読みもの
2020.04.14
林田直樹のミニ音楽雑記帳 No.7

スペイン・アンダルシア地方の本質を伝える名著が誕生『約束の地、アンダルシア』

林田直樹
林田直樹 音楽之友社社外メディアコーディネーター/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

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こんなに美しく、こんなに愛にあふれた本は滅多にない。

スペインや中南米の音楽や文化を中心に、該博な知識と経験で敬愛される音楽評論家・スペイン文化研究家・日本フラメンコ協会会長の濱田滋郎さんが、『約束の地、アンダルシア』(アルテスパブリッシング)を上梓された。

西ヨーロッパ最古の文明の地であり、スペイン最南端でアフリカと対峙し、イスラムをはじめとする多様な文化を包摂しながらも、聖母マリアの恵みの土地と呼ばれる、この小さな一地方にはどんな秘密があるのか?

紀元前3000年もの古代からゆっくりと歴史をひもときながら、雄大なスケールで語られるアンダルシアの文化。音楽のみならず、詩や文学、美術、建築、宗教、自然に至るまで、五感を刺激する語り口の、謙虚で穏やかでありながら、その底に何と激しい愛情が燃えたぎっていることだろう。

たとえば、ベラスケスとピカソという、アンダルシア生まれの二大画家以上に、濱田さんが偏愛するフリオ・ロメーロ・デ・トーレス(1874-1930)についての記述は、日本の画家・竹久夢二を引き合いに出すなど、その着想の奇抜さ、的確さにも驚かされる。

アルベニスのようなカタルーニャ出身の作曲家でさえ、どれほどアンダルシアに影響を受けていたかを丁寧にときほぐし、ついにはフラメンコを生んだ土地としての核をなすアンダルシアの本質へと話題は収斂していく。それは——「ある真実」の前には階級も身分も有名度も貧富の差も、一瞬にして消えてなくなるという「魂の平等思想」であり、その深い思想の上に成り立っているのがフラメンコなのだ——と濱田さんは看破するのだ。

これはアンダルシアという根源的な土地のありようと文化を通して、あらゆる人々にとっての人生の真実を語ろうとしている本と言えるだろう。高瀬友孝の写真も、旅情をかき立てる、色彩感豊かな見事なものばかりだ。

林田直樹
林田直樹 音楽之友社社外メディアコーディネーター/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

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