愛と幻想のベルリオーズ劇場~妄想炸裂!?
19世紀パリに、片想いにご乱心の男がいた。彼の名はベルリオーズ。
ドラマチックなのは音楽だけではなかった!? 《幻想交響曲》で知られるベルリオーズの恋模様の一部始終を、クラシック音楽マンガの名コンビ、留守keyさんがなんとマンガで再現! 来たるバレンタインに向けて、妄想恋愛劇場をお楽しみください。
さらに、晩年に自分の人生を振り返って執筆した『回想録』をもとに、2019年に没後150周年を迎えたベルリオーズの青春をたどってみましょう。
ベルリオーズの片想い劇場~ねばり勝ち?
Ma vie est un roman, qui m’intéresse beaucoup.
私の人生は小説で、自分でも非常に興味深い。
エクトル・ベルリオーズ
こう言葉をのこしている通り、ベルリオーズは著書『回想録』に自分のことを小説の主人公になりきったかのように綴っている。今回のエピソードも出典は『回想録』、「あくまで本人談」である。
その大袈裟な表現たるや、12歳にして、ラテン文学の最高傑作とされるヴェルギリウスによる叙事詩『アエネーイス』を音読して「詩から生まれる美の感覚が覚醒した」「感動のあまりむせび泣いて読み続けるのが困難になった」、シェイクスピアの初観劇では「雷に打たれた」、ゲーテの『ファウスト』を読んだときには「手放すことができなくなり、ところかまわず読みふけった」など、挙げ始めたらキリがない。
そんな熱き(暑苦しい?)男ベルリオーズは、恋愛においても大暴れをしたもよう。初恋は12歳、いとこの18歳のお姉さまに片想いをする。「エレガントな高身長に大きな瞳で笑顔が絶えない」風貌に惚れてしまい、「見たことのないような美しい女性」だったそうだ。このおませな少年は、初恋をもとに「ロマンス」という旋律を作曲。せつない恋心を表すのにぴったりということで、のちに《幻想交響曲》第1楽章冒頭のヴァイオリンの旋律として取り入れた。
1825年に初めて『ハムレット』を観劇したベルリオーズは、シェイクスピアに心を打たれただけでなく、オフィーリア役の舞台女優ハリエット・スミスソンに電撃的に恋に落ちる。不毛な片想いに苦しむなか、《幻想交響曲》は、自身の感情と向き合い、想いを託すかのように生み出されたのだ。
その後も進捗はなく、ベルリオーズはスミスソンの居場所さえ知ることができずに悶々としていた。その間、約2年! だいぶしつこい。
そして《幻想交響曲》の続編として《レリオ、または生への回帰》を作り、2作品セットで演奏する企画を立てる。続編には主人公レリオとして自分の分身を登場させた。セリフのみを発するため、歌手ではなく俳優が演じるよう指示されている。
コンサートの3日前、馴染みの楽譜店に行くと、偶然ハリエットのことを知るイギリス情報紙の編集者に出くわした。店主シュレジンガーは気を利かせて、チケットを渡すようベルリオーズに促す。「この提案に僕は脳天から足先まで震えがはしったよ」と相変わらず大袈裟に語る。
ハリエットは鑑賞中に自分への片想いに気付いたそうだ。第4曲のあと、悲しみに打ちひしがれるレリオは、決定的なセリフを発する。
Oh! que ne puis-je la trouver, cette Juliette, cette Ophélie, que mon coeur appelle!(ああ、なぜ私はあのジュリエット、オフィーリアを見つけることができないのだろう。私は心の底から呼んでいるのに!)
後日、ハリエットはベルリオーズに「それ以降はホールがぐるぐる回っているかのように感じて、何も聴こえなくなり、夢遊病のひとみたいに、はっきりした意識のないまま家に帰った」と語ったそうだ(注:この表現にはベルリオーズのフィルターがかかっている可能性有)。
ハリエットは曲の後半は夢うつつだったようだが、このコラムではしっかりと最後までお付き合いいただきたい。
その後、2人の距離は縮まり、1833年の夏、二人はめでたく結婚したのであった。一目惚れから5年の歳月が経過、ベルリオーズのねばり勝ちと言えるだろう。
しかし、怪我を負い女優として落ち目になった上に、結婚してからは悪妻ぶりが目立つようになる。恋に恋していたベルリオーズは、こういった意味でも「幻想」を抱いていたのかもしれない。
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