シェーネル? シェーナー? 現代ドイツ流の発音で「第九」を歌ってみよう!
2021.10.04
プロコフィエフ《ピーターと狼》の意外な奥深さを知る本
1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...
2002年6月に、マウリツィオ・ポリーニのミラノの自宅を訪問した。
厳重な入口から門の内側に入ると、フェリーニの映画にでも出てきそうな館があり、秘密めいた階段を上っていくと、茶室の入口のように小さなドアがあった。まるで隠れ家である。
明るい応接間に通され、鋭角的なデザインのガラステーブルの前のソファに腰を下ろすと、壁には14世紀頃のイタリアの品の良い夫婦の肖像画が架けられていた。
「私の祖先ですよ。いや冗談ですがね」とポリーニは言った。超現代的な家具と、中世の古美術が同居しているということ、それはいかにもポリーニらしい趣味と感じられた。
隣の部屋はドアが開けっぱなしになっていて、厳粛な雰囲気の漂う書斎であることがうかがえた。ピアノもおそらくそこにあるらしかった。
ポリーニの演奏を聴くとき、筆者はいつも、心のどこかで、あの私邸を思い浮かべてしまう。
そのポリーニが再録音したベートーヴェンの後期3大ソナタ(第30、31、32番)が、この2月に発売され、大きな話題となっている。
今回の熾烈なベートーヴェンも、きっとあの部屋のように、単に19世紀という枠にとどまらない、スケールの大きな思考の賜物ではないかという気がしている。