読みもの
2024.08.29
牛田智大「音の記憶を訪う」 #7

ルバートとはなにか 霧島の自然の中で考えたこと

人気実力ともに若手を代表するピアニストの一人、牛田智大さんが、さまざまな音楽作品とともに過ごす日々のなかで感じていることや考えていること、聴き手と共有したいと思っていることなどを、大切な思い出やエピソードとともに綴ります。

牛田智大
牛田智大

2018年第10回浜松国際ピアノコンクールにて第2位、併せてワルシャワ市長賞、聴衆賞を受賞。2019年第29回出光音楽賞受賞。1999年福島県いわき市生まれ。6歳まで...

撮影:ヒダキトモコ

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暑い日が続きますが皆さまいかがお過ごしでしょうか。私は今年45回目を迎える霧島国際音楽祭マスタークラスを受けるために鹿児島県霧島市に滞在しました。日本神話と深いつながりをもつ霧島神宮を擁し「(天上界から望める)霧に煙る海に浮かぶ島」が由来となって名づけられた霧島の地で、日本でもっとも歴史ある音楽祭のひとつが開催されるということに特別な意味を感じずにはいられないものです。

霧島の豊かな自然は、私に大きなインスピレーションを与えてくれました。とくに早朝に訪れた霧島神宮はどこか人間の世界から隔絶されたような壮大な景色が広がり、畏敬とでもいえばよいのか、言葉に表すのが難しいような感情がずっと記憶に残り続けています。なにか自らの手では動かすことのできない運命の力のようなものを感じさせられました。

牛田 智大 Tomoharu Ushida
2018年第10回浜松国際ピアノコンクールにて第2位、併せてワルシャワ市長賞、聴衆賞を受賞。2019年第29回出光音楽賞受賞。1999年福島県いわき市生まれ。6歳まで上海で育つ。
2012年、クラシックの日本人ピアニストとして最年少(12歳)で ユニバーサル ミュージックよりCDデビュー。これまでにベスト盤を含む計9枚のCDをリリース。2015年「愛の喜び」、2016年「展覧会の絵」、2019年「ショパン:バラード第1番、24の前奏曲」、最新CD「ショパン・リサイタル2022」は連続してレコード芸術特選盤に選ばれている。
シュテファン・ヴラダー指揮ウィーン室内管(2014年)、ミハイル・プレトニョフ指揮ロシア・ナショナル管(2015年/2018年)、小林研一郎指揮ハンガリー国立フィル(2016年)、ヤツェク・カスプシク指揮ワルシャワ国立フィル(2018年)各日本公演のソリストを務めたほか、全国各地での演奏会で活躍。その音楽性を高く評価され、2019年5月プレトニョフ指揮ロシア・ナショナル管モスクワ公演、8月にワルシャワ、10月にはブリュッセルでのリサイタルに招かれた。2024年1月には、トマーシュ・ブラウネル指揮プラハ交響楽団日本公演のソリストとして4公演に出演。
20歳を記念し2020年8月31日には東京・サントリーホールでリサイタルを行い、大成功を収めた。また2022年3月、デビュー10周年を迎えて開催した記念リサイタルは各地で好評を博すなど、人気実力ともに若手を代表するピアニストの一人として注目を集めている。
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思えば、13歳のころ初めて岡山県倉敷市を訪れたときにも同じような感情を持ったことがありました。定期的に教えにいらしているモスクワ音楽院の先生たちのマスタークラスにお誘いを受けたのですが、くらしき作陽大学のレッスン室から望める山々を目にしたとき、自らがこの地に引き寄せられたことがなにか必然であるかのように感じられたことを憶えています。

ほんとうに自然豊かで美しい場所で、私はここで13歳から19歳までの6年間を過ごし、たくさんの素晴らしい先生方との出会いが私の人生を変えてくれました。ここで学び始めた当初の私にはたくさんの課題があったわけですが、それらをただ指摘するだけでなく思考そのものを軌道修正するように、アプローチの方向性を変えながら長い目で向き合ってくださったことに本当に感謝しています。

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