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2019.03.18
サントリーホール/特集「ホールでひとときを」

贅をつくした空間とプログラム——ウィーンやベルリンとの親密さも際立つサントリーホール

首都圏初のコンサート専用ホール「サントリーホール」は、1986年の開館以来、クラシック音楽の殿堂として、国内外の音楽シーンをリードするアーティストたちを日本のオーディエンスに紹介している。名指揮者・カラヤンが本拠地としたベルリンのフィルハーモニー・ホールと同じく、ヴィンヤード形式(ブドウ畑)を採用。音響の評価も高い格式あるホールで、クラシックの真髄を味わおう。

取材・文
池田卓夫
取材・文
池田卓夫 音楽ジャーナリスト@いけたく本舗

1958年東京都生まれ。81年に早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業、(株)日本経済新聞社へ記者として入社。企業や株式相場の取材を担当、88~91年のフランクフルト支...

提供:(公財)サントリー芸術財団
写真:ヒダキトモコ

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サントリーホールのロビーの天井には、照明デザイナー石井幹子がデザインしたシャンデリア「光のシンフォニー 響」が迎え入れてくれる。この30面体の中には、蒸留されたアルコールの一滴一滴を表わす、オーストリア製のクリスタルガラスが敷きつめられている。

1986年にできた首都圏初のコンサート専用ホール

1986年にサントリーホールができたとき、「首都圏初のコンサート専用ホール」の輝きはまぶしかった。けれど、「どの駅にも近くない」とも言われた。

1997年に溜池山王、2000年に六本木一丁目の東京メトロ2駅が開業して、足の便は格段に改善した。地上に出ればすぐ、高層オフィスビルとANAインターコンチネンタルホテル東京を組み合わせた赤坂アークヒルズが見えてくる。

2階に上がると、ホールを建てる前にいろいろとアドバイスを授けた20世紀の大指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤンの名にちなんだ「アーク・カラヤン広場」に出る。

写真上:サントリーホール正面のアーク・カラヤン広場。その名を冠した世界で3つの広場のうちの一つ。
写真右:シンボル的な存在、時計台。プレートはカラヤン財団より寄贈された。

正面がサントリーホール。向かって左にはデザイナーで彫刻家の五十嵐威暢によるオブジェや噴水、右にはホテルオークラや東京メトロ六本木一丁目駅に通じる階段がある。

ホールが開場すると、入り口頭上に仕掛けられた小さなパイプオルゴールが歓迎のメロディを奏で、お客様を音楽の世界に誘う。ホワイエを直進すれば大ホール、左折すればブルーローズ(小ホール)。

ホワイエには両ホール共用のクローク、バーカウンター(2ヶ所)、ホールオリジナルグッズを扱うショップがあり、ゆったりとくつろぎながら、演奏への期待を高めることができる。

正面玄関の頭上で、開場と正午の時を知らせてくれるパイプオルゴール。ブドウ畑の番人を表わした老人と少年の人形がオルゴールを回す。37本のパイプは、大ホールのパイプオルガンと同じ素材で作られている。写真:編集部
サントリーホールの正面入口には、彫刻家・五十嵐威暢がデザインしたモニュメント「響」がある。
広々としたロビーで玄関のほうを振り返ると、「響」をテーマにしたモザイク壁画がある。抽象画の巨匠、宇治山哲平の最晩年の作品。

こだわり抜かれた音響やデザイン

ホールの座席に貼られたファブリック(布地)は、20世紀初頭、ジャポニスム(日本趣味)も取り入れた工芸運動「ウィーン工房」のリーダー、ヨーゼフ・ホフマンがデザインした和風の紋様が織り込まれている。

椅子のファブリックは、「ウィーン工房」のリーダー、ヨーゼフ・ホフマンがデザイン。

大ホールはカラヤンが本拠としたベルリンのフィルハーモニー・ホールと同じく、ヴィンヤード(ブドウ畑)形式を採用、舞台を客席が前後左右から取り囲む。銀色に輝くパイプオルガンの下の「P席」では、指揮者と真正面に向き合える。

ブルーローズ(小ホール)の舞台と椅子は、自由に配置を変えられるし、全部取り払えばレセプション会場としても利用できる仕掛けだ。

客席が前後左右から取り囲む、大ホールの舞台。ステージに立つと2階席でも顔が見えるほど近く感じる。
大ホール正面にあるパイプオルガン。オーストリアのリーガー社の職人が、5,898本のパイプ1本1本をハンドメイドで製作。
写真左:ブルーローズの入り口に掲げられた青いバラは、サントリーがバイオ技術によって開発した新品種。不可能の代名詞ともいわれるBlue Roseには、多くのアーティストに新たな挑戦の舞台として活用してほしいという思いが込められている。
写真上:ブルーローズ(小ホール)。客席が可動式であることを生かした企画も多く行なわれる。

「もちろんハード面も定期的に改修、アップデートの努力は怠りませんが、サントリーホールの大きな魅力は自主事業のソフト(演目)にもあります」と、副支配人で企画・広報統括部長の白川英伸さんは強調する。

副支配人、企画・広報統括部長 白川英伸さん。

鉄板から、意欲的なプログラムまで

現在の館長、堤剛さんは芸術院会員で日本を代表するチェロ奏者ということで「室内楽をもっと多くの人に、気軽に楽しんでいただきたい」との方針を打ち出し、室内楽の祭典「サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン」を2011年、開館25周年の記念に立ち上げた。

2000年代のベルリンに現れたクス・クァルテットがベートーヴェンの「弦楽四重奏曲」全曲を弾くほか、第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクール優勝者のトマシュ・リッテルがホール所蔵の1867年製エラールでソロ曲、室内楽版による「ピアノ協奏曲第2番」を組み合わせたショパン・プログラムに挑む。

さらにお昼1時から60分の「プレシャス 1 pm」シリーズ4公演は、お昼の時間にしか外出できないシニア向け。忙しいビジネスピープルのためには、午後7時半開演の「ディスカバリー・ナイト」2公演などを臨機応変に設ける。

「サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン」出演者のメッセージ動画

夏には、現代音楽の祭典としての「サントリーホール サマーフェスティバル2019」、秋には恒例の「ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン2019」がクリスティアン・ティーレマン、アンドレス・オロスコ=エストラーダの指揮で控えている。

今年は日本とオーストリアの友好150周年に当たり、ティーレマンがウィーンでのニューイヤー・コンサートの一部曲目を再現する記念公演もある。

「ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン2019」は2019年11月5〜15日。無料の公開リハーサルや、11月1〜17日にはホテルオークラ東京でのウィーン楽友協会アルヒーフ展&ウィーン・フィル写真展も開催予定。

年末年始には鈴木雅明指揮「バッハ・コレギウム・ジャパン『メサイア』」(ヘンデル)、ウィーン・フォルクスオーパー交響楽団の「サントリーホール ジルヴェスター・コンサート2019-2020」、「サントリーホール ニューイヤー・コンサート2020」と鉄板の定番。

年明け2020年2月には、ヴァイオリンの女王アンネ=ゾフィー・ムターがベートーヴェン生誕250周年にちなむスペシャルステージ3公演を予定する豪華さだ。

毎年クリスマスコンサートとして恒例となっている、バッハ・コレギウム・ジャパンによるヘンデルの「メサイア」。2019年は12月23日に上演予定。

音楽だけでも「まんぷく」となりそうだが、終演後は余韻とともに食事やお酒を楽しみたい。

白川さんのお勧めは、「近隣ホテル内のバー」とのこと。アークヒルズANAインターコンチネンタル東京の飲食店では、サントリーホールのチケットを提示するとおトクな優待サービスが受けられる。

さっそく今夜から、試してみてはいかが?

公演情報
サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン

日時: 2019年6月1日 (土)~16日 (日)

詳細はこちら

 

プレシャス 1 pm Vol.1 クラリネット五重奏の深遠

日時: 2019年6月5日(水)13:00開演

出演: 渡辺玲子、池田菊衛(ヴァイオリン)、磯村和英(ヴィオラ)、毛利伯郎(チェロ)、コハーン・イシュトヴァーン(クラリネット)

曲目: ドヴォルジャーク/テルツェット ハ長調 作品74 より 第1・3楽章
モーツァルト/クラリネット五重奏曲 イ長調 K. 581 より 第2楽章
ラヴェル/ヴァイオリンとチェロのためのソナタ より 第1・2楽章
フランセ/クラリネット五重奏曲 変ロ長調 より 第3楽章
ドホナーニ/弦楽三重奏のためのセレナード ハ長調 作品10 より 第1・2・3楽章
ブラームス/クラリネット五重奏曲 ロ短調 作品115 より 第2楽章

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プレシャス 1 pm Vol.2 服部百音の室内楽

日時: 2019年6月7日(金)13:00開演

出演: 服部百音(ヴァイオリン)、青柳晋(ピアノ)、[三重奏]奥泉貴圭(チェロ)、坂口由侑(ピアノ)

曲目: ショスタコーヴィチ/ピアノ三重奏曲第2番 ホ短調 作品67
プロコフィエフ/ヴァイオリン・ソナタ第1番 ヘ短調 作品80

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プレシャス 1 pm Vol.3 親密な至極のデュオ

日時: 2019年6月12日(水)13:00開演

出演: 小山実稚恵(ピアノ)、堤剛(チェロ)

曲目: メンデルスゾーン/チェロ・ソナタ第1番 変ロ長調 作品45、チェロ・ソナタ第2番 ニ長調 作品58

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プレシャス 1 pm Vol.4 第一人者の華麗な交歓

日時: 2019年6月14日(金)13:00開演

出演: 吉野直子(ハープ)、池松宏(コントラバス)

曲目: クープラン/《コンセールのための5つの小品》

フランセ/《バロック風二重奏曲》

ドビュッシー/《夢想》

サン゠サーンス/ファゴット・ソナタ ト長調 作品168(コントラバス版)

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ディスカバリーナイト I

日時: 2019年6月6日(木)19:30開演

出演: ジョン・健・ヌッツォ (テノール)、岡原慎也(ピアノ)、[ピアノ三重奏]トリオ デルアルテ *室内楽アカデミー第5期フェロー 内野佑佳子(ヴァイオリン)、河野明敏(チェロ)、久保山菜摘(ピアノ)

曲目: シューベルト/歌曲集《美しき水車屋の娘》D. 795

ハイドン/ピアノ三重奏曲第31番 変ホ短調 Hob. XV:31

ハイドン/『スコットランドとウェールズの民謡歌曲集』より

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ディスカバリーナイト II

日時: 2019年6月12日(水)19:30開演

出演: 菊本和昭(トランペット)、竹島悟史(パーカッション)、新居由佳梨(ピアノ)

曲目: イウェイゼン/トランペット・ソナタ
クレストン/マリンバ小協奏曲 作品21
ジョリヴェ/トランペットと打楽器のための《エプタード》 ほか

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サントリーホール サマーフェスティバル 2019 ~サントリー芸術財団50周年記念~

日時: 2019年8月23日(金)〜31日 (土)

プログラム: 
・「ザ・プロデューサー・シリーズ 大野和士がひらく」ベンジャミン:オペラ『リトゥン・オン・スキン』(日本初演/英語上演・日本語字幕付)

・「サントリーホール 国際作曲委嘱シリーズ No. 42」監修:細川俊夫、テーマ作曲家:ミカエル・ジャレル、管弦楽

・「第29回芥川也寸志サントリー作曲賞選考演奏会」

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ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン2019

日時: 2019年11月5日 (火)~15日 (金)

出演: クリスティアン・ティーレマン指揮)、アンドレス・オロスコ゠エストラーダ(指揮)、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

プログラム: 
・<オープニング公演>日本オーストリア友好150周年記念スペシャル・プログラム~サントリー芸術財団50周年記念~

・オーケストラ・プログラム

・ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 無料公開リハーサル

・ウィーン・フィル首席奏者によるマスタークラス

・サントリーホール&ウィーン・フィルの青少年プログラム

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サントリーホール クリスマスコンサート 2019 バッハ・コレギウム・ジャパン『メサイア』

日時: 2019年12月23日(月)18:30開演

出演: 鈴木雅明(指揮)、バッハ・コレギウム・ジャパン(合唱・管弦楽)ほか

曲目:
ヘンデル/『メサイア』

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サントリーホール ジルヴェスター・コンサート 2019-2020 ウィーン・フォルクスオーパー交響楽団

日時: 2019年12月31日(火)22:00開演

出演: オーラ・ルードナー(指揮・ヴァイオリン)、シピーウェ・マッケンジー(ソプラノ)、ミロスラフ・ドヴォルスキー(テノール)、ウィーン・フォルクスオーパー交響楽団(管弦楽)、バレエ・アンサンブルSVOウィーン ほか

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問い合わせ: サントリーホールチケットセンター Tel.0570-55-0017

会場: サントリーホール

サントリーホール

[運営](公財)サントリー芸術財団

[座席数] 大ホール2006席(車いす専用スペー

ス6席)ブルーローズ(小ホール) 380~432

席(可動式)

[オープン] 1986年

〒107-8403

東京都港区赤坂1-13-1

[問い合わせ]0570-55-0017

https: //www.suntory.co.jp/suntoryhall

取材・文
池田卓夫
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池田卓夫 音楽ジャーナリスト@いけたく本舗

1958年東京都生まれ。81年に早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業、(株)日本経済新聞社へ記者として入社。企業や株式相場の取材を担当、88~91年のフランクフルト支...

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