
ストリンジェンド:イタリア語で「締めつける」という動詞に由来! 心理的な高揚も表す?

楽譜でよく見かけたり耳にしたりするけど、どんな意味だっけ? そんな楽語を語源や歴史からわかりやすく解説します! 第108回は「ストリンジェンド」。

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール優勝。2025年、第21回ハチャトゥリアン国際コンクール指揮部門第2位、古典派交響曲ベスト...
この言葉が最初に使われた作品は断定されていないながらも、最初期にストリンジェンドが使われた作品としては、1782年に書かれた、意外にもモーツァルトの歌劇《後宮からの逃走》の第3幕フィナーレが挙げられます。

ポーランドのクラクフ、ヤギェウォ図書館に所蔵されている自筆譜は、残念ながら公開されていませんが、”stringendo il tempo”(だんだんテンポを速く)という指示を、おそらく出版までの過程で色のついたインクで強調して書き足したそうです。

1770年代の作品です。
さて、話をストリンジェンドに戻しましょう。モーツァルトの《後宮からの逃走》以降はあまり使われることがなく、コッホの音楽事典(1802年)でも「絞るように」という説明にとどまっています。
1807年ごろに書かれた、オンスローの「ピアノ・ソナタ」に、ストリンジェンドに対応するフランス語を使って、”serrez le movement”(テンポを詰めて)という指示が使われています。このあたりの時代から、だんだんとストリンジェンドが使われてくるようになるのです。

その後の作品には、1813年に作曲されたロッシーニの歌劇《タンクレーディ》、そして1824年に書かれたベートーヴェンの「交響曲第9番」が挙げられます。特に「第九」では、ストリンジェンドが何度か登場します。

“Stringendo il tempo” と書いてあるのがわかります。

“Poco Allo (Allegro), stringendo il tempo, sempre il Allo (Allegro)“ と書いてあります。
同じ速くするような意味合いでも、アッチェレランドは比較的ニュートラルな操作記号、ストリンジェンドは心理描写のようなものを含んだ少々ドラマチックな記号、と言っても良いかもしれません。演奏者の立場から見ると、ストリンジェンドを見ると「ここから先は戻れない」という気持ちになります。聴いている方も、だんだんと急いた気分になり、気持ちも高揚していくはずです。
19世紀以降の作品で頻繁に出会うようになるこれらの言葉は、感情に語りかける音楽の仕掛けとして、テンポを揺らす指示は多く使われましたが、その中でもストリンジェンドは、単に「だんだん速く」「だんだん遅く」という言葉とは違って、感情や情景と結びついている言葉なのです。
ストリンジェンドを聴いてみよう
1. モーツァルト:歌劇《後宮からの逃走》 K. 384〜ヴォードヴィル
2. ベートーヴェン:交響曲第9番 作品125〜第4楽章、終結部
3. チャイコフスキー:セレナーデ 作品48〜第2楽章 ワルツ
4. エルガー:序奏とアレグロ 作品47
5. プッチーニ:交響的前奏曲
6. マヌリ:ストリンジェンド





関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly
新着記事Latest




















