読みもの
2024.04.12

『レコ芸』歴代編集部員が選ぶ 心に刺さった批評#2 アンスネスがなぜ好きかが分かった

昨年7月号で休刊した月刊誌『レコード芸術』を、内容刷新のONLINEメディアとして再生させるべく、2024年5月24日までクラウドファンディングによる『レコード芸術』復活プロジェクトを実施中! それにちなみ、『レコ芸』歴代編集部員の記憶に残る“心に刺さった批評”をご紹介していきます。

浜中充
浜中充 音楽之友社出版部書籍担当

音楽之友社では、営業、広告、ムック、『音楽の友』『レコード芸術』などを渡り歩き、現在は単行本編集を担当。自宅はCDで床が抜けそうになりながら、コンサート通いも好き。長...

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そもそもアンスネス・ファンだし、シリーズ第1弾の「1785」もすばらしい内容だったので、続く「1786」はどんな評が出るかとても楽しみだった。モーツァルトのピアノ協奏曲演奏においてバランスよく両立させることの難しい、「すべてのパッセージに推進力と愉悦をともに与えるという離れ業をやってのけた」という一文。どうしてこのピアニストの演奏が好きなのかということにも、思わず気づかされた。 

 

(浜中 充・2021~2023年編集長)

「モーツァルト/モメンタム1786」レイフ・オーヴェ・アンスネス(p、指揮)マーラー室内管弦楽団、ほか[ソニークラシカル SICC30597~8(2枚組)]

「モーツァルト/モメンタム1786」 レイフ・オーヴェ・アンスネス(p、指揮)マーラー室内管弦楽団、ほか

推薦 広瀬大介 

モーツァルトにとっての1786年と言えば、まずはなによりも《フィガロの結婚》の作曲で頭が占められていたのではなかったか。それ故に、年代縛りでこのような傑作ばかりで2枚組のアルバムをつくることのできる可能性があったことに、あらためて驚きを深くする。

いや、もっと驚くべきなのは、ここで選ばれたすべての作品に、いきいきとしたいのちを吹き込んだレイフ・オーヴェ・アンスネスが見せた充実ぶりだろう。これまで数多のピアニストがモーツァルトの協奏曲録音に挑み、この作曲家が作品に与えようとしたはずの、音楽の推進力と愉悦を両立させようと試みてきた。だが大抵は、そのどちらかが突出してしまい、結局は決定盤と言えるような録音を持たぬ状況が長く続いてきた。

アンスネスは、その両者を時と場合によって使い分けつつも、すべてのパッセージに推進力と愉悦をともに与えるという離れ業をやってのけた。一聴して、イ長調協奏曲では愉悦が、ハ短調協奏曲では推進力がまさるようにも聴こえるが、どちらかに偏ることは決してない。ピアノ四重奏曲でも、三重奏曲でも、演奏会用アリアでも、ピアノが作品に新たな視座を与えており、作品と作曲家への深い洞察を披瀝する。マーラー室内管弦楽団のメンバーが、そしてクリスティアーネ・カルクが、その意を汲んで音楽に本当の生命力を与えることで、いまここに、ようやくにして、これからずっと聴き続けることのできる愛聴盤が誕生した。

(初出:『レコード芸術』2022年6月号 新譜月評)

浜中充
浜中充 音楽之友社出版部書籍担当

音楽之友社では、営業、広告、ムック、『音楽の友』『レコード芸術』などを渡り歩き、現在は単行本編集を担当。自宅はCDで床が抜けそうになりながら、コンサート通いも好き。長...

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