読みもの
2021.11.16
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その72

ティンパニ:起源は紀元前2000年! 軍楽隊からオーケストラで活躍するまでの経緯は?

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

《ヨハン・シュトラウス2世とオーケストラ》(1860年頃)
この絵のように、通常ティンパニはオーケストラの一番後ろで演奏されます。ティンパニ奏者は、指揮者を見つつもオーケストラ全体を見て、一番いいタイミングで叩く、まさに第二の指揮者のような存在なのです。

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オーケストラの楽器でもっとも重要な打楽器と言っても過言ではない、ティンパニ。簡単に言ってみれば、大きなお椀型をした太鼓です。日本の大太鼓のように皮が張られており、バチ(マレット)を使ってそれを叩きます。この記事では、そんなティンパニについてご紹介します!

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まず、ティンパニの起源を辿ってみましょう。現在では、ヨーロッパの音楽で大活躍の楽器ですが、もともとは紀元前2000年には演奏されていたリリスという、メソポタミア文明の楽器なのです。このリリスという楽器は、お椀のような形をしたものに、牛の皮を張ったものでした。

メソポタミア文明の石碑に描かれた、ボクシングをする2人の横で太鼓(リリス)を叩く人たち(紀元前2000年頃)。なぜこの組み合わせで描かれたのかは不明です……太鼓を叩いて、ボクシングをする2人を煽っていたのでしょうか……?
©︎The British Museum

さらに中世になると、アラビアではナッカーラという楽器に発展します。トルコなど、アラビアの軍隊で演奏する際に使用する打楽器として作られました。

ティンパニの祖先の楽器、ナッカーラ(右2列)。

このように、アラビアでの歴史が長いティンパニですが、15世紀になり、やっとヨーロッパで用いられるようになりました。しかし、ヨーロッパでも、ティンパニは軍楽の中で演奏されました。

その際、ラテン語で打楽器を指すtympanumという言葉が使われ、それがイタリア語化した際にティンパニ(timpani)と呼ばれるようになりました。

ドイツ語ではパオケ(Pauke)と呼ばれ、中世で話されていた古いドイツ語(中高ドイツ語)のPūkeからきているのですが、なんとこの言葉は太鼓を叩いたときの擬音語からきているそうです(諸説あり)。

プレトリウス『音楽大全』(1614年)第2巻よりティンパニ。

ヨーロッパに流入し、アンサンブルやオーケストラの中で使われるようになったティンパニ。しかし、アラビアでもともと用いられていたように、軍楽隊や、音楽作品の中でも、軍楽のような部分でよく用いられいました。

さて、軍楽で活躍していた、歴史の古いもう一つの楽器といえば……トランペットですね。こうした背景もありオーケストラでは、トランペットとティンパニが同じタイミングで演奏することが多いのです。

J.S.バッハ:管弦楽組曲第3番 ニ長調 BWV1068〜ガヴォット
Trombaと書かれているのがトランペット。ティンパニとトランペットは、リズムだけでなく、出番も一緒です!

19世紀のロマン派の時代においても、ティンパニはさまざまな曲で重宝されました。しかし、重宝されるがあまり、こんな話もあります。

それは1867年、ブラームスが、母の死を悼んで《ドイツ・レクイエム》を書き、初演したときのことです。第3楽章には長大なフーガがあり、ここでは大盛り上がりを見せるのですが、ティンパニは永遠と同じ音を叩き続けます。その数、なんと約2分間で840回!

こちらがその曲の、ティンパニ用のパート譜です。

ブラームス:《ドイツ・レクイエム》作品45〜第3楽章「主よ、知らしめたまえ」
その間、合唱は「正しいものの魂は主の手によって守られ、いかなる苦痛も届くことはない」という歌詞を歌い続けます。本当に圧巻です!!

しかし、どうやら初演でティンパニを担当した人は、強弱記号のfp(=フォルテピアノ。「最初に強く弾いたら、すぐに弱くしてね」という指示)を見落としており、永遠とf(フォルテ)で叩き続けていたそう。きっと当時の演奏者は、ここぞ見せ場だと思い、「よっしゃあ出番だ! やったれ!」という気分で840回叩いたのでしょうか……ほかの楽器の音や合唱をかき消すほどの音量だったそうで、初演は大失敗しました。

このような逸話もあるくらい、良くも悪くも、ティンパニはオーケストラの演奏の行く手を握っている楽器なのです!

ティンパニを聴いてみよう

1. トルコ軍楽:メフテル「ジェッディン・デデン(祖先も祖父も)」
2. J.S.バッハ:カンタータ第214番《ティンパニよ、轟け! トランペットよ、響け!》〜第1曲 合唱
3. J.S.バッハ:管弦楽組曲第3番 ニ長調BWV1068〜ガヴォット
4. ドゥルシェツキ:オーボエと8つのティンパニのための協奏曲〜第3楽章
5. ベートーヴェン:交響曲第9番《合唱付き》 ニ短調 作品125〜第2楽章
6. ブラームス:《ドイツ・レクイエム》作品45〜第3楽章「主よ、知らしめたまえ」
7. バルトーク:2台のピアノと打楽器のためのソナタ〜第3楽章

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

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