーヴ」

暑苦しく8分音符について語り尽くしたところで、次回はより大きなテーマに移りたい。リズムやグルーヴという、より抽象的なテーマを扱う予定だ。

ほかのミュージシャンが読むと「いやここは違う」「俺に言わせればこれも違う」「これだから小美濃は」というように議論や罵詈雑言が飛び交うことになりそうなテーマだが、覚悟を持って臨みたいと思う。どきどき。

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小美濃悠太
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小美濃悠太 ベーシスト

1985年生まれ。千葉大学文学部卒業、一橋大学社会学研究科修士課程修了。 大学在学中より演奏活動を開始し、臼庭潤、南博、津上研太、音川英二など日本を代表する数々のジャ...

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