読みもの
2020.09.26
【最終回】クラシックプレイヤーのためのジャズ講座 Vol.4

カッコいいジャズ演奏のために聴き込むべき12曲——マネは上達への最短ルートだ!

「ジャズをやってみたい&やってみたけど、なぜかジャズっぽくならない」という悩みをもつプレイヤーたちに、現役ジャズ・ベーシスト小美濃悠太さんが、そのダサさからの脱却方法を提案する連載。
最終回は、とにかく聴いてイメージをつかむために参考になる音源と、聴くポイントをご案内。まずは鼻歌でマネして体に入れるべし!

ナビゲーター
小美濃悠太
ナビゲーター
小美濃悠太 ベーシスト

1985年生まれ。千葉大学文学部卒業、一橋大学社会学研究科修士課程修了。 大学在学中より演奏活動を開始し、臼庭潤、南博、津上研太、音川英二など日本を代表する数々のジャ...

自身のアルバムを手に持つジョン・コルトレーン(1961年アムステルダム、エディソン賞の授賞式にて)
Dave Brinkman (ANEFO)

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ここまで3回にわたり、クラシックプレイヤーがジャズを演奏するためのガイドを続けてきた。こんなに込み入った話になる予定ではなかったのだが、いずれぶつかるであろう壁のことを考えると、先の課題や抽象的な議論を先取りしたくなってしまう。なんとなーく、ざっくり、でもかまわないのだけれど、雰囲気をつかめていてもらえれば幸いだ。 

最終回となる今回は、小難しい話は置いといて、とりあえず聴いてみようか! ということで、ジャズ始める・うまくなるために聴いておきたい曲、そしてチャレンジしてみてほしい曲のプレイリストをご紹介しよう。

偉大なミュージシャンを聴き込み、マネすることは理解への最短ルートだ!

この連載ではしつこく言っているように、まず聴いてほしい。聴いてない、体に入ってないものを演奏するのは難しい。いや、「無理だ」と言い切ってもいい。 

とりわけ第2回第3回で解説した8分音符、4分音符問題については、とにかく偉大なミュージシャンが遺した録音を聴き込むことが理解の最短ルートである。大事なことなので2回言うが、偉大なミュージシャンが残した録音を聴き込むことが理解の最短ルートである。

このジャズ講座で語り続けてきたのは、ある意味では「音楽の聴き方」でもある。ただ「名演を聴け!」と言われても、いきなりそこから何かを学ぶのは難しい。過去の名演ではどこがどうなっているのか? そんな視座として、リズムのことを解説してきたつもりだ。 

さぁ、御託はそろそろ終わりにしよう。偉大なミュージシャンたちがどんなリズムで、どんなアクセントで吹いているか、じっくりと聴いてみてほしい。これらの名演を楽器でマネするのは難しくても、鼻歌でマネできるようになれば、ダサいジャズからの脱却への道は近い

まずはココから! ダサいジャズから脱却するために聴きたい曲リスト

このプレイリストは、ここまで解説してきたことが聴きとりやすい名演を集めたもの。比較的シンプルに吹いているものを中心にしているので、体に入れやすいのではないかと思う。

ブルー・スプリング・シャッフル/ケニー・ドーハム

ケニー・ドーハムによるミディアムテンポのブルース。ハネる8分音符、ハネない8分音符、リズムセクションよりも遅れて吹く8分音符など、8分音符の吹き方のわかりやすいショーケースのような演奏だ。

オン・グリーン・ドルフィン・ストリート/マイルス・デイヴィス

わざわざここで紹介しなくても、あらゆるジャズおじさんから「マイルスを聴け!」と言われた方が多いのではないかと思う。たしかに聴くべきではあるのだが、そういうおじさんが勧めるものに限って参考にならないことが多い(小美濃調べ)。

演奏の参考に、という意味では、この演奏が収録されている「1958 Miles」というアルバムがオススメ。テナーサックスのジョン・コルトレーンも比較的シンプルに吹いていてエッセンスが掴みやすいし*1 、アルトサックスのキャノンボール・アダレイのファンキーかつ火の出るようなプレイも必聴。

*1 コルトレーンは年代が進むにつれてスーパー複雑な世界へと進んでいく。指の回る人はコピーにチャレンジしてみよう(自己責任で)。

ザ・シェイド・オブ・ザ・チェダー・ツリー/クリスチャン・マクブライド

ちょっと新しめ(90年代だが)の録音。ミディアムアップの気持ちいいテンポで演奏される曲。わりとゆったり演奏しているように聴こえるのだが、マネして演奏してみるとけっこう速い。速いのにゆったり演奏してるように聴こえる、偉大なジャズフィーリングが味わえる好演。

なお、リーダーでベーシストのマクブライドは上手すぎて参考にならない。

チーズケーキ/デクスター・ゴードン

上記のマイルス・デイヴィスの兄貴分でもあったデクスター・ゴードンの名演。豪快で奇を衒わないテナーサックスが気持ちいい。小難しいこともなく、ストレートにかっこいい演奏だ。

ピアノのソニー・クラークも日本人好み(と言われることが多い)のプレイヤー。同じくシンプルで小気味いい演奏が素晴らしい。

ザ・ナイト・ハズ・ア・サウザンド・アイズ/ポール・デスモンド

「もっとソフトなサウンドで演奏したい」「クラシックから極端に離れてない音色で吹きたい」というサックスプレイヤーには、ぜひデスモンド先生の演奏を聴いていただきたい。木管楽器らしさの聴こえるやわらかい音には根強いファンがいる。

スウィングのリズムじゃなくてボサノバの曲をやることになって焦っている方は、この演奏が収録されている「ボッサ・アンティグア」というアルバムをどうぞ。名演だらけです。

ヴァイオリンの人はとりあえずグラッペリから聴き始めましょう。ジャズヴァイオリンの事実上のスタンダードがこの人と言っても過言ではないはず。

ゼア・ウィル・ネバー・ビー・アナザー・ユー/ミシェル・ペトルチアーニ、ステファン・グラッペリ

弦楽器でジャズを演奏する場合は、管楽器とは少し違うフィーリングが必要かも。圧倒的に録音数が少ないので、どうしてもグラッペリを勧めることになってしまう。グラッペリはもちろん素晴らしいんですけどね。

テーマだけでもカッコいい! クラシックプレイヤーにチャレンジしてほしい曲リスト

ここまでは、クラシックプレイヤーがジャズをカッコよく演奏するためのガイドを大変マジメに展開してきた。それをすべてひっくり返すことになるが、「とりあえずテーマを譜面通りに演奏したら楽しいし盛り上がるのでやってほしい曲」のプレイリストを添えて、クラシックプライヤーのためのジャズ講座の締めとしたい。

カッコよくアドリブができるようになるまでの道のりは、実はそこそこ長い。しかし、ジャズ教室の発表会があったり、ジャズ始めて3ヶ月なのにライブすることになっちゃったり、何らかの理由でカッコいいっぽい演奏をしなければならない場面もあるだろう(あるのか?)。 そんなときに、このプレイリストを活用してほしい。

といっても、冗談でこのプレイリストを用意しているわけではない。アドリブのことは置いておくとしても、これらの曲のテーマをカッコよく吹く練習をすることは、ジャズのフィーリングを体得するのに役立つはずだ。アドリブパートはジャズの熟達者である共演者に任せておけばカンペキである 。*2

*2  でも、自分でもアドリブの練習はしてみよう。

モーメンツ・ノーティス/ジョン・コルトレーン

難曲である。調がコロコロ変わるのでアドリブは大変。しかし、3管編成で演奏したりすると、たいへん楽しい。いわゆる大学のジャズ研に入ると、いつかはぶつかる壁。アドリブは大変だけどテーマは楽しい。

リザ/チック・コリア

ジャズ教室の発表会で頻出の曲といえば、みんな大好きチック・コリアの「スペイン」。大好きなのはわかるけど、頻出すぎのきらいもある(私はもう5億回は演奏したんじゃないかと思う)。そこで、スペイン一極集中に一矢報いる曲がこちらの「リザ」。名曲なのだが、難しくて避けられがちである。敢えてこの曲を演奏すれば、筋金入りのジャズファンにも一目置かれること間違いなし!

サム・スカンク・ファンク/ザ・ブレッカー・ブラザーズ

難曲である。ぶっちぎりで難曲である。しかし、クラシック音楽をバリバリやっていて指は回るけど、ジャズは初心者で……という方のための隠し球としてご紹介したい。過去にこれをユーフォニウムで吹くクラシック奏者がいて、伴奏するジャズミュージシャンのほうが度肝を抜かれたことがある。

ボリヴィア/シダー・ウォルトン

名曲を大量に生み出している名作曲家・ピアニストのシダー・ウォルトン。テーマを演奏するだけで楽しい曲がたくさんあって、その代表がボリヴィア。リズムの変化やキャッチーなベースラインなど、オイシイところが盛りだくさん。オススメだけどアドリブはたいへん。

スウィンギン・アット・ザ・ヘイヴン/エリス・マルサリス

世界最強のジャズファミリー、マルサリス一家の父であるエリス・マルサリス。惜しくも2020年4月に亡くなってしまったのだが、彼が遺したこの曲は多くのミュージシャンに愛されている。

このプレイリストの中では、比較的演奏しやすい曲。キャッチーなメロディ、セカンドラインとスウィングのリズムの変化など、楽しめるポイントはたくさん。2管や3管で演奏しても楽しい。

エリス・マルサリス・ジュニア(1934-2020)
ニューオリンズ出身のピアニスト、作曲家、教育者でもあった。6人の息子のうちブランフォード(サックス)、ウィントン(トランペット)、デルフィーヨ(トロンボーン)、ジェイソン(ドラム)の4人がジャズ・ミュージシャンとして活躍している。
©︎Charles M. Groff, U.S. Marine Corps

読んで理解するカッコいいジャズ

これでクラシックプレイヤーのためのジャズ講座を終わるが、最後に参考になる書籍をご紹介したい。クラシックプレイヤーがジャズを始めるにあたり、クラシックとジャズの違いを具体的に知るのに役立つはずだ。

音楽学者である岡田暁生が、ピアニストであるフィリップ・ストレンジ*3とともに「なぜ名演がスゴいのか」を解説している。名演のスゴさを、あくまで音楽的な分析で説明してくれるので、カッコいい演奏がカッコいい理由を知るのに最適。

*3 フィリップさんは本当に素晴らしいピアニスト。主に関西で活躍しているので、お近くならぜひご一聴を。

こちらも名演の分析を中心とした本。各楽器の発音の位置をデータ化して、ほかの楽器とどれくらいズレているか(あるいは一致しているか)を分析したもの。超有名な録音を分析しているので、本を読みながら名演を聴くとジャズのノリがめちゃくちゃよくわかる。

ジャズ理論の本は山ほどあるし、抽象的にジャズを解説してくれる本やWebサイト、講師も無数に存在するので、ここではより具体的に「ジャズらしさ」「ジャズのカッコよさ」を解説しているものを取り上げた。カッコいい演奏を身につけるための聴き方の補助線として役立つので、ぜひあわせて読んでほしい。

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小美濃悠太 ベーシスト

1985年生まれ。千葉大学文学部卒業、一橋大学社会学研究科修士課程修了。 大学在学中より演奏活動を開始し、臼庭潤、南博、津上研太、音川英二など日本を代表する数々のジャ...

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