夫婦仲が復活してしまった意中の女性と以前のような関係に戻りたい〜グリンカ「告白」
読者から寄せられた恋愛のお悩みを、メゾソプラノの鳥木弥生さんが歌曲をもとにスパッと解決する連載! 鳥木さんがお悩みに効きそうな歌曲を処方します。
第4回は、男性からのご相談。夫とあまりうまくいっていない女性と仲良くなったものの、コロナ禍で夫婦仲が回復してしまったので、夫に決闘を臨もうか悩んでいるとのこと。オペラにありそうなこの展開に対して、恋愛マスターの答えはいかに?!
武蔵野音楽大学卒業後、ロシア、セルヴィアなど東欧各地におけるリサイタルで活動を開始。第1回E.オブラスツォワ国際コンクールに入賞し、マリインスキー歌劇場において、G....
私は還暦を迎えつつある男性です。10歳ほど歳下の女性が、こんなお腹も出た私にゾッコンなってくれ、私も憎からず思うようになった頃にコロナ禍となり、あまり会えなくなりました。
彼女には、夫婦仲は良くないと噂だったものの、夫があり、自粛期間中に、なんと夫婦仲が修復されてしまいました。それは良いこととだは思うものの、今度は彼女を失った私が恋に悩んでいます。
今は自粛期間がすぎ、会えるようにはなりましたが、彼女の夫婦仲が良くなった今、以前の関係に戻れたり、もっと仲を深めることは可能でしょうか?
いっそ彼女の夫と決闘をしようかとも思っています。
恋愛マスターからのおことば
客観視する心の余裕があるあなたなら答えは見えているはず
これまでになくオペラティックなお悩みで、相談者様の気持ちを考えると、脳内に色んなオペラのシーン、音楽が浮かびます。
自分が修道院に送り届けたタイスを愛してしまうアタナエル、自分が愛を拒んだウェルテルの死を見届けるシャルロット、そして、自分が以前冷たく振ったタチアーナに魅了されるオネーギン……。
今回は、その《エウゲニー・オネーギン》の原作者、アレクサンドル・プーシキンの詩をもとに「近代ロシア音楽の父」ミハイル・グリンカが作曲した歌曲「告白」を、相談者様に処方したいと思います。
どれほどあなたを愛しているか、それを言うのは思い止まっている、なぜならこの愛は不幸で愚かなものだから、という、後ろ暗い恋を思わせる歌詞ですが、曲調はむしろあっけらかん。
相談者様も、もちろん苦しい思いをされているのだとは思いますが、彼女と夫との夫婦仲が修復されたことを良いことだと思うような、気持ちの余裕もあるご様子。
彼女やご自分の人生を、それこそオペラティックに波乱万丈にしてしまいたいとまでは思っていないのではないでしょうか?
ご自分のお腹の出具合を客観的に見つめることもでき、決闘という情熱的な発想もお持ちの相談者様は、きっとバランス感覚に長けた方なのではないでしょうか?
私から言うまでもなく、きっとすでに、こう思われているはず。
「やるなら言うな。言うならやるな」
今を遡ること131年……。1889年12月30日、日本では決闘罪に関する件(明治22年法律第34号)が交付されました。決闘を挑んだだけでも6ヶ月以上2年以下の懲役、実行すると2年以上、5年以下の懲役となります。
さらに遡ること52年……。ロシアでは詩人アレクサンドル・プーシキンが1837年2月8日(旧暦1月27日)、サンクト・ペテルブルク郊外で自分の妻に言い寄ったフランス人男性と決闘を行い、その傷がもとで2日後の2月10日、37歳の若さで亡くなりました。
処方された歌曲
グリンカ作曲 「告白」(詞:プーシキン)
Я вас люблю,
хоть я бешусь,
Хоть это стон и труд напрасный;
И в этой глупости несчастной
У ваших ног я признаюсь!
僕はあなたを愛している
たとえ 怒り狂い
泣き言でしかなく 不毛でも
この不幸せな愚行を
僕はあなたに跪き 告白しよう!
Без вас мне скучно,
Я зеваю,
При вас мне грустно,
Я терплю;
И мочи нет, сказать желаю,
Мой ангел, как я вас люблю!
あなたがいないと 僕は退屈で
気怠い
でもあなたといると 僕は悲しい
辛抱するのだ
言いたくてたまらないけれど
僕の天使 あなたをどれほど愛しているか!
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