
ピティナ特級グランプリ・稲沢朋華さん(ピアノ)、最強の人生をつくりたい!

月刊誌『音楽の友』で、若手演奏家を紹介している連載「フレッシュ・アーティスト・ファイル」。当記事は雑誌のインタビューとはひと味ちがう切り口で、演奏家たちの素顔を紹介していきます。第15回は、ピアニストの稲沢朋華さんにご登場いただきました。

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...
2004年生まれ。今年のピティナ特級グランプリに輝いた稲沢朋華さん。現在、桐朋学園大学音楽学部4年生。ピアニストとしての顔に加え、作曲や編曲、管楽器とのアンサンブルなど、多方面で才能を発揮。活き活きとエネルギーに満ちた様子は、その素顔からも感じとることができました。

言葉にできない思いを、音楽にする
Q1 好きな食べ物は?
おにぎり。卵料理も好きで、とくにオムライスが好き。ほかにも海鮮、お肉…… 好きな食べ物はたくさんあります。ちなみに愛称は「こめちゃん」で、高校の入学式の朝、近所の田んぼに転んで落ちたのがきっかけです(笑)。
Q2 嫌いな食べ物は?
みかんの薄皮。バナナと内臓系のお肉、魚醤とか。独特な風味が得意ではないですね。
Q3 出身地(香川県)はどんなところ?
自然が豊かで、夏になると田んぼにいるカエルの声が一晩中響いているようなところ。子どものころは、家族みんなでエアコンを使わずに眠っていました。 いま思えば、そんな過ごしかたができたのもその土地ならではだと思います。
Q4 自身をどんな性格だと思う?
穏やかな性格だと思います。最終的には「すべてを幸せに変えられるタイプの脳みそ」をしています(笑)。落ち込むこともありますが、どんな出来事も「これはこのためにあるき、いまがんばればええや!」(香川弁)とポジティブに受け止められます。
感性は豊かなほうだと思いますね。人一倍涙もろくて、うれしいときも、怒られたときも、気がつくと勝手に涙がでてきてしまう…… 言葉にならない思いがたくさんあるのです。その強い感情が音楽に活きていると信じたいです。
Q5 本番前の勝負飯は?
ブドウ糖が30%ほど入っている「inゼリー ブドウ糖」。これがないと不安になります。ピティナ特級の三次予選のとき、家からこれを持っていくのを忘れてしまって大パニック! 近くのスーパーに駆け込みました。ファイナルのときは、合計で3本飲みました。少し年齢を重ねたら、きゅうりとか、みょうがとか、もう少し健康的なものに切り替えないといけないかな……。

音楽を通じて届けたいこと
Q6 ピアノを始めたきっかけは?
母がピアノの先生をしていたので、家にピアノがあって、妹と一緒におもちゃのように触って遊んでいたのがきっかけです。母から「ピアノのレッスンに行ってみる?」と声をかけられ、音楽教室に通い始めました。3歳のときのことですが、そのことはいまでもはっきり覚えています。
Q7 幼いころの将来の夢は?
子どものころは、人を助ける仕事に憧れを持っていました。小学生のとき、母が父の看病でとても大変そうにしている姿を見ていたことが大きいのでしょうね。当時はピアニストになりたいとはまったく考えておらず、家族からは経済的な面も安定している薬剤師になることを勧められていました。
うちは代々飲食店を営む家系でもあって、家族全員が調理師免許を持っています。家に帰ると誰かがキッチンに立ってる環境だったので、「家ではなく、どこか別のお店のキッチンで働いてみたい」と思っていた時期もあります。
Q8 音楽家になりたいと思ったのはいつ?
じつは100パーセント音楽家になりたいとは、いまも思っていなくて…… なんでもできる人になりたいです。自分ができる最大の部分を音楽として、これからできることを増やして、最強の人生を作っていきたい。そして楽しみたいと思っています。
たとえば、まつ毛パーマを自分でするのが得意なのでアイリストの資格を取ってみたいし、家族と同じように調理師免許を取りたい…… など夢はたくさんあります。
Q9 好きな作曲家は?
作風だったら、アンダーソン、ガーシュウィン、カプースチン。
勉強しているなかで、いちばん印象に残っているのはシューベルト。ピティナ特級でも、三次予選でシューベルトのソナタを弾きたくて、それを軸にプログラムを組んだほどです。シューベルトの作品を聴くと、音楽に命を燃やすというのはこういうことなんだなと感じます。
Q10 いつか演奏してみたい曲は?
ラフマニノフのピアノ協奏曲とカプースチンのピアノ協奏曲。
Q11 憧れの演奏家は?
師事している有吉亮治先生です。レッスンで先生が弾いてくださると、同じピアノとは思えないほど音色が変わります。「どうしたらあんなに素敵な音がだせるのだろう……」と思います。
先生は演奏だけでなく、お人柄も本当にすてきで、日ごろから人生相談にも乗っていただいています。師匠と弟子という関係性でありながら、音楽やピアノを教えてもらうだけでなく、人として心がつながっている感覚がある。心から、先生に師事してよかったと思っています。
Q12 Q11で挙げた演奏家の好きな演奏は?
有吉先生が弾くシューベルトのピアノ・ソナタを聴いて、感動のあまり涙がでてしまったことがあります。先生の演奏がきっかけで、「私もシューベルトを弾きたい」と強く思いました。それから、ラヴェル《ラ・ヴァルス》。技巧的なのに、同時に深い音楽性が息づいている。こういった技巧的な作品でずっと聴いていたい…… と思ったのは初めてで、衝撃を受けました。
Q13 練習にルーティンはある?
練習をしない! というのがルーティン(笑)。まあ冗談ですが、でも練習はあまり好きではないので、いかに効率よく練習するかを考えて進めています。最近は目標を低めに設定して、練習するようにしていますね。
本番前は「ゆっくりのリズム練習」を必ずしています。この時間は“作曲家と向き合う時間“だと思っていて、ここをサボると本番中に天罰がくだると思っています(笑)。この方法を徹底するようになってから、「ちゃんと練習したから大丈夫!」 と自分に暗示をかけられるようになりました。
Q14 音楽や、ピアノを弾くことを「辛い」と感じたこと、時期はある?
高校生のころですね。コンクールに挑戦していると、うまくいけば期待されるし、期待されるぶんだけ不安は募る。もし演奏がうまくいかなかったら、自分から人が離れていくのでは…… とつねに不安を感じていました。
ユーフォニアムを吹く親友に悩みを打ち明けたところ、「なんのために音楽を続けてきたのか考えてみたら?」と言葉をかけてもらいました。この問いに向き合っているとき、偶然ボランティアで演奏をする機会があり、聴いてくださるお客さんの表情を目の前で見て答えが見つかりました。私が演奏する理由は評価されるためだけではない! 人に喜んでもらうためだ! と。
じつは有吉先生も同じことをおっしゃっていて、今回のピティナ特級でも点数を取るためとか、自分をよく見せるために音楽を使うのではなくて「自分がなぜ音楽を続けてきたのか」とか、「音楽でなにを伝えたいか」に焦点を当てて演奏をしました。

人生すべての出来事が隠し味
Q15 1日お休みがあったら、なにをしたい?
遊園地に行って、ジェットコースターに乗りたいです。あとは、好きな料理をひたすらしたい!
Q16 お気に入りの本は?
絵本『1000の風1000のチェロ』(いせ ひでこ著)と、小学生のころ国語の教科書に載っていた『スズメは本当に減っているか』(三上 修著)です。普段はレシピ本をよく読みます。
Q17 最近感動した映画は?
韓国映画『7番房の奇跡』(イ・ファンギョン監督)です。バスのなかで大号泣しながら観ました。『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(成田洋一監督)は友人から薦めてもらい観ました。物語上に出てくる手紙の文章が感動的で、その文章を思い浮かべながらシューベルト作品を弾くこともありました。
Q18 趣味は?
料理です。スーパーで半額のおつとめ品を見つけるとテンション上がります。
Q19 これまで音楽を続けてこられた理由は?
音楽に救われてきたからだと思います。
プロの厳しい世界を知ってピアノを始めたことを後悔したり、投げだしたいと思うときもありました。でも生きていれば、うれしいことも、つらいことも数えきれないほどありますよね。きっと自分の人生に必要な試練は、いちばん学びが多いであろうタイミングで、神様が私に与えてくれていると信じています。人生のすべてが音楽の隠し味となって、うまみとなっていると思いたいですね。
Q20 20年後、どうなっていたい?
音楽を通じて周りの人たちとずっとつながっていたいですね。音楽を好きでいたいし、演奏活動を続けていたいです。あと、苦手なことは片付けと運動ぐらいに留めておいて、オールマイティな自立したかっこいいウーマンになりたいです!

日時・会場:2026年3月21日(第1部 13:00/第2部 18:00 )・ 第一生命ホール
詳細はこちら
『音楽の友』11月号(10月18日発売)の連載「フレッシュ・アーティスト・ファイル」では、稲沢朋華さんのインタヴュー記事を掲載。ぜひ併せてご覧ください!
「音楽の友」2025年11月号記事詳細はこちら





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