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2021.08.24
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その61

ヴィオラ:弦楽器の元祖! 中世から遡りさまざまなヴィオラを見てみよう

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

《結婚披露宴》(パオロ・ヴェロネーゼ、1560年頃)
この絵には、弦楽器を弾く4人の男性が描かれています。実はこれ、全部「ヴィオラ」なのです! この中に、皆さんの知っているヴィオラはありますか?

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弦楽器の中で、もっとも人間の声の高さに近いと言われる、ヴィオラ。ヴィオラは、弦楽器の歴史上、もっとも重要な楽器といっても過言ではありません。その歴史を、だーっと見ていきましょう!!

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弦楽器の始まりはヴィオラから

ヴァイオリンよりもちょっと大きく、チェロよりも小さい楽器、ヴィオラ。実は、弦楽器の歴史は「ヴィオラ」から始まったのです! この記事では、そのヴィオラの歴史に焦点を当てて紹介します。

歴史を遡ること、中世。かつて、弦を使った楽器は、皆ギターのように指ではじいて弾いていました。これら弦楽器の総称として、中世ラテン語でヴィトゥラ(vitula)と呼ばれていました。

このヴィトゥラという言葉は、もともと仔牛を意味する言葉で、当時の撥弦楽器の弦が牛の腸をねじって作られていたことから、このように呼ばれるようになりました(詳しくはヴィブラートの記事を参照)。

この言葉は、南フランス/スペイン/イタリアで昔から話されている言語であるオック語圏に入り、小さなギターを指して、ヴィウエラ(vihuela)と呼ばれるようになりました。

ヴィウエラはギターのような楽器でしたが、14世紀頃に「これを馬の尻尾でこすったらいい音色がする」ということで、馬の尻尾の毛を張った弓を使った、ヴィウエラ・デ・アルコ(vihuela de arco)という楽器が作られます。これが、西洋における、ヴィオラの始まりです!

左:ギターよりも小さめの撥弦楽器、ヴィウエラ。
右:ヴィウエラ・デ・アルコ。ギターのようなヴィウエラを、弓を使って弾く楽器です。

増えるヴィオラ

弓で弾くギター、ヴィウエラ・デ・アルコ。このヴィウエラの部分が、オック語からイタリア語に入ってヴィオラ(viola)と呼ばれるようになりました。

そして、ヴィオラという言葉は、弓で弾く弦楽器全般を指すようになります。しかし、弦楽器といえども、さまざまな大きさや種類がありました。これを全部ヴィオラと呼ぶのは、さすがに無理がありますよね……。

そこで、それぞれのヴィオラの持ちかたの特徴を、「ヴィオラ」のあとにくっつけて呼ぶようになりました!

ヴィオラ・ダ・ブラッチョ(Viola da braccio)

イタリア語で、腕のヴィオラという意味です。腕で支えて弾くので、この名がつきました。当時は同じような楽器、リラ・ダ・ブラッチョ(腕で支えて弾く琴という意味)もありました。リラ・ダ・ブラッチョには、すべての弦を指で抑えないで、そのまま弾くだけの弦があるのが特徴です。

リラ・ダ・ブラッチョを弾く人(バルトロメオ・モンターニャ、1500年頃)
よく見ると、上の方に開放弦が2本あるのがわかります。
ヴィオラ・ダ・ブラッチョ(サロンノのサンタ・マリア・ディ・ミラーコリ教会内のフレスコ画、ガウデンツィオ・フェラーリ、1534~6年)

16世紀に、4種類のヴィオラ・ダ・ブラッチョ(ソプラノ、アルトテノール、バス)が作られ、アルトのヴィオラ・ダ・ブラッチョが、現在のヴィオラに発展しました!

なんだか長い名前ですが、この名前の名残りは、ヴィオラのドイツ語名に見られます。ドイツ語でヴィオラのことをブラッチェ(Bratsche)と呼びますが、これは、ヴィオラ・ダ・ブラッチョのブラッチョの部分だけが独立した形です。

さらに、フランス語でヴィオラのことをアルト(Alto)と呼びますが、これも上記の名残りなのです!

バッハ:カンタータ第170番《喜ばしい安息、好ましい魂の歓喜》〜レチタティーヴォ「それならば誰が?」
ヴィオラとアルトの音部記号が同じなのがわかります(どちらも五線の真ん中がドです)!

ヴィオラ・ダ・ブラッチョによる演奏
テレマン:ヴィオラ・ダ・ブラッチョ協奏曲 TW43:4〜第4楽章

リラ・ダ・ブラッチョによる演奏
作者不詳:ロマネスカとパッサメッツォ

ヴィオラ・ダ・ガンバ(Viola da gamba)

イタリア語で「膝のヴィオラ」という意味です。膝で楽器を挟んだり、膝に楽器を乗せて弾くので、この名称で呼ばれています。

ヴィオラ・ダ・ブラッチョよりも大きいため、低い音域が出ます。しかし、指を押さえる場所によっては高い音も出るので、汎用性の高い楽器として、重宝されました。さらに、ヴィオラ・ダ・ガンバの中でも、高めの音域や、低めの音域が出るヴィオラ・ダ・ガンバも作られました。

音楽作品において、ヴィオラ・ダ・ガンバは「死」の象徴としても登場します。バッハのカンタータなどの作品では、死や、キリストの処刑がテーマとなっている部分でヴィオラ・ダ・ガンバが活躍します。

ヴィオラ・ダ・ガンバを弾く人(ラッタンツィオ・ガンバーラ、1560年頃)

ヴィオラ・ダ・ガンバによる演奏
A.フォルクレ:シャコンヌ「ビュイソン」、
バッハ:カンタータ第198番《公妃よ、さらに一条の光を》〜アリア「ヒロインはどのように幸せに死んだのだろう!」

ヴィオラ・ダ・スパッラ(Viola da spalla)

こちらもイタリア語で、肩のヴィオラという意味の楽器です。肩から楽器をぶら下げて弾くことから、この名前がつきました。

しかし、未だ謎に包まれた楽器なのです。この絵、見るからに違和感ありませんか…….?

ヴィオラ・ダ・スパッラを弾く人(クレマのサンタ・マリア・ディ・グラツィエ教会内のフレスコ画、ジョヴァンニ・ジャコーモ・バルベッリ、1641~3年)

ヴィオラ・ダ・スパッラによる演奏
バッハ:無伴奏チェロ組曲第6番 BWV1012〜第1曲 前奏曲

さまざまなヴィオラの種類を紹介しましたが、ヴィオラ・ダ・ブラッチョがヴィオラに発展したものを除けば、ほとんどが18世紀には廃れてしまいました。

最後に、ヴィオラのその後について少しご紹介します。

実は、バッハやモーツァルト、ベートーヴェンもヴィオラを演奏していました。指揮者を必要としない自分の曲を演奏する際、中音域やテンポの動きを担うヴィオラを作曲者自身が演奏することで、ベースの動きや、メロディの動きに気を配り、リハーサルを進めていたからだと考えられています。

ヴィオラは音楽の中心を担う、とても重要な役割を持つ楽器なのです!

左:モーツァルトのヴィオラ
上:ベートーヴェンのヴィオラ(©Beethoven-Haus Bonn)

ヴィオラを聴いてみよう

1. バッハ:ブランデンブルク協奏曲第6番 変ロ長調 BWV1051〜第1楽章
2. ウェーバー:歌劇《魔弾の射手》〜第3幕よりアリア「ある時、私の死んだおばさんが夢を見たの」
3. ブルックナー:交響曲第3番 ニ短調〜第3楽章
4. ブラームス:ヴィオラソナタ第1番 ヘ短調 作品120-1〜第3楽章
5. ヒンデミット:無伴奏ヴィオラソナタ 作品25-1〜第4楽章
6. ヒンデミット:白鳥を焼く男〜第3楽章「あなたは白鳥を焼く人ではないですよね?」による変奏曲
7. 久石譲:TWO OF US(アルバム『Shoot The Violist』/映画『ふたり』より)

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

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