読みもの
2021.09.05
鳥木弥生の「歌曲で解決! 恋愛お悩み相談室」第7回

尊敬する同性の上司に告白された! 恋愛感情を伴う同性の付き合いはどこまでが友情か?

読者から寄せられた恋愛のお悩みを、メゾソプラノの鳥木弥生さんが歌曲をもとにスパッと解決する連載。 鳥木さんがお悩みに効く歌曲を処方します。
第7回は、妻子ある男性が同性の上司から恋愛感情を告げられたというお悩み。恋愛マスターが人間関係における大切な心得を力説します!

恋愛マスター
鳥木弥生
恋愛マスター
鳥木弥生 メゾ・ソプラノ歌手

武蔵野音楽大学卒業後、ロシア、セルヴィアなど東欧各地におけるリサイタルで活動を開始。第1回E.オブラスツォワ国際コンクールに入賞し、マリインスキー歌劇場において、G....

ポントルモ《2人の友人》(1522年頃、ヴェネツィア・ジョルジオ・チーニ財団所蔵)
左側の男性が指しているのはキケロの『友情について』。

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今回のお悩み

今回鳥木さんにご相談したいのは、恋愛感情を伴う同性同士の付き合いはどこまでが友情かということです。 私は、妻と2人の子どもと幸せな家庭生活を送っているものです。個人的には、男女の友情は成立しないという考えであり、妻に余計な心配をかけたくないので、妻以外の女性と2人きりで食事にでかけることは極力さけてきました。

 

ところが先日、尊敬する同性の上司の方にお誘いを受け、2人きりで飲みに行ったところ、告白をされました。それは友情ではなく、恋愛感情を伴うものであり、キスやその先を求められるものでした。私は驚いてそのときはお断りしましたが、もともと尊敬していた上司であることもあり、好意を知ってからその上司のことが、人間的にもますます気になるようになってしまいました。

 

まだこの気持ちが、恋愛感情であるのかわかりません。今後その上司の方と2人きりで会って食事をしたり、お相手の家に泊まるなどは、許されることでしょうか。

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恋愛マスターからのおことば

恋愛感情の有無に関わらず、人間関係の根幹は友情

友情にも、愛にも、本当に色んな形があると思います。

一人ひとりの心がさまざまで、誰かに対して勇気を出して心を開いてみたら、驚くほどかけ離れていたり、逆に、意外に近しいものを見つけたり……というのが人間関係の醍醐味のひとつではないかな、と思っています。などと、広い心の持ち主のようなことをいいつつ、実は私はものすごく心が狭くて! 絶対に許せない言葉があるんです!! それが、

「男女の友情は成立しない」

という、たわごと!!!

ご相談いただいたのにいきなり説教風で申し訳ないんですが、そんなこと言ってる人は、異性にも同性にも実際、友達なんてひとりもいなくて、自分に都合のいい付き合いばっかりしてるんですよ。

あと、私は「友達以上、恋人未満」というようなことをぬかす人も大嫌いで、何? 恋愛関係が友達関係より上だとでも? 友情なめんなよ! と、断罪したい!

相談者様もどうせそんなこと言ってんじゃないですかー?

だいたい、妻を心配させないために女性と2人きりを避ける、ていうのも単純すぎるというか……。

……すみません。勝手な憶測まで駆使して心の狭さをこれでもかと露見させてしまいました。

つまり、相談者様の「恋愛感情を伴う同性同士の付き合いはどこまでが友情か」には、こう答えたいのです。

恋愛感情を伴おうが、何をしようが、同性異性に関わらず、どこまでも友情!」であるのが健全です、と。

相談者様の場合、尊敬している上司がお相手ということですが、恋愛と友情の線引きをせず、関係を深くするのもそう悪いことではないのではないでしょうか? ただ、絶対に何があってもその敬意や友情を失わない、という自信があるのであれば、という条件付きで……。一番悲しいのは、恋愛が終わったときにそこにあったはずの友情まで失われてしまうことだと思います。

さて、今回はいきなり説教をしてしまったので、処方曲は甘く切なく、ひたすらに麗しい曲を……。

ベネズエラ生まれで、幼い頃パリに移住し、10歳前後で天才少年としてその才能を華やかに開花させた、レイナルド・アーン(1875~1947)という作曲家がいます。フランスの偉大な作曲家、ジュール・マスネの庇護を受けて、次々に美しい曲を生み出しました。

レイナルド・アーン
ベネズエラで生まれ、3歳のときに家族でパリに移る。10歳でパリ音楽院に入学し、マスネやサン=サーンスに師事。『アルルの女』の原作を書いた作家のドーデに、15歳にして劇音楽の作曲を依頼されるほど、早くから才能を見出されていた。マスネの庇護により、後年はオペラ指揮者としても活躍し、パリ・オペラ座の音楽監督も務めた。

彼が15歳で作曲した歌曲集『灰色の歌』の第5曲「甘美の時」(「恍惚の時」と訳されることも多いです)は、フォーレの歌曲集『よい歌』に含まれる「白い月」と同じヴェルレーヌの詩が使われ、どちらがより琴線に触れるとか、どちらがより芸術性価値が高いとか……人気を二分しています。よろしければ聴き比べもしてみてください。

アーンは、20歳の頃に彼より3歳年長で長編小説『失われたときを求めて』で知られる小説家、マルセル・プルーストと出会い、その後、生涯にわたり、恋人、また、友人としての交友を続けました。

処方された歌曲

アーン作曲「甘美の時」~歌曲集『灰色の歌』より(詞:ヴェルレーヌ)

「甘美の時」歌詞対訳

La lune blanche

luit dans les bois.

De chaque branche part une voix

sous la ramée.

O bien aimée….

 

白い月の輝く森

太い枝々から発し

茂みを通って聴こえる声

ああ、愛する人よ……

 

L’étang reflète,

profond miroir,

la silhouette du saule noir

où le vent pleure.

Rêvons, c’est l’heure.

 

深い反射鏡の池

柳の暗いシルエットに

風が喘ぎ泣く

求めよう、今がその時

 

Un vaste et tendre apaisement

semble descendre

du firmament

que l’astre irise.

C’est l’heure exquise!

 

天空から降るようにおとずれる

限りなく愛おしい鎮静

星が虹色に閃く

それは、甘美の時!

同じ詩にフォーレが作曲した歌曲「白い月」

恋愛マスター
鳥木弥生
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鳥木弥生 メゾ・ソプラノ歌手

武蔵野音楽大学卒業後、ロシア、セルヴィアなど東欧各地におけるリサイタルで活動を開始。第1回E.オブラスツォワ国際コンクールに入賞し、マリインスキー歌劇場において、G....

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