音楽ことばトリビア ―ドイツ語特別編―

シェーネル? シェーナー? 現代ドイツ流の発音で「第九」を歌ってみよう!

読みもの
2018.12.19

日本の年末の風物詩といえばベートーヴェンの「第九」。お馴染みの「歓喜の歌」のメロディは、学校や市民合唱団で歌ったことがある方も多いのではないでしょうか?

そんな有名な「フロイデ・シェーネル・ゲッテルフンケン」の発音が、この20~30年、本場ドイツでは変わってきているそうです。

ドイツの歌劇場でも数多く歌い、日本人では数少ないシュピール・テノール(軽い声で喜劇を演じる能力のあるテノール歌手)として活躍する升島唯博さんが教えてくれました。皆さんも是非、口ずさんでみてください!

本場ドイツの発音を教えてくれる人
升島唯博 声楽家
升島唯博
本場ドイツの発音を教えてくれる人
升島唯博 声楽家
広島出身。エリザベト音楽大学卒業後、2001年渡独。デトモルト音楽大学修了。リューベック音楽大学、同大学院を首席で修了。オイレギオ国際コンクール優勝。08年にブレーメ...

本家ドイツも真っ青な日本の「第九」上演回数

先日、NHK総合テレビで放送されているクイズバラエティ番組「チコちゃんに叱られる」を見ていると、お題に「年末にベートーヴェンの第九を演奏するのはなぜ?」というものが出た。

筆者は以前交響曲第9番(以下、第九)を演奏する際に調べていたので、オーケストラ団員の年末かき入れのためということは知っていた。もとの理由はそうであるにせよ、ここまで続くのはやはりベートーヴェンの曲の力である。

そういった理由で年末によく演奏される第九は、歌唱部分は4人のソリストと4声の合唱からなっている。はっきりいってソリストよりも合唱がメインで、演奏を聴いても合唱部分に圧倒され、感動させられる。日本での第九の初演は諸説あるし、どの形式のものが初演かなどと議論を呼んでいるが、約90年もの間、日本人に親しまれてきた演目だ。

私は2001年から2014年の13年間ドイツに留学していたが、その間に第九の演奏に関わることは1度もなかったし、年の瀬に第九の演奏会があちこちで開催されることもなかった。日本に帰ってきて演奏活動を始めてから2015年に初めて第九のソロを歌う機会をいただいたのだが、日本での第九の認知度や習得具合などは驚愕に値する。

そういえば、小学校時代に音楽の教科書に載っていたのを思い出した。

合唱の一番盛り上がる部分「Freude schöner Götterfunken Tochter aus Elysium」は「フロイデ・シェーネル・ゲッテルフンケン・トホテル・アウス・エリージウム」と発音します、と。

小学生の頃は、なるほど~と思っていたが、今見てみるととんでもない。いろいろ間違ってる。ドイツ語をカタカナで表現するのにはかなり初期の段階で限界がある。

絵: 本間ちひろ

第九の発音、あなたのERはどっち?

そこで、今回は大きな間違いを2つ指摘しようと思う。

ドイツ語と日本語の決定的な違いのひとつに、【子音だけを発音する】ということがある。

最初の言葉「Freude」はカタカナで書くと「フロイデ」になるが、これをさらにドイツ語に書き換えると「Fureude」と「F」の後に「」の母音が入ってしまっているのである。

もうひとつは「schöner Götterfunken Tochter」の下線を引いた部分。教科書には「シェーネル・ゲッテルフンケン・トホテル」と書いてあったが、今日のドイツではここ20~30年の間に語尾の「er」は「エル」ではなく、曖昧母音というもので発音するようになっている。これは「ア」と「オ」の中間の母音で、口は半開き、ちょっと気の抜けたような口の形で発音する。

ここ20~30年と書いたが、ベートーヴェンの書いた時代には上記のように発音されていたようだが、なぜ現代では曖昧母音で歌われるようになったのか。これはあくまで個人的な見解だが、ドイツに留学して、ドイツ語を理解できるようになったから思い立った理由である。

語尾を「エル」のように発音するのは、ドイツ人が聞いてもとても固く聞こえてしまう。昔のドイツ演劇などではこのように発音されてきたし、国民を鼓舞するためにヒットラーはあえてこの固い発音で演説をした。そうすることで芸術とは崇高で人の手の届かないところで奏でられるものという印象を与えていたのかもしれないが、最近では身近なものとして一般のドイツ人が聞いてわかりやすい、口語のまま歌われるようになったからだと思う。

erを「エル」で歌っている録音(1958年録音)
フェレンツ・フリッチャイ指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団/聖ヘトヴィヒ大聖堂聖歌隊

erを曖昧母音で歌っている録音(2000年録音)
クラウディオ・アッバード指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団/スウェーデン放送合唱団

私は敢えて「間違い」と書いたが、多くの日本人がドイツに音楽留学する時代になった今、現代のドイツで歌われている歌唱法を根付かせたいと思うからである。

以下に合唱の有名な部分を抜粋で記しておく。

Freude,  schöner   Götterfunken,

Fロイデ/シェーナー/ゲッターフンケン

Tochter   aus   Elysium

トchター/アウs/エリューズィウm (ここのchはオの口で喉の奥に息を当て、ホの様な音)

Wir/betreten/feuertrunken

ヴィァ/べtレーテン/フォィアーtルンケン

Himmlische,/dein/Heiligtum!
ヒンmリッシェ/ダイン/ハイリchトゥm(ここのgはch(ヒの子音だけ)で発音する)

Deine/Zauber/binden/wieder,

ダイネ/ツァウバー/ビンデン/ヴィーダー

Was/die/Mode/streng/geteilt;

ヴァs/ディー/モーデ/shtレング/ゲタイルt (ここのstは「シュトゥ」の母音が無い発音)

Alle/Menschen/werden/Brüder,

lレ/メンシェン/ヴェrデン/bリューダー

Wo/dein/sanfter/Flügel/weilt.

ヴォー/ダイン/ザンfター/fリューゲl/ヴァイlt

原語の下に読み方を書いたが、カタカナでは限界があるので子音だけの部分はローマ字で記した。太字の部分のは曖昧母音で伸ばす。

はっきり言ってこれでも実際の発音には至っていないが、すべてカタカナで歌っていたところから、ローマ字の発音記号に挑戦する前の橋渡しとなれば幸いである。

サイモン・ラトル指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団/ベルリン放送合唱団(2014年録音)

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