「音楽の時間」をゆっくり楽しむ大人たちのお祭り
楽器を演奏することを純粋に楽しむことは、簡単なようで意外と難しい。大人になると、演奏するたびに何か言い訳をつけて、少しビクビクする。昔はピアノを弾くのが大好きだったのに、もう今は弾かないという人も大勢いるのではないだろうか?
そこに、そんなことどうだっていい! という人が現れた。しかも、偉い先生だ。
4才よりピアノを始める。全日本学生音楽コンクール中学生の部全国第一位。東京芸術大学音楽学部付属高校を経て東京芸術大学に入学、在学中より演奏活動を始める。 同...
目指すのは現代のシューベルティアーデ
出場のための制限は「40歳以上であること」。予選と本選があるが “コンクール”ではない。審査員にはクラシックのピアニストだけでなくジャズ奏者、俳優やバレリーナもいる。
そんな一風変わった催し「大人のピアノカーニバル」が2018年秋に行なわれる。
「日本はクラシック・ピアノ教育が盛んですが、発表する場が若い人たちと子どもたちに偏っている。大人になると、勝ち負けをつけられ、優劣をつけられてきた子ども時代に植えつけられた『みっともない真似はできない』という気持ちから、どう評価されるということに神経質になって、音楽を楽しめなくなってしまう。それを取っ払いたい! 楽しければいいじゃないか!!」
そう語るのは、大阪音楽大学で教授を務める岡原慎也さん。この「大人のピアノカーニバル」の主催者だ。ドイツに留学しているときの驚きの経験が今回の企画の基礎にあるようだ。
「音楽の素養は何もない下宿先のおやじさんが、僕の演奏会を聴きに来てくれたことがありました。40分もかかるシューベルトの遺作のピアノソナタを演奏したから、長くて、難しくて、退屈だったでしょう? と尋ねたら『とんでもない! 長いのがいいんじゃないか!』と言われてハッとしたんです。彼らは理屈ではなく、ゆっくりとした時間の中で音楽を楽しんでいる。日本では忙しい日常の中で、どんなに音楽が好きでも、楽しむ場所がないんです」
シューベルトの最後の2つのピアノソナタ。それぞれ演奏に40分はかかる大作。
19世紀のドイツにはシューベルティアーデに代表されるような、親しい友人が集ってピアノを囲み、お互いに演奏したり、歌ったりという催しがあった。気の置けない仲間たちと音楽について語らい、純粋の楽しみと喜びのための会。そんな雰囲気を作りたいと岡原さんは語る
自由に音楽を表現することは幸せへの道!
「コンクールではありませんから、本選とはありますが、通過基準は多面的です。技術は主な審査項目ではなく、音楽に対する情熱や表現力、どれだけ楽しんでいるかが大切なポイントになります。忘れてはいけないのは、これはカーニバルだということ。演奏する楽しみ、自分とは違うものを聴く楽しみ。拍手をして、拍手を受けて、皆で盛り上がりたいですね。もちろん聴衆のみなさんにも盛り上げていただきますよ(笑)」
「大人のための」とはいえ、もちろんこの企画は未来に続く音楽の道を見据えている。
「音楽に限らず、いま日本全体が正しい・正しくないということにこだわりすぎて臆病になっている。正しいことをしなければ、という強迫観念で身動きが取れなくなってしまう。でも、特に音楽に関して言えば、誰も正解はわからない。ベートーヴェンもショパンも今となっては、何が正しいかは教えてくれないんだから(笑)。クラシックといえども時代とともに変わっていく。それなら解釈や難しいことは忘れて自由になりましょうよ。大人が自由に楽しむことによって、音楽に関わるとこんなに幸せになれるんだ! って子どもたちにも見せていけるはずです」
「大人のピアノカーニバル」は、若き岡原さんが出会ったあのドイツのおやじさんのように、理屈ではない、ゆっくりとした「音楽の時間」を楽しめる人たちが日本にも増えるための第一歩となるだろうか?
もしあなたの心に、外には出せないでいる音楽への愛情があるのなら、それを爆発させて参加してみて欲しい。
●出演者募集
募集資格: 40歳以上!
参加申し込み受付: 2018年8月17日(金)より開始
●プレ・カーニバル(予選)
【 大阪大会 】 2018年11月3日(土)・4日(日) 三木楽器 開成館サロン
【 東京大会 】 2018年11月10日(土) KM アートホール
【 福岡大会 】 2018年12月16日(日) ヤマハ西新センター ミュージックサロン
●カーニバル(全国大会)
2019年3月30日(土) 音楽の友ホール(東京)
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