読みもの
2020.08.03
週刊「ベートーヴェンと〇〇」vol.26

ベートーヴェンとメトロノーム

年間を通してお送りする連載「週刊 ベートーヴェンと〇〇」。ONTOMOナビゲーターのみなさんが、さまざまなキーワードからベートーヴェン像に迫ります。
第26回は、ベートーヴェンとメトロノームの深い関係について。1817年、交響曲第1〜8番のメトロノームテンポを発表し、音楽史上初めてメトロノームを積極的に取り入れたベートーヴェン。メトロノームのどのあたりを気に入ったのでしょうか?

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...

ウィーンにあるベートーヴェンのお墓。メトロノームの形をしています。

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今ではよく目にするメトロノーム、実はベートーヴェンと切っても切り離せない関係にあるのです。

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メトロノームが生まれる前のテンポ

メトロノームの原型はエティエンヌ・ルーリエ(フランス・1654〜1702)が1696年に発明しましたが、現在私たちがよく目にするような形ではなく、実用化もされませんでした。

その後、メトロノームが生まれるまでの音楽は、「テンポ・オルディナーリオ(普通のテンポ)」というおおよその脈拍の速さを基準とし、速度記号(アダージョアレグロ等)によって、若干テンポを調節して演奏されていました。しかし言葉だけでは具体的なテンポはわかりませんし、脈拍だって人によって違いますよね……。

ベートーヴェンとメトロノームの出会い

実用的なメトロノームの誕生は、1815年のこと。ウィーン宮廷専属の機械技師ヨハン・ネポムク・メルツェル(オーストリア・1772〜1838)が元のメトロノームを改良し、同年にパリとロンドンで特許を取得、1816年より発売します。

ベートーヴェンはもともと、メルツェルと彼の弟レオンハルト(兄と同じく技師)が作った補聴器を使用していましたので、その関係でメトロノームの存在を知ることとなります。

メルツェルが製作したオリジナルのメトロノーム(バーデンのベートーヴェンハウス)。
写真:大井駿
ベートーヴェンが使用していたヨハン・ネポムク・メルツェル作の補聴器。

「普通のテンポ」を打ち破り、速度に自由をもたらしたべートーヴェン

普遍的でない速度記号に不満があったベートーヴェンは、具体的な数字で理想のテンポを示せるメトロノームの有用性に目をつけます。

そして1817年12月17日、「ライプツィヒ音楽新聞」に、それまで作曲した8つの交響曲のメトロノームテンポを掲載したのです。

その後もメトロノームの速度表示を自身の作品に導入したベートーヴェンは、1826年12月18日、亡くなる3ヶ月前に、楽譜出版社ショットへ「もはやテンポ・オルディナーリオ(普通のテンポ)の時代は終わりました。これからの音楽は自由なひらめきを尊重すべきなのです」と書き送っています。

このことからベートーヴェンは、メトロノームが刻む一定のテンポで演奏されることを望んでいたのではなく、メトロノームによって理想のテンポ感がわかることに有用性を見いだしていたことがわかります。

こうして「普通のテンポ」の壁を打ち破り、音楽にさまざまなテンポをもたらすきっかけを作ったベートーヴェンは、今もメトロノームの形をした墓石の下で眠っています。

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...

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