読みもの
2025.03.12
牛田智大「音の記憶を訪う」 #10

【牛田智大 音の記憶を訪う】理想の響きを探して~ホール演奏でいつも心がけていること

人気実力ともに若手を代表するピアニストの一人、牛田智大さんが、さまざまな音楽作品とともに過ごす日々のなかで感じていることや考えていること、聴き手と共有したいと思っていることなどを、大切な思い出やエピソードとともに綴ります。

牛田智大
牛田智大

2018年第10回浜松国際ピアノコンクールにて第2位、併せてワルシャワ市長賞、聴衆賞を受賞。2019年第29回出光音楽賞受賞。1999年福島県いわき市生まれ。6歳まで...

撮影:ヒダキトモコ

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この原稿を書き始めたときはまだ2024年だったのですが、気がつけばもう2月が終わろうとしているわけで……月日の流れは本当にはやいものです(編集部の皆さま、本当にすみません!!!)。1月中は各地で公演をさせていただいていました。お越しくださった皆さまや主催者の皆さまに心から感謝するとともに、今月からは少しホッとして次の勉強を始めたところです。

牛田 智大 Tomoharu Ushida
2018年第10回浜松国際ピアノコンクールにて第2位、併せてワルシャワ市長賞、聴衆賞を受賞。2019年第29回出光音楽賞受賞。1999年福島県いわき市生まれ。6歳まで上海で育つ。
2012年、クラシックの日本人ピアニストとして最年少(12歳)で ユニバーサル ミュージックよりCDデビュー。これまでにベスト盤を含む計9枚のCDをリリース。2015年「愛の喜び」、2016年「展覧会の絵」、2019年「ショパン:バラード第1番、24の前奏曲」、最新CD「ショパン・リサイタル2022」は連続してレコード芸術特選盤に選ばれている。
シュテファン・ヴラダー指揮ウィーン室内管(2014年)、ミハイル・プレトニョフ指揮ロシア・ナショナル管(2015年/2018年)、小林研一郎指揮ハンガリー国立フィル(2016年)、ヤツェク・カスプシク指揮ワルシャワ国立フィル(2018年)各日本公演のソリストを務めたほか、全国各地での演奏会で活躍。その音楽性を高く評価され、2019年5月プレトニョフ指揮ロシア・ナショナル管モスクワ公演、8月にワルシャワ、10月にはブリュッセルでのリサイタルに招かれた。2024年1月には、トマーシュ・ブラウネル指揮プラハ交響楽団日本公演のソリストとして4公演に出演。
20歳を記念し2020年8月31日には東京・サントリーホールでリサイタルを行い、大成功を収めた。また2022年3月、デビュー10周年を迎えて開催した記念リサイタルは各地で好評を博すなど、人気実力ともに若手を代表するピアニストの一人として注目を集めている。
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ステージに上がったら常識を捨てなければいけない?!

1月の公演のように同じプログラムを異なるホールで演奏するとき、いつも考えてしまうのは「音量や響きのバランスをホールごとにどう調整するか」ということです。結局のところ気にせずいつも同じように弾くしかないのかもしれないと思ったりもするのですが、そうはいってもホールの響きを考慮していない状態の音楽はかなり違和感があるもので、せっかく考えて練習した音楽的なアイデアが無駄になってしまうのはもったいないところです。

わたし自身もいろいろな公演を聴きに行って、選んだ席が悪いせいでさっぱり音楽が響いてこなくて睡魔と戦うはめになった経験は数知れず。ピアノはとくにそういうことが起こりやすいような気がします。そういうときに限って周囲の評判は良かったりして、なんともいえぬ孤独感を味わったり……せめて自分の演奏会ではそんな思いをされる方を少なくしたいと考えるようになりました。

以前Mo.クリスティアン・ツィメルマンにお目にかかったとき、言われたのは「ステージに立ったら、学習者であったときに染み付いた常識は捨てなければならない。大きなホールでは、ときに教師が見たらショックを受けるような弾き方もしなければならないのだから」ということでした。それが本当かどうかはともかく、実際(レッスン室などの)狭い空間に慣れすぎていると、小さめの室内楽ホールならとくに問題はないのですが、大きなホールに行ったときに手足をもがれたような、音が聞こえているのに識別できなくなるような感覚に陥ります。そして、そこから抜け出そうと頑張ってしまうと最悪で、音のバランスの不自然さが目立ったり、音質が損なわれたり、あとは単純に難しいところが弾けなくなります(笑)。

たいていの大きなホールでは、使える音量帯の最低ライン(最弱音)が上がり、いわゆるpppみたいなものが(特殊な効果を狙うのでもなければ)どうしても使いにくくなります。オーケストラなら大きな音はいくらでも出せるのでよいのですが、ピアノは美しい音を保てる最大音量が決まっているので、必然的にダイナミックレンジが狭くなるのです。加えて、オーケストラ公演を想定して設計された現代的なホールでは、一定の音量帯を(大音量の方向に)超えると響きが急に柔らかくなることもあり、それもまた難しいところです。

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