読みもの
2020.05.15
【新連載】クラシックプレイヤーのためのジャズ講座 Vol.1

なぜあなたのジャズはダサくなってしまうのか?

「ジャズをやってみたい&やってみたけど、なぜかジャズっぽくならない」という悩みをもつプレイヤーたちに、現役ジャズ・ベーシストがお届けする新連載。吹奏楽や管弦楽出身のプレイヤーにとっては難しく感じる「ジャズっぽさ」は、どうやったら習得できる? 第1回は、「明るく楽しく」と「ハネるリズム」の謎に迫ります!

ナビゲーター
小美濃悠太
ナビゲーター
小美濃悠太 ベーシスト

1985年生まれ。千葉大学文学部卒業、一橋大学社会学研究科修士課程修了。 大学在学中より演奏活動を開始し、臼庭潤、南博、津上研太、音川英二など日本を代表する数々のジャ...

写真:星野泰晴

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「ジャズやってみたけど、ジャズっぽくならない、ダサい」という悩みはよく聞く。とりわけ吹奏楽・管弦楽経験者に多い悩みではないだろうか。何を隠そう、私もその一人。高校生時代は吹奏楽部で、大学に入ってジャズを始めてから180°考え方を変えざるを得なかった。

そこで、主にクラシック音楽経由でジャズを始める方向けに、ジャズっぽく演奏するための方法・考え方をガイドしてみようと思う。お悩み解決に少しでも役立てれば幸いだ。

クラシックとジャズの間の高い壁

楽譜通り吹いてもジャズっぽくならない、という話はよく聞く。例えば吹奏楽団がジャズの曲を演奏することはあるが、確かにジャズっぽく演奏されているかというと……難しいところである。

ジャズを演奏している人は、ジャズっぽい演奏はそう難しくは感じていない(一定のレベルまでは)。しかしクラシック側から見ると、どうしてジャズっぽく演奏できるのかわからない。

一方で、音楽演奏をジャズ(を含むポピュラー音楽)から始めた人にとっては、クラシック音楽の解釈(歌い方、ダイナミクス、アクセント、弓順……)が難しい。楽譜は読めても、クラシックっぽくはならない。それらしいことはやってみるけれど、たぶん「クラシックごっこ」に見えているはずだ*1。

ONTOMO読者諸兄には、「そんなの練習したりレッスン受けたりすればできるようになるよ」とおっしゃるのではないかと思う。しかし、ポピュラー音楽側から見るとそれを習得するのがとてつもなく難しく感じるのだ。

*1 自分の話だ。

思い込みを脇に置いておこう

そんなわけで、お互いに難しく感じているクラシックとジャズ。どちらか一方が難しいわけではなくて、そもそも考え方が違うのだ。クラシックの考え方をベースにジャズを演奏しても、ジャズらしくはならない。逆も然り。

まず、今まで学んできた「音楽はかくあるべし」という考えをいったん脇に置いておこう。吹奏楽や管弦楽の演奏法は、音楽すべてに共通するとは限らないのだ。

では、クラシックとジャズの演奏法は何が違うのだろうか?

同じフレーズを演奏しているのに何が違う?

吹奏楽・管弦楽経験者の悩みの大部分が「楽譜通り演奏してるのにジャズっぽくならない」ことだろう(もちろんアドリブの場合も)。ジャズのフレーズが書かれている楽譜なのに、ジャズっぽく演奏できないのはなぜなのだろうか?

リズムの捉え方が違う

楽譜通りやっているのに、なぜジャズっぽくならないのか。それは、リズムの捉え方やフレーズの歌い方がクラシックのものであって、ジャズのマナーに則っていないことに原因がある。例えるなら、昆布だしでカレーをつくっているようなもの。巨匠ならそれでも美味しいカレーを作りかねないが、ふつうは無理である。

「歌わない」音楽

クラシック音楽の演奏では、音価は均等ではなく、ダイナミクスに合わせて伸び縮みする。よく言われるところの「歌う」というアレである。したがって、in tempoと言いつつもテンポはメトロノーム的にキープされるわけではない。

一方、ジャズやその他のポピュラー音楽では、メトロノーム的なテンポが厳密にキープされる。これらは、よく歌い、テンポを揺らして演奏する音楽ではない*2。

あくまで個人的な意見だけれども、ジャズは揺れずにキープされるテンポをベースとして、その上でズレたり伸び縮みしたりするところに旨味がある。そもそもクラシックとジャズではin tempoの定義が違うので、ジャズを演奏する上ではメトロノーム的なリズムの捉え方が必要なのだ。そうではなくてはアンサンブルが成立しない。

*2 Rubatoでの演奏など、これが当てはまらないケースは非常に多いが、原則として。

何がダサくなる原因なのか

さらに、メトロノーム的なリズムで演奏してもダサくなってしまうことがある。これは「拍の軽さ」と「ヘンなハネ方」が原因だと思う。

ジャズはそんなに「楽しく明るく」演奏していない

「ジャズだからノリノリで楽しく演奏して!」という指導を受けた経験はないだろうか。ノリノリなのも楽しいのも悪くないのだが、これは誤解を招く。ダサいジャズは、誤ったノリノリ感に満ちている。

楽しくノリノリで演奏しようとすると、ウキウキピョコピョコした軽いリズムになりがち。具体的には、音価が短くて軽い演奏になってしまう。演奏している本人は楽しくても、聴いている方は「なんか違う……」と感じる、一方通行のスウィングが生まれてしまうのだ。

よくブラスバンドでも演奏される、「Take the “A” Train(A列車で行こう)」を聴いてみよう。

Take the “A” Train/Gentle Forest Jazz Band

よくよく聴いてみると、音を短くパッパッパッとは切っていないはずだ。無理やりカタカナにするなら「パーッ」もしくは「パァッ」に近い。思っていたよりも、一つひとつの音が重くないだろうか?

「楽しく明るくノリノリで」というジャズの幻想をまず捨てよう。もうちょっとだけ物理的に考えるだけでダサさが30%は軽減するはずだ。

ジャズはそんなにハネてない

ジャズの曲の楽譜には、最初にこんな指示があるはずだ。

「タタタタ」という8分音符を「タッタタッタ」とハネて演奏してください、という指示の記号だ。これを真に受けて演奏すると、スウィングではなく盆踊りのリズムになる。耳馴染みがあるはずだ、タンカタンカターン(あ、そーれ)という、夏休みの思い出に刻み込まれたあのリズム。それはジャズではないしスウィングでもない。

例えば、こちらを聴いてみよう。

 Cleopatra’s Dream/市原ひかり

8分音符が並ぶメロディだが、そんなにハネていない。ほんのりハネてるかな? というくらいだろう。もちろんこれが唯一の正解というわけではない。ハネ具合は奏者の個性でもあって、それぞれ違う。ただ、盆踊りのリズムにはなっていない。

8分音符こそジャズの真髄であって、これを追求することで間違いなくダサいジャズからは脱却できる。ただハネればジャズ、三連符にすればスウィング、という思い込みを捨てよう。

ジャズっぽい演奏は考え方次第

ここまで、どうしてジャズっぽい演奏にならないのか、なぜダサい演奏になってしまうのか(楽譜通りやってるのに!)、その重大な理由をピックアップして書き連ねてみた。ジャズっぽくならなくて悩んでいる諸兄には思い当たる節があったのではないだろうか。

ジャズっぽく演奏するためには、ジャズ特有の考え方やリズムの捉え方を理解することが大切だ。クラシック音楽のそれとは違うことがわかれば、最初の一歩を踏み出したと言ってもいい。

次回は、「ハネる」ことについてさらに掘り下げていく予定だ。ジャズミュージシャンが100人いれば120通りのハネに関する持論が存在するものだが、勇気を持って私の持論をできるだけわかりやすく説明してみたいと思う。

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小美濃悠太
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小美濃悠太 ベーシスト

1985年生まれ。千葉大学文学部卒業、一橋大学社会学研究科修士課程修了。 大学在学中より演奏活動を開始し、臼庭潤、南博、津上研太、音川英二など日本を代表する数々のジャ...

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