イベント
2021.03.18
横浜みなとみらいホール/特集「ホールよ、輝け!」

休館中だからこそ、あらゆる人が音楽にアクセスできる方法を〜横浜みなとみらいホール

2021シーズンは休館中の横浜みなとみらいホールだが、中にいる人たちは活動の手を緩めず、ホールが企画するコンテンツを、ウェブや周辺地域へと広げていくようだ。館長の新井鷗子さんに、その展望を伺った。

取材・文
山崎浩太郎
取材・文
山崎浩太郎 音楽ジャーナリスト

1963年東京生まれ。演奏家の活動とその録音を生涯や社会状況とあわせてとらえ、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。『音楽の友』『レコード芸術』『モーストリーク...

メイン写真:「こどもの日コンサート」過去の公演より。©藤本史昭

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挑戦的なコンテンツ満載の「横浜WEBステージ」、継続決定!

横浜みなとみらいホールは、大規模な改修工事のために2021年の元旦から2022年10月まで、1年10ヵ月の長期にわたって全館休館中となっている。そのためホールでの公演は行なわれていない。

館長の新井鷗子さんは「これを機会に、横浜みなとみらいホールではできなかったようなことにも挑戦できるかな、と思っている」という。

クラシックコンサート構成作家で、横浜みなとみらいホール館長の新井鷗子さん。
撮影協力:横浜美術館 ©ヒダキトモコ

その一つが、最新のテクノロジーを活用してインターネット上で鑑賞・体験できる「横浜WEBステージ」だ。これはコロナ禍でコンサートが中止となった昨年から、大いに活用されることになった。

「もともと休館にそなえて以前から計画していたものだったのですが、コロナ禍ということで開始時期を前倒しして、昨年9月から開始しました。横浜にゆかりのあるアーティストを支援するという目的で開始したのが、再生回数270万回を超えるなど、クラシックではありえないような好評をいただきまして、2月末で終了を予定していたのを延長して、継続することにしました。ウェブにふさわしい企画を新たに考えています。

配信コンテンツはライブの代わりではありません。ライブがいちばんという認識をしたうえで、それとはまったく別の魅力をもつものを提供したいと考えています」

ちなみに、もっとも反応がよかったのはピアノの阪田知樹によるベートーヴェンのピアノ・ソナタ第14番 嬰ハ短調《月光》第3楽章だ。曲と演奏のよさに加えて、視覚的な面白さも人気の要因だという。

小型広角カメラによる撮影動画/ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第14番《月光》阪田知樹

また、これまでにもホール内にドローンを飛ばして撮影していたが、さらに横浜港や公園など、屋外の空間での収録も考えている。「ONTOMOをご覧の方には、『横浜WEBステージ』は特に親しみやすいコンテンツだと思います。マルチ画面でパイプオルガンなど楽器の内部を見られるものもあります。演奏中にどんな動きをしているのか、虫になったような体験ができると思います」

小型カメラでオルガンの内部まで収録した動画。各機構のアクション音あり

休館中はホールの外へ出向いて

神奈川県内の他のホールなどを利用した、さまざまな催しも計画している。以前から親しまれてきたシリーズを他の場所で、新たな企画も交えて継続させるものだ。

「5月の『こどもの日コンサート』では、中学生プロデューサーを公募しました。広報活動や運営、オーケストラとの打ち合わせなどに参加することで、演奏を鑑賞するだけではない、作り手としてコンサートに参加してもらおうという企画です。これは曲目も親しみやすく、初心者の方に絶対に楽しんでいただけるコンサートだと思います。子どもたちは、ホールでお客さまをお迎えすることにも参加します」

準備段階ではインターネットを活用し、教材となる動画をウェブ上で見てもらうなどして、実際に子どもが集まる回数は極力少なくなるように配慮したうえで、コンサートは神奈川県立青少年センター 紅葉坂ホールで開催される。

「こどもの日コンサート」過去の公演より。©藤本史昭

また「横浜18区コンサート」(9月から2022年度まで) は、横浜市内の文化施設に気鋭の演奏家が出向いて、ソロやアンサンブルで公演するシリーズ。横浜文化賞の受賞者を中心に、ピアノの萩原麻未、實川風、福間洸太朗、ヴァイオリンの山根一仁、大関万結などが出演する予定だ。

「みなさんのすぐそばのホールで、昼間に90分くらいの長さで行なうコンサートなので、気軽にいらしていただけると思います」

あらゆる人がアクセスできる方法や態勢で音楽を伝えていく

音楽が生まれる場、集う場としてのホールの役割とは?

「公共ホールなので、地元に愛されてなんぼだと思います。その使命に応えるにはどうしたらいいか。まず、地元に必要とされるホールでなければならない。そして、音楽によって社会課題を解決する

高齢化社会のなかでも行きやすいホール、子育て中の親御さんにも対応できるホール。素晴らしいコンテンツだけでなくて、どのような状況下の人にもていねいに説明して来てもらえるような、そのための広報などの方法を考えています」

社会包摂事業の一環として、2年に1回ほど「ミュージック・イン・ザ・ダーク」という催しを行なっている。視覚障がいのある演奏家と障がいのない演奏家によるアンサンブルが、照明を消した真っ暗闇の空間で演奏するコンサートだ。これまでは、小ホールで弦楽アンサンブルが演奏したが、次回は横浜能楽堂で邦楽を聴く。「視覚以外の四感を研ぎすませ、漆黒の闇から響く音を感じてみてください」。

「ホールが休みなので、やりたい放題といいますか(笑)、あちこちに出かけていきたいと思っています。神奈川フィルのメンバー69人の演奏を69台のスピーカーで再生する『無人オーケストラ』も、公園や学校の体育館などさまざまな場所で行なって、その響きを体験してもらいたいと思っています」

無人オーケストラコンサート紹介動画(2020年12月9日)

無人なら三密を避けられる。演奏中にスピーカーのあいだをねり歩く体験も、子どもがとても喜んでくれた。次世代の聴衆と音楽家の育成もホールの大切な使命だ。

「コロナ禍も含めて,どんな状況下でもホールでの公演を持続できるように、また、障がいのある方も含め、あらゆる方がそれぞれの方法でアクセスできるような態勢を整えて、音楽の素晴らしさを伝えていきたいと考えています」

そのほか、横浜各地のパイプオルガンを聴く秋の「パイプオルガンと横浜の街」や、ケイト・リウやジャン・チャクムルら若手ピアニストが競演する「横浜市招待国際ピアノ演奏会」(11月6日)、「若くてユニークな活動」をしているオンド・マルトノの大矢素子を選定委員に迎える「Just Composed」(現代作曲家シリーズ/2022年2月26日)などについても語った。
撮影協力:横浜美術館 ©ヒダキトモコ
横浜みなとみらいホール(2021年1月〜2022年10月休館中)

[運営](公財)横浜市芸術文化振興財団

[座席数]大ホール 2020席

小ホール 440席

[オープン]1998年

[住所]〒220-0012 横浜市西区みなとみらい2-3-6

[問い合わせ]Tel. 045-682-2000

https://mmh.yafjp.org/

取材・文
山崎浩太郎
取材・文
山崎浩太郎 音楽ジャーナリスト

1963年東京生まれ。演奏家の活動とその録音を生涯や社会状況とあわせてとらえ、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。『音楽の友』『レコード芸術』『モーストリーク...

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